スクールタクトで情報科の遠隔プロジェクト型学習を実現~北海道大空高等学校
北海道大空高等学校は網走郡大空町にある町立の高等学校で、2021年に町内の2校を発展的統合して新たに総合学科として設立されました。全校生徒が約110名という小規模校ですが、寮が整備され道外から入学する生徒が40%とその割合も多いのが特徴です。
3年間を通して探究的な学びに力を入れていて、大空町が抱える地域の問題をプロジェクト型学習で考える機会にもなっています。ICT活用にも積極的で、1人1台のタブレットPCを授業や交流などさまざまなシーンで活用していて、スクールタクトも導入されています。
1年生の必履修科目「情報I」では、1年を通して情報科講師の横山北斗先生が遠隔地からオンラインで授業を行ってきましたが、講義・実習でもプロジェクト型学習でもスクールタクトをフル活用して順調に進めることができました。教室で生徒と対面できない環境でどのような学びを実現したのでしょうか。横山先生にスクールタクト活用のポイントを聞きます。
遠隔授業でスクールタクトが活躍
──授業はどのような流れで進めていますか?
前期は講義・実習スタイルで、メディアリテラシーや著作権、プログラミング、データ活用、情報デザイン、AIの機械学習、生成AIなど必須のテーマを取り上げてきました。毎回授業の初めにその時間の学習内容について情報提供と解説をした後は、生徒自身が自分で調べてインプットして、思考して、それを言語化してアウトプットするという流れで行っています。遠隔だからこそ、私が話すよりも生徒自身が活動する時間を長く取るようにしています。
学習に必要な資料や、生徒が調べてアウトプットするシートは、全てスクールタクトで配布しています。
調べて考える学習だけでなく、Scratchで実際にプログラミングを行ったり、Canvaでデザインをしたり、保護者の許可を得てChatGPTを触ったりする実習も行っていますが、その手順もスクールタクトで配布して生徒が自主的に進められるようにしました。
──遠隔だとやりづらいこともあるのではないでしょうか。
生徒たちの状況は教室全体を映すカメラでしか把握できないので、雰囲気や温度感はつかみづらいですね。対面だったら教室の中を歩いて回ってちょっとした声がけをすることもできますし、教員が近くに来るだけでもちょっと緊張感が出ると思うんですが、良くも悪くもそれができないので見守るしかありません。
その分、リアルタイムでスクールタクトの生徒画面をよく見て進み具合を確認して、画面共有して生徒に見ていることをアピールしています。スクールタクトは生徒画面を一覧でぱっと確認できるのでとても便利です。
──グループ学習はどのように進めるのですか?
現地にTT(チーム・ティーチング)の先生がいるので、グループ分けの際に声をかけてもらったりはしていますが、あとは生徒に委ねています。TTの先生が現地で丁寧に指示をするという方法もあるのですが、それをしないことで育まれる力もあると思うので、これも新しい授業の形だと考えています。
グループワークやディスカッションの時間が取れないときは、スクールタクトの設定を「共同閲覧」モードにして、ほかの人が何を書いているのか生徒同士が常に見られるようにして、お互いのアイデアに刺激をもらえるようにしています。
この共同閲覧や共同編集の切り替えがボタン1つでできるのがいいですね。直接話し合って意見交換させたい場面では話し合えばいいし、そこまでじゃないけれど他の子の意見も見て欲しい時にはスクールタクトで画面上で見られるようにすればいい。ぱっと切り替えられるので、状況に応じて協働的な学びに幅を持たせることができます。
私は別の学校でも遠隔授業をしているんですが、そこにはスクールタクトが導入されていないので、別のアプリケーションを使っています。そのアプリケーションでも似たようなことはできるのですが、スクールタクトを使った方が、生徒画面を一覧にして確認できたり共同編集の管理がしやすかったりと圧倒的に便利です。
プロジェクト型の探究学習もスクールタクトで
──後期はどのような授業をしているのですか?
前期でインプット中心の授業をしたので、夏休み明けの後期はアウトプットをメインにして、プロジェクト型の学習(Project Based Learning/PBL、以下PBL)に切り替えました。生徒がテーマを話し合って毎月1つのテーマを決めて探究のサイクルをまわし、12月からは最終プロジェクトとして個別に自由なテーマで行っています。
後期のはじめには、生徒に学習評価の目的や観点について解説した上で、自分たちがどのように評価されたいかアイデアを出して考える授業も行いました。評価規準の合意形成をした上でPBLを始めました。
──PBLの具体的なテーマを教えてください。
生徒が決めたPBLの課題は、9月が「半径5mの地域課題解決」、10月が「大空高校の紹介ポスター・ムービー作り」、11月が「AIを使い倒す共同制作」です。12月からは個人で違い、「寮の紹介Webパンフレットを新たに作る」や、「地域の病院に介護ロボットを導入する」、「AIを日常生活に取り入れる」、「自分に合った勉強法や睡眠時間を探る」など本当に一人ひとりバラバラのことをやっています。
──情報で学ぶ内容との関連性は無くてもよいのですか?
個人課題は最後に発表会があるので、その発表自体が情報デザインの学びにもなりますから、無理に情報的なアプローチをしなくてもいいと考えています。自由に自分の好きなものと向き合ってもいいし、課題解決的な手法で取り組んでもいいと伝えていました。
学校の中で自由にやっていいよっていう場面はそれほどないと思うんですよね。そうしているとだんだん自分が好きなものもわからなくなってしまう。PBLで「自由にテーマを決めて」と言われて、自分の興味と向き合う経験をすること自体に意味があると思っています。
プロジェクトの進め方は生徒に委ねていて全員のプロジェクトに一対一で対応しているわけではありませんが、相談があればスクールタクトのコメントでやりとりをしてアドバイスしました。
──生徒それぞれがテーマを設定した発表会はどんな様子だったのでしょうか?
