聖霊序論

眞夜眞青少年のみぞおちに陰る肋骨襯衣につつめど冷めず 

日時計に楯る一人影差しきに持つ枯無花果の襤褸翻翻

青紫陽花一枝を精霊泛ばれずに受く水中鍾乳洞に
     
鐡の向日葵繊毛なせる針植物園にベル悲鳴せり死生学

受難黒き六つの十字架に円形舞踏図譜足摺踏みき

鳥羽搏羽墨染の草花図つゆくさ百の苞つづめやすらへ

国家遠近法内閣議事室へ時計刻みに黒き舌・蘭科

軍歌くちびるに中て暗緑の自衛軍死ね、といはずきみら

ならず英霊泪かきやり遺書に母子つながりつつましく死ね、と

殉教の夏更衣蚊帳吊草に留まりて油虫つぶめきてそびら 

 
薔薇病・白紋羽蝶ひしめきし草葉帷子眠らじ灼・八月

聖隷学園清ら耶蘇鞭打ちの画かかりて青年の襟へ入る雪

否駆除天使人形ならじ人勲二等が泥へ穢れつ

襟章の櫻花縫針ゆびしづく蒼ざめて寡婦をのが影見き

聖柩に凭る百合・蠅仰向けに水銀槽へひてる知恵の子

土耳古行進曲さざめける緋の薔薇揉まる白鍵ならべてゆび

蓄音機円盤が凹凸をなぞらへて記憶と呼ぶ 細き針

卵巣ゆ緋の繁縷の蘂五弁花ゆれをりし天使やめず笛

領野よりはなれ駒食む百千草秋虫の呼鈴鳴く殉教図

夏‐告天子死しき花叢影の藪焔のなかの一人やかれず

 
天使優生学さかしまに愛しあへるスペードのジャックに折目

軍装の襟入る菊花針留めに威勢の記事上梓せしは汝

良夜なり 死者統計を下回り出生数産院にまばら床

死水を汲み潤へり枯葉散る庭へをりしも雪花幾何学

正統防衛唱ふ青年健康に死せり一卵性双生児のダリア

報道特派員テレヴィゆ遅蒔の菊科植物苗代愛しすぎき

蛇の胴切れ喇叭管へ六腑副はず自動人形時計の機構、のうつほ

線形動物解剖へ脊柱の骨かがむ 静電気界を跳ぬ単性‐天使

系統樹分節し民族と民族憎しみの父‐家系図へ生存争ふ 巷に

西風へ傾る自転車の車輪からまはる晩熟に殉教者またも一人

 

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