ICTを「文房具」としながら、学校全体でチーム学習に取り組む
「岡崎版GIGAスクール構想」の柱の一つである「学び方改革」に基づき、誰一人取り残さないことを目指したチーム学習に力を入れる愛知県岡崎市立六名小学校。
六名小学校では、全ての子供たちがチームで安心して学べる授業づくりをサポートするツールとしてスクールタクトを活用しています。
チーム学習を取り入れた授業風景、先生方のインタビューは以下の動画でもご覧いただけます。
チーム学習を推進し学校全体に活動を広げている校長の太田幹也先生と、ほとんどの授業でチーム学習を取り入れているという4年生担任の竹田真由先生、5年生担任の中西歩澄先生にお話をうかがいました。それぞれの指導の変化や実践によって子供たちにどのような変化が起きているかを垣間見ることができました。
3ステップを意識してチーム学習を実行
岡崎市立六名小学校は素直で明るく感受性が豊かな子どもたちが多い、市内で2番目の規模を誇る学校です。2022年度に同校に赴任した校長の太田幹也先生は、子供たちの長期欠席への対応を行っていきたいと語ります。
「全国的に長期欠席の子供たちの増加が課題になっています。その背景には、安心して学校に通えないという問題があると思うんです。授業づくりを核としながら、子供たちが安心して通えるような学校環境にしていきたいと考えています。そのために校長をはじめ教職員は、子供や保護者の要望にしっかりと耳を傾ける必要があります」
教室に個々の子供たちの居場所ができ、学校が苦手な子も登校しやすい雰囲気を作っていくという太田先生の方針は、岡崎市教育委員会が進めているチーム学習の考え方とマッチするものだといいます。
「岡崎市では心理的安全性を重視した授業づくりを広げています。わからないことがあれば『わからない』と言えたり、自分の意見を率直に口にできたりするような教室を目指しているのです。とても大事なことですが、私たち教員にとってはチーム学習は新たな挑戦。そのため、難しさもあります。そこで、本校ではチーム学習を3段階に分けて学校に浸透させていこうと取り組んでいます」
六名小学校では、現在、全学級でこのステップで歩んでいけるようチーム学習に取り組んでいます。どう実現しているのか、太田先生はこう説明します。
「2学期に全教員が1人1時間必ずチーム学習の視点を組み込んだ授業公開を行うこととしました。私もすべて見学し、授業後にはポイントを伝えています。教員の指導の転換を最も後押しするのは、子供たちの変化です。
チームにすることで子供たちには安心感が生まれています。わからない部分があれば仲間に聞けますし、真似ることから始めてもいい。勉強が苦手な子も授業から気持ちが離れずに取り組むことができています。また、周囲の子も積極的にチームメンバーに声をかけるようになっています。子供が変わることで、教員も自信を持って変わることができます」
ーチーム学習を行うには、先生がより個々の子供たちを把握して、ファシリテートしていくことが求められますよね。同校ではどのように進めているのでしょうか。
「個々の子供たちの把握にスクールタクトを役立てています。チーム学習の中で大事なことは、個の意見をアウトプットする機会をたくさん設けていくことです。もちろん対話の中で表現することもあれば、書くこともあります。
例えば、1枚目のシートに自分の考えや図を書いて、それを基にチームで対話をし、2枚目のシートにはチームメイトの言葉を受けて自分の考えがどう変わったかを書いて共有するといった取り組みをしています。また、授業の振り返りとして、学習課題に対する達成度とチーム学習の振り返りも行うようにしています」
先生たちは、教育委員会から発信されるスクールタクトの便利な機能や使い方の紹介を読み、各々で活用の幅を広げているといいます。
「チーム学習は、誰一人取り残さずに、必ず全員に学びがあり成長できる仕組みだと考えています。とはいえ、チーム学習を機能させる上で大事なことは、やはり教員が示す学習課題なんです。その重要性はICTがあろうがなかろうが変わりません。ICTは文房具のようなものであって、間違えても“ICTありき”で授業を行うべきではないと私は考えています。
時代によって道具が変わっても、学校が子供の健やかな成長を支援することに変わりはありません。子供たちがよりいっそう学習を楽しみ、安心して通える学校となっていくために、さまざまなことを検証しながら教職員全体で学校を作っていきます」
学級経営に大きな影響を与えるチーム学習
六名小学校で4年生を担当する竹田真由先生は、ほぼ全教科でチーム学習を導入しているといいます。一斉指導から授業方法を転換してからは、子供の大きな変化を感じていると語ります。
「以前は教員が前に立って、黒板を使って教える授業スタイルでした。しかし、チーム学習に切り替えたところ、子供たち同士で学び合い、置いていかれる子が格段に減ったんです。学習進度が早い子も『どうやったら伝わりやすいか』を考えて、チームの子に教えていて、それぞれに学びを深めていると感じます。
また、授業の転換は学級全体の変化につながり、クラスの仲が非常によくなりました。『クラス全体で遊ぼう』という声かけがしょっちゅうなされていますし、誰か困っている子がいると『どうしたの?』と声をかけ、支えようとする動きが自然と生まれています。チーム学習をすることによって、自分には仲間がいるという安心感につながっているのではないでしょうか」
竹田先生は、太田校長が同校の方針として掲げている長期欠席児童の支援にもよい影響を与えていると感じているといいます。
