短歌連作,『灰と雨』

肉体躊躇しつつ突如熱南風に煽られかつて砕けたる硝子戸 

歩哨の立ち尽くしたるまま陽炙りの市敵ならば肯なる諸々を

工廠皆日に没すも蝉の声瞬間をたちどまり鳴き初めり

晩夏経るも経ざるも収めては二世帯住宅の礎に蟻這ひ交はす

瀝青の壁へ直射日光照りかへし放射線に灼かれあり鉄格子

雑沓に膾炙せばただのひとひとり拇指の火傷ひり付きて苛立たし

町燃ゆる蜩につつまれて屍は祈りのかたちに脚を閉ぢたり

日晒しに剥かれたる無花果の色肉充ちて忘却は死よりもおそろし

鐘落ちて風しづか呻きをり櫓台は崩れ「神の国」遠ざかりぬ蛹蝶

昨日見ざる否見えざりし金の牡牛廻りを狂喜乱舞せる群衆爛々

疾風に窓硝子撓ふ日は明けつ鉄片として日本航空機過ぎりぬ

雨埋めて黒く染まりぬ校庭に旧校舎撤去されて剥き出しの椅子

桜の木二階を越えて育ちたるも飴色の空蝉の遁れられず

新校舎の時計影へと熔けずしてその時に止まれ狒狒色の膚

夏盛り延々と鋸坂を照る炎暑にたち尽くしをり振り返りつつ

原爆忌アイスクリーム店に並ぶ苺アイスの果肉断片


プルトンの泪は黒くなきがらの咽喉潤せり地に苦艾

遺骨数多埋めて公園建築の均一瀝青果樹へつづきぬ

長崎の鐘広島の鐘擦れ違ひはじめたる夏時計草

こころみはうらぎりを慾し黄の襯衣へ蜜蜂纏はりて救はれず

屋根の十字架爛れ墜ちたる影牽きて入る人影も炎ゆるごと揺れ

青空へ磔刑にせよ空襲のつばさ諸腕ひろげて晩夏

信ずるも信ぜざるも呑み睡蓮のひらき枯るるまでとづるなし

落陽の向日葵の根に埋葬すみづからの耳斬りたるをとこ

蝉時雨夕にさしかかりて已みぬ色衰へる定家葛に

基督の墓否殉教徒の墓へ鳴き降りやまじ八月の蝉は


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