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『マリッジ・ストーリー』。弁護士ノラに気を取られて、感情移入できなかった件

Netflixで話題の作品『マリッジ・ストーリー』。第77回ゴールデングローブ賞で最多6部門にノミネートされてるし、口コミ評価も高い。

だから観に行ったのです。脚本家養成学校で働いているわけですし。
でも、アップリンク渋谷からの帰り道、「あれ、全然グッとこなかった……」と思ってしまった。

だから、軽くパニック。脚本も演技もたしかに素晴らしかったのに、まったく感情移入できなかった。

これはもはや、ぼくの感性の問題かもしれない。やばい……と思ってあわてたのであります。

スカーレット・ヨハンソンとアダム・ドライバーがダブル主演したノア・バームバック監督作「マリッジ・ストーリー」(ドラマ)が作品賞、主演男優賞、主演女優賞を含む最多6部門にノミネート。同作は、女優のニコール(ヨハンソン)と監督兼脚本家のチャーリー(ドライバー)夫婦が抱える、結婚生活への葛藤と離婚に向かう心情を描いた物語。

テーマ、モチーフ、素材で分解してみた

ということで、ストーリー性やシーンのディテールに流されることなく、シナリオ・センターらしく『シナリオの基礎技術』を基に、冷静にテーマ、モチーフ、素材の大枠から、『マリッジ・ストーリー』をぼくなりに分析。

シナリオ・センターは、1970年に優秀なシナリオライター・脚本家、プロデューサー、ディレクターの養成を目的に、新井一が創立。
ジェームス三木さん、内館牧子さん、岡田惠和さんなど600名以上の脚本家、小説家を輩出するの学校です。

『マリッジ・ストーリー』は、
結婚生活ですれ違いはじめた、気の強すぎるニコールと完ぺき主義すぎるチャーリーが、離婚手続きに翻弄されながら、二人の内省する姿を通して、つらくとも自分と向き合う大切さを感じる話。

だと思います。

ぼくなりに感じたテーマは、
つらくとも自分と向き合う大切さ
でした。

なので、劇中で心情を吐露しあうシーンとか、もの凄い迫力なわけです。

映画から感じ取ったテーマ自体に、ぼくはなんの違和感もなかったわけです。

『離婚』というモチーフ

テーマに違和感はない。
としたら、モチーフかもしれない。

モチーフというのは、テーマを肉体化するためのもの。

例えば『キングダム』なら春秋戦国時代末期の軍隊、『弱虫ペダル』なら、自転車競技。『カメラを止めるな』ならゾンビ映画製作、『カツベン!』なら、活弁士。みたいな感じです。

『マリッジ・ストーリー』なら、離婚。

で、別に離婚がモチーフであることに、これまた違和感はありません。離婚のあれやこれやを通して、自分自身と向き合い始める、そして相手とも向き合う……むしろ、テーマとモチーフに関しては、グッとくるわけです。

グッとこなかった正体は、素材かもしれない

素材というのは、モチーフをより具体的にしたもの。天地人で整理するとわかりやすいかもしれません。

ちなみに、天地人とは
天:時代・情勢
地:場所・舞台
人:登場人物

『マリッジ・ストーリー』でいえば、
天:現代
地:アメリカ ニューヨークとロサンゼルス
人:女優のニコール
  監督兼脚本家のチャーリー
  二人の愛息子
  離婚弁護士のノラ

ここまで書いて、ぼく、わかりました。グッとこなかった理由。それは、ニコール側についた離婚弁護士ノラの存在。

弁護士のノラは、ニコールのためとはいいつつ、半分以上はやり手弁護士としての自己顕示欲も手伝って、ぐいぐい離婚手続きを進めていくわけです。ニコールも、チャーリーも円満な協議離婚を望んでいたのに。

ノラの存在が、二人にとっての障害のひとつになることで、物語は動いていきます。

なので、ノラは『マリッジ・ストーリー』の中でキーパーソンの一人です。

日本人にはわかりにくいアメリカの弁護士の感じ

で、このノラとそのあとに出てくるチャーリー側のやり手弁護士も含めて、アメリカ離婚弁護士の雰囲気が、The日本人のぼくには、ちょっと理解できなかった。

離婚弁護士の存在は、物語の核の部分ではありません。あくまで、ニコールとチャーリーの感情を引き出すためのリトマス試験紙みたいなものです。

でも、なんかノラの美魔女感がすごくて……

物語に集中できなくなってしまった。

酢豚のパイナップルみたいな、ステーキに添えられるニンジンの甘いやつみたいな、ぼくの中でノラはそんな位置づけ。主張強いな、みたい。

だからといって、ノラの演技どうのうではないんです。ぼくがひかかってしまったのは、アメリカの弁護士文化。物語のテーマやモチーフではなくて、素材から感じた文化的なへだたり。

文化的な壁が関係ないシーンは、やっぱりグッとくるわけです。
例えばリンクに挙げた、ニコールとチャーリーがお互いに心情を吐露するシーンや、映画史に残るであろう門扉を閉めるシーンとか。

だって、そこには人種や文化を超えた人間なら、だれもが多かれ少なかれ抱える感情が描かれているから。

でもぼくには、ノラの酸味が強くて…
ぼくみたいに、ノラが気にならなければ、きっと『マリッジ・ストーリー』の物語に没頭して、感情移入できるんだろうなぁ~、アメリカ人うらやましいと思った日曜の昼下がりでした。

わき役の出し方って、むずいですね。

シナリオ・センターでは、講師の柏田さんが色んな映画評を書いてくれてますので、こちら是非! 


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