立冬雪景図

  
唐獅子牡丹図屏風たてるそびら正中線へ等分されき

胸像に鳩尾・骨なく背信に嘗て突き咲きぬ唐菖蒲

秋枯葉炸薬匂へり鼻を突く百合科植物ベルの鐘舌

暗殺へ瞋る喝采すもおなじ僭主へ放つ蚊帳吊の花

百年を繰返し日章の印血染めの褐色 死者よ殖やせよ

戦争の瞬く間にも草摺の色流れ弾受く若者のかず

敗戦と戦勝別つ軍ありき今國家へ殉ずことのをろかに

西洋犬種交配図鑑に神ならざる人間の傲り讃へ進化論

チェホフ観劇者並め椅子へ夏咲きの扁桃花散り靑

抒情歌の叙事詩へ代る頃合に殺人事件の緻密小説

  
  
世は黄昏なべて宵なれ明星の銅の燈てらせ花樒

全き死告ぐ蘇生医療病棟にははのはははユダヤびとの血

水琴窟空洞へ一滴落つ緑葉のはだらふかまり星の寂寞

穹窿の天心へ眼窓空き自動人形・天使午后時計へ

蓮華天人図楽人ならべて少年へ逼り来 愛致死量に至らば

夜長にも聖霊の座仏葛しろき帷子襟かたき霜

戦争前夜静か帰り来百年を経て骨壺の石 ははいづこ

絶縁果てしなくこの若者他界を憎しみ日本に八月

軍歌唄へ九官鳥おそろしき日章流す国営テレヴィに

黎明猶も昏き運命いまあらはれず死せる天使 翼賛へ釘

  
  
鉛白の耀ふをとめポール・デルヴォー画伯忌に肉桂の森へ佇ち

薔薇の胎種ふふみふふらみ失墜の紙飛行機四等分節の十字

麥秋図一本の髪もて量る時熟れき遅蒔きの畑へ雨ふらむ

雨師亡失草つゆほどにも有らじ責任者代る代る濡ちて

交響曲第十二臺の磔の礎降り来瞋恚の神別けりゆくゑ死

魘夢なり 蛇苺の実挽き躙るをとめ廻しき自鳴琴箱

月光のみだりなること棕櫚の実橙へ染め白亜に婦人

闘争に暮れず加虐今迫害史ユダヤびと殺むるもユダヤびと

人体密室実験 一グラムの塩と蘇生医学の心臓の拍

マニエリスム図像学へダチュラ金色に枯れ厳冬の燈揺る葎

  
  

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