短歌連作,「冷戦歌」副題,「『ガンダムSEED FREEDOM』を『文明埋葬』する試み,」

あきらめて河面より目離く泛びゐる水死ののちの白き紅葉

いとはしき日本蜜蜂の育ちゆく巣孔へかへれ ひしめき窩・窩

労働党集会のがる密告に隣人みとがめをりしも隣人

基督をふかく愛しぬ日曜も釘塗れの椅子にならびて

鐡条の網目深くに食ひ込みぬ指 電流のごと警邏は駆け来

緘口令敷かれて真昼のマン・ホール暗がりに開き呑む 鼠一匹 

革命をまつ市民らは砥ぎをりぬ庖丁刻む苺の肉、肉

鮮紅の鮭鉤釣りに日本ふと悼まし 身罷れる大母

灼鐡の靴履く継母 端女の胸中に踊るグリム童話

国防の婦人の友くちずさむ「自由の歌」戦争に肖 苗刈時に

  
市民の自由展より出でつ確実に蝕まれありき腐刻版

黙黙と馬鈴薯を食み洋燈にうかびあがる貧しき家宅

赤き荷馬車にゆられ来 雌牛繋がるる舎に衰弱死まで

牛乳腐敗の后あらためて確かむる日日 乾酪に巣の蛆

熱病に肖て基督の画の肌黴斑にも蓋ふ 黄熱病

日本脳炎接種の幼時割礼の診察室にホルマリンの紫陽花

右翼とは寧ろ右翼を憎しみ 血の筋きざす雲丹と腎・肝

元貴族院・今参議院召集の酸舌を突きて苦き梅の実

花瓣の桔梗ずたずた嵐過ぐそののち黄変に揉まれつ

白斑病のごと揺るる陽炎の襯衣 戦争の町より一里

  
裂傷の柘榴一塊なまなまときずつきて朱の種衣のつぶ

黒き膚誇りて干潮歩ぶ青年 つつがなき奴隷史が幕間

悪しき自由 気密室の鶏卵白きを透かしをり陽光燈

日光浴のをとこ膏油に濡つ 下男へ厳しき自画像描かせ

白昼に炙られて佇つ夫人の影 黒く滴る匂ひの灼けて

襯衣脱ぎてぬけがらの袖長長と垂らし日に曝さるる 傷み 

硝子越しのストーヴの蒼白の火以て祷る 平和の日

玉音の今更思ふに鳳仙花四分五裂せし花弁図まへ

有耶無耶に戦後の終りすみやかに迂回路へ呑まる渋滞の列

戦時とは映画へ掛かる興行の広告主にありあまれる 富

           *  

死せる日本 祝はれて花嫁衣裳は花束のごと売られ来新興国 

死火山の絵架かるばかり 遠方の祖父の家を出奔す青年も老ゆ

ニュルンベルク楽団交響曲「勝鬨と平和」なりひびく 家

底浅き平和 自衛隊員急募のポスターの増ゆ内科医院

しがらみの藤蔓の葛藤藤棚は棚の容にもつれをりしも

やはらかに不犯のこころ冒す赤葡萄林檎酸ふふみ 舌刺し

愛国の主客の替はり いま祖父は戦災を離れつつ有る

焼跡に孤児院の建ちツベルクリン注射痕のケロイドの腕 

結核菌抑へられ喀血も絶ゆ町 黒き血の痕干してシーツ

闘争の季節喪はる菜の花の浅黄ゆれ ユダよかへるな

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