「長期欠席をしていた子供がほぼ毎日学校に通えるようになりました。学校嫌い勉強嫌いが一足飛びに解消することはありませんが、チームという居場所があることを感じているのかもしれません」
チーム学習での集中力を維持する仕組みとして、スクールタクトの有効性を感じていると竹田先生は語ります。
「チーム学習という活動がある上に、黒板や教科書、ノートと視点を転々と動かすことは、子供にとって煩雑な動きを強いることになります。また、みんなのテンポについていけないという理由で、授業が嫌いになっている子もいます。スクールタクトを使えば、そうした問題が解決されますよね。
実際に子供たちにも使い勝手を聞いてみたのですが、意見を伝え合うときに共同閲覧モードがすごく便利だと言っていました。今日の授業の中でも見られましたが、実際に画面に書き込みをしながら説明することができることで、教える側も教わる側にとっても理解が深まるようです」
また、教員が学習の進捗を推し量れる点も有効なポイントだと感じているといいます。
「一斉授業のときは、自分が前に立って板書をしてしまうので子供たちがどこまで理解できているのか、ノートを集めて見なければわかりませんでした。しかし、スクールタクトを使うことにより、リアルタイムで子供たちの理解度を把握し、声をかけてサポートしたりテンポ良く次に進めていけたりすることができるようになりました」
竹田先生はチーム学習と個別最適化学習のバランスを意識して授業を設計しているといいます。
「基本的にはチームで学習を進めていきますが、算数などは反復が重要な学びも多いので、軌道に乗るまではチームで取り組み、あとの応用問題などはどんどん個別に進んでいけるようにしています。スクールタクトで問題を配布しておけば、先に進んでいくこともできますからね」
ー竹田先生は今後どのような授業を目指しているのでしょうか。
「教員が指示を出さなくても、子供たちだけで学びを進めていけるようになっていってほしいと考えています。自律的に学ぶために、スクールタクトや他のICTを有効に活用していくイメージです。自分で判断してチームで協力しながら学んでいける子供たちへと成長していけるよう授業研究を続けていきます」
竹田真由先生 4年生算数(少数÷整数)の授業
(スクールタクトを用いた活動を太字で記載)
子供たちの間から自然発生的にICT活用の広がりが生まれる
六名小学校で5年生を担当する中西歩澄先生もチーム学習を積極的に進めています。その中でスクールタクトを用い、リアルタイムに子供たちの状況がわかることが非常に重要であると感じているといいます。
「スクールタクトに書き込んでいる様子を確認して、『こんな発問が必要ではないか』『新たな情報を入れるタイミングかも』といった判断ができます。サポートが必要そうな子に『こんなことを調べているんだね』と個別に声をかけることも可能です」
また、全ての子供がアウトプットする機会を設けられており、学び合いがチームだけでなくクラス全体に広がっていく点も大きなポイントだと語ります。
「以前は1人ずつ挙手をして発言してもらっていました。それを教員が黒板に書いていくような流れではどうしても時間を取られてしまいます。そのため、発言できる人数に限りがあるという課題意識を持っていました。チーム学習では少なくともチームの中では自分の意見をシェアすることになります。また、スクールタクトの共同閲覧モードを使えばクラス全員の意見を共有できます。アウトプットをしながら学び合う効果が高まっていると感じます」
子供たち同士の学び合いの中から、自然と新たな機能を使ってみる雰囲気も生まれてくるといいます。
「相互に学び合うことが浸透しているので、子供たちは他の友達がどんなことを考えているのか、興味を持つようになりました。私は共同閲覧モードを使って、クラスメイトの考えを見られるようにはしていたのですが、ある時、子供たちが自らワードクラウドの機能を使って、全体の傾向を把握しようとしていたんです。私はほとんど使ったことのない機能だったのですが、子供たちが自然に取り組み始めたので、それを全体に広がるように『こんなふうに使っているチームがあるよ』と共有しました」
ICTを教育のツールとして活用していきたいと語る中西先生。その背景にはこれからの社会を見据えた思いがあるといいます。
「スマートフォンが登場して、私たちはすごく便利になりました。子供たちが生きていく時代は、さらに便利なデジタルツールが登場していくことでしょう。そうした社会の中で、子供達には、“使われる人”ではなく、“使える人”になってほしいと思っています。学校の中で活用の方法や失敗から学んでいくことで、デジタルツールに振り回されるのではなく、便利な道具として活かしていくことができる人に育っていくのではないかと思っています。そのためには、学校で日常的に使えるようになった現在の環境を、私たち教員が上手に活かしていくことが大事なのではないでしょうか」
中西歩澄先生 5年生社会科(身近な水産加工品)の授業
(スクールタクトを用いた活動を太字で記載)
誰一人取り残さない授業を目指して
岡崎市教育委員会が進める「学び方改革」を受けて各学校で、誰一人取り残すことなく、それぞれの資質・能力を育むために、教員主導から学習者主体の授業への転換を目指す岡崎市。
今回は、チーム学習を段階的に導入することで、全ての子供たちがチームで安心して学べる授業づくりを進める岡崎市立六名小学校をご紹介しました。
続編として、次回はつながり合う安心感とともに、遊び感覚で学べる授業を目指す、岡崎市立大樹寺小学校の取り組みをご紹介します。
それではまた。
学びとマナビが、ひびき合う。
スクールタクトでした。