短歌連作,「敵性言語」
神無月葬儀店の花くづれ忌中の家ひとときは伽藍堂
口中に夏蜜柑しぶく呑まば呑めよと緘口令のごと町
府庁舎ぎらぎらと炎暑に立ちてつめたき官吏府民税の徴収
国家とはただ一枚の催促状語るにたらず 政府ハ奴隷ヲ
根幹のねぢれて混じりひともとの椰子の樹糾へる被曝地に
をとうとは青、あには赤=赤は敵、青は味方 瑕疵一つあらず等式
ひと死なしめ合ふ砲撃音と薬莢を美しといへども家の地震きしみ
軍事工場賑ひて弾道弾すくと建ちぬ 三菱油彩鉛筆
町の画廊華やかに行軍式過ぎぬ隊列の貧窮に乱れて
ペンは銃よりも脆きしかれども罌粟の花比喩ならず育ちぬ
軍艦つぎつぎ沈み込む模型店の棚煤被り縮尺千二百分の一の大和
水夫鉄橋の欄干に集きて砲弾抱ふ糧が爲のみならず
水耕栽培青稲そよぎたつ田園死を憂はずいかなるゆふべ
為政者常に風見鶏差す風向を訪ぬ影も重なりをらば同じく
旭日差す富裕階級悩めるは兄弟諍へり家継ぎ巡り
皇帝の最後地下室にて一族殺されカエサルの血染めの襯衣
徒手市民広場にて斃れ血の日曜日みどりごのみ泣きぬ
革命政府打倒さるべくして戦禍に 国営放送局の棒読み
裸婦わざわざと横臥せるを塗潰しし祖父が鉛白画
個人と群衆淋しき構図に隔てられゆくすゑ狼少年のみぞ知る
「国民党」応援演説市中にて諤々と政治家ががなりて
色褪せて公布看板錆の筋総選挙にとち狂ひたれば投ず一石
戦艦ポチョムキン貸出中の黒南風になぎ倒さるる図書館の花
オレンジ育ち過ぎたる果樹園の梯子小梢の丈を越えずに
兵隊とゴドーを待ちぬ椅子のうへ木薔薇の造花戦ぎてをりし
祖国捨てぬ十月の雨と霧モスクワ冴え冴えと国旗ひるがへる
酢漿草鎌以て刈り尽して刈敷に鴉麦植えむ 民族狂詩曲
正義とは踵のむかふ影を引き町壁八月に別たるるかな
ラフマニノフ「鐘」の奇相に死の憂ひあらむ疫病町に阜うづたかく
埋葬許可証十二ルーブルならず兵士遺棄されたるままに広陵
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