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ただ一人を信じたとき~「舞台裏のルーレット」藍崎万里子著 を読んで~

統合失調症関連作品感想文集ーno.18
「舞台裏のルーレット」 藍崎万里子著

<ただ一人を信じたとき>

世界には黒幕がいて、全ては自分を脅かすために仕組まれている。
精神科で治療を受けながらもそんな確信を持ち続ける主人公と、現実の孤独に耐えかねて亡霊になった魂とが織りなす奇跡の物語。

いずれもこの世の常識を超えているけれど、孤独という点で現実に根を持つ同士。
病的な不思議と霊的な不思議が出会い混ざり合ってゆく、不思議あふれる魅力的な小説です。


人はみな裏切り者だと思っていたけれど、ただ一人を信じたとき、世界が変わった…

たとえ病的なものであれ、自分がいま住んでいる世界を捨て、他人が現実と呼ぶ別の世界へと移るのは、崖を跳び超えるようなものかもしれません。
薬はその扉を開くだけで、実は誰かへの信頼や大切な思い出が、見えない道連れとなって支えてくれているのかもしれない。
そんなことを考えました。

その痛みに、ふいに懐かしさが込み上げたが、何を懐かしく思うのかが分からなかった

切なく美しい一言です。
対象自体を忘れてしまっても、懐かしさとして心に宿る何かの力で、もう孤独ではない。
姿かたちのない温かさに心の傷からの回復を支えられた、個人的な体験を思い出します。


面白くて深い。
短編で読みやすく、おすすめです。
kindle unlimitedで公開されています。


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