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10月はたそがれの国

ドイツの10月から12月にかけては、私が一年で一番好きな季節。木々の葉の色が変わるにつれ、次第に日の照る時間は短くなり、ある日は一日中霧に包まれ、やがてAdvent(待降節)が始まります。そして10月になると必ず読みたくなる本があります。今年も書棚から取り出しました。Rey Bradbury『The October Country』です。この短編集は以下のような散文から始まります。

“…that country where it is always turning late in the year. That country where the hills are fog and the rivers are mist; where noons go quickly, dusks and twilights linger, and midnights stay. That country composed in the main of cellars, sub-cellars, coal-bins, closets, attics, and pantries faced away from the sun. That country whose people are autumn people, thinking only autumn thoughts. Whose people passing at night on the empty walks sound like rain…”

Ray Bradbury, The October country, Ballentine Books, 1996

現在手元にあるのは英語の原著ですが、最初はもちろん和訳を読みました。和訳タイトルは『10月はたそがれの国』とつけられています。英語の原タイトルより遥かに素晴らしい。もし、和訳タイトルが『10月はたそがれの国』ではなく、直訳の『10月の国』であったとしたら、私は決して書店でこの本を手に取ることはなかったでしょう。

5月頃から私がその訪れを待ち望んでいた10月が、今日から始まりました。ところが、何ということか、今年は全く10月らしくありません。この月の末には雪が降ってもおかしくないくらいなのに、天気予報によれば明日の気温は再び25℃を超えるそうです。

私は春の生まれですが、レイ・ブラッドベリのいう「秋の人」だと自認しています。多くの人が嫌うドイツの暗く長い晩秋から冬の季節、少なからずの人が冬季鬱を患うというこの時期が一番落ち着くのです。毎年この季節がくると、ドイツに住むことができて良かったと思います。一刻も早く霧が立ち込める人気のない薄暗い道を、枯葉を踏みながらひっそりと歩いてみたいものです。雨のように。

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