生徒30名がそれぞれ5分ずつの発表+質疑応答で発表が行われました。googleスライドや前期で使い方を学んだCanvaでスライドを作成している生徒が多く、文章だけでなく、写真や動画も交えながらの発表で、読みやすい文字の大きさ、分量でプレゼンテーションを意識した資料になっていました。自作アプリについて発表した生徒は、プログラム画面やインターフェイス画面、そして実際のアプリの動きを実演していました。
発表テーマ一覧
電子書籍と紙書籍での記憶定着率の違い
寮の紹介ページが分かりづらいので新たにwebパンフレットを作る
canvaを使って動画を作成してみる
都市と地方でのコンビニエンスストアの役割の違い
気持ち良い朝を迎えたい
筆跡が人の印象に与える影響
AIアイドルの現状
FPSゲームで勝率を上げるには
イラスト認識AIの精度を試す
町内にマイボトルスポットを作る
プレイの姿勢でゲームの勝率は変化するか
ChatGPTと一緒に透明マントについて考える
AIにご飯のレシピと完成図を聞いて実際に作ってみる
自分に合った勉強方法を探る
音楽を聞きながら勉強するのは効率が良いのか
家庭の意識改善で食品廃棄物は減らせるか
色と心理的影響の関係
介護ロボットの導入について
テキストマイニングによる欅坂46と櫻坂46の歌詞分析
日本語は悪魔の言葉なのか
AIを日常生活に取り入れる
スポーツと身長の関係性について
配膳ロボットについて
投資で儲けるには
大地震を予測できるのか
自分に最適な睡眠時間を探る
カーリングの競技力向上に役立つアプリ開発
締切直前からChatGPTで素早くレポートを書けるのか
リラクゼーション法や入浴剤によるストレス軽減量の測定
自分に合う睡眠改善の方法
全体的にテーマ・問い・仮説・検証・結果・考察の探究のサイクルを踏まえた構成の発表が多く、質疑応答では探究の問いや仮説に対する動機や背景、あるいは探究の深まりや発展へとつながるような視点からの質問が生徒間で見られました。
また、大空高校は道外からの生徒は寮生活をしている生徒が多いのですが、放課後の時間に寮でお互いに発表の練習をしたり、先輩からアドバイスをもらったりしていたようです。寮だからこそ、ではありますが、先輩後輩で高め合えるのは望ましい関係性ですよね。
発表会は校長・教頭も見学して、教頭からは「完全にオンラインで、かつ非常勤で授業時間だけのやりとりでここまでできてしまうなんて」と驚きのコメントも出るほど、生徒たちの発表は前期のインプットや後期のPBLの成果が集約された発表だったと思います。私としても、これまでの授業で伝え・積み重ねてきたことの成果や方向性の適切さが対面で初めて実感でき、非常にうれしい機会となりました。
AIによる振り返り機能で生徒の書ける文章が増えた
──スクールタクトの機能でよく利用しているものは他に何かありますか?
「振り返りAI分析」はベータ版がリリースされた2023年10月当初から利用しています。AIの活用の経験にもなるので、PBLの振り返りを生徒が自分で振り返りAI分析にかけられるようにしました。
(※)KPT法:振り返りのフレームワークの一つ。課題やプロジェクトなどを対象に「Keep(成果が出ていて継続すること)」「Problem(解決すべき課題)」を洗い出し分析した上で、具体的な改善策としての「Try(次に取り組むこと)」を検討するという流れで行われる。
振り返りAI分析にかけると、「事実」、「感想」、「考察・要因」、「考察・仮説」、「結論」の5つの観点でどの程度書けているかが分析されるので、生徒は自分の分析結果を見ながら、振り返りの記述をブラッシュアップしています。どう書いたら5観点とも含むような振り返りになるのかを試している様子もあります。
この振り返りAI分析の機能があるおかげで、生徒の文章量が少し増え、書ける内容が変わったような気がしています。どうしても、感想や振り返りは書かせっぱなしになりがちなので、振り返りAI分析ツールで一段階リアクションが返せるのは教員にとっても非常にありがたいですね。生徒にとっても振り返りをさらに振り返る機会になって、非常に良いことだと思います。
スクールタクトで授業設計の幅が広がる
──スクールタクトは遠隔での情報の授業に役立ちましたか?
むしろスクールタクトにこんな機能があるからこそ、こういう授業のデザインができたという側面もあり、非常に役立っています。
情報Iは問題解決をひとつの大きな柱としている科目です。問題を発見して、解決策を考えて、それを試して結果を分析、考察するという探究的な学びのステップをスクールタクト上に集約して記録しておけば、いつでも振り返りながら学習を進められます。生徒が自分の今のステップを可視化できるので、ただ漠然と課題解決能力を高めようとするよりも効果的だと思います。
スクールタクトに学習履歴の情報が残っているので 生徒ごとのポートフォリオ機能を使うと自分が1年間してきたことを振り返ることができるのもいいですね。年度の終わりには全体の振り返りをしてまたそこから学びを得られるようにしたいです。
今年度はインプット型の講義・実習とアウトプット重視のPBLを前期と後期で分けましたが、来年度以降は両方をもう少しミックスして、学びの文脈をより重視した授業デザインをしてみたいですね。例えば、発表のスライドを作るというアウトプットの場面が先にあって、どうしたらいいスライドになるか知りたいという気持ちが生まれてから情報デザインの知識のインプットをするというような、生徒が必要性を感じられるストーリーを描けたらと考えています。
北海道大空高等学校
所在地
北海道網走郡大空町
インタビュー対象者
北海道大空高等学校 情報科講師 横山北斗先生