ノスタルジア

故郷を去った鶺鴒の羽音が窓の死へと揺るぎなく喃語の壁に掛けられては包装紙には林檎の花の恐恐たる喫水域に泛べたかのごと麗しくなりますのを眺めて居りました
少年の喉に降る雪はつまり緋色の暴漢の襯衣に敢えなくもこと切れて居りますものですから寓意の橄欖には並並と湛えられて居ります男娼窟の悪と光の束を結いませる絹の竪琴の沃野は
放埓の華の容貌には尖った鼻筋の陰があどけなく明るんで居りまして敵わなき祖国への帰途へ張り付いて居りましたのは蜘蛛の車の輪の轍ではございませんでしたでしょうか、
海棠のうち開く精神病院の中庭の樹には幾つもの嬰児の臍の緒が掛けられて居りまして現も闌けて程無く致しましたなら屹度甘く酸い腐敗した薔薇の鍵を差し回す蝶群の写実主義は
脆くも硬い青年の胸倉に椿の縦糸をうちわたしていらっしゃるのでしょうから蜂窩の夢の誕生までの一週間を待ちがてにして居り、水と空の規則的な戒律が比いなき格調を湿りつつ
乾き切った青馬の喉が畔を舐めて居りますその油彩を殴り付けたかの様な筆致は延延とふたたびは来ぬ季節風の回顧展を写像に映して居りました
彼等の行く異邦の故郷の花の名は薔薇であり渦中に溺れる蟻の翼は透明の強度を保ちながらただ一つの空を担う航空艇の椅子にも敷き詰められて居りました
孤独を拭う花粉の野には吊るされた遺骸櫃の隙間よりそのかみの孤絶をたどたどしくつたう細指のみが音を扼殺して居りましたものですから死と記憶の水の秘密を必ずや携えて
かの男娼達へ慰みの麻酔針を睫に零して居りましょう、つかのまに過ぎ越して仕舞いました細緻な凱旋曲の夢にも黄金の鐙と物見櫓から霧鐘塔へ至るまでもの洞がのぞいて居りますから、
最終審議の爾後には詳らかにほどかれてゆく石膏の花束をきっと約束してくださりませ、だからこそこの死は永続ではなく瞬く間に忘却の水へ流れ去りゆく者とわかき梢の緑差す
あの庭を偲ばゆる名もなき私達の記憶の音を海調音にも聞くでしょうから、

ふたたびを
帰り来る
鳩よ
僕の名を呼べ,

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