元素・「暗黒」

第一例――鶏の笑い
　　
　
累卵増殖す皿の上ひとり立ち黒聖母天地を差しぬ　鶏の球乗

黒婦人復活の黒彌散寝台へと華燭蝋燭の灯がゆらゆら

鳥達の壁画、仮面、髑髏など集めて牝鶏女司教鶏連れて

處女ジュリエットの棺立ち会へる二人鶏頭を擡げて

塋域に紋章円十字を祀り裸婦授与の外套墓穴へ

霊廟は裸婦像ばかり――商人と青年あらたなる處女を取引す　分木

雄鶏の歓声　番ひの屍寝台ゆ血まみれに俯す部屋を出、

若主人様、暖炉へいかが　たつたまま眠りしそびらの陰に鶏

歌劇座の貴賓席、婦人二人へ銃取り扱へるたくましき雄鶏

寝衣婦人壁に隠れて鶏の獣に音立てず　足下に倒る灯
　　
　　
骸骨姉妹拐かす青少年兄弟なれは兄の好色へは組せじ

バッカス祭または婚式雌雄乱れ乱れて踊り暮るまで

機関車の立棺窓を開け出づる婦人群鶏頭夫たちに抱へられ

神罰　稲妻実験のテーブルへ磔の鶏頭夫裸婦一人づつ

朦朦と煙籠めをり実験室宙吊りの手と、避難群衆

ホテルロビーの鞭打臺へ縛られ裸婦打てる刑務官へ鶏冠

猟野決闘火の銃撃ちあへり鶏累々たる屍残し

とくとごらん！鏡臺に首吊り婦人死せり鶏紳士勝利の後に、

汝絞首に処す　鶏紳士宙づりの寝室に迎へ来は、

屋上へ記念三色旗建てて鶏頭夫、無頭婦人のほほゑみ

　　
　　
　　
もう一例――イースター島
　　
　　
開胸開腹図のなかグロッタ、石の臓腑、逆子を収めて

カカオに花苞ひらき蹲る土地の洞窟の石なりし男

石面の手鏡にふかくかなしみ夫人へ擡ぐ蟷螂の鎌

額に球果　石像の貌隔てたつ十字窓のむかふミカエロ

石なりて紳士緞帳裏ゆ曳く後ろ髪頂へ白鼠

舞踏会の支度　壮年の死体挟み石にもつれ呑まれり誰かは

逢引に並べり　青年君子よりイースターの面へ向き婦人

焔の松明あきらかなり石の紳士情事一幕へ立ち入りて

汝姦淫する勿れ　孤燭をもて二人溺れきに宙吊りて飛蝗

シェルブール、或は驟雨のパリ市行く石の青年　娼婦はなれて
　　
　　
紳士・裸婦の品評会写る泥酔酒店「もつと虫を！」　

葡萄酒瓶尽く砕け散るに石青年マヌカンをしげしげと眺めき

殺人、或は強姦の一場面壁掛の電話鳴りき電気燈点りき

眸開く夫人の口押へて石の男犯しき　姦淫する勿れ

古代舞踏の一場暗闇の広間へ石の酋長諸手へも石榑

房のバナナ、虫の骸へ射す光影の一人を落しをりしに

光芒審らかにす石洞に一体の骨　殺めきを運命てふ

石男　うち悔やみ坐りきを隔て梯子の上の婦人諸足

退場せり男、婦人をうち呪ひ岩の洞窟ゆ出でられず

イ―スターに種々の慣習は残りをり。石の仮面、船荷、豆の実