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耳コピが苦手なプロの作曲家がやってる、アレンジ上達方法。(全文公開)

こんにちは、スキャット後藤です。フリーランスの作曲家です。今回は耳コピが苦手な人がアレンジうまくなる方法を取り上げようと思います。その前に、、、

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▷耳コピが苦手な人が、アレンジうまくなる方法。


先日、講座受講生の個人相談しました。今年になって「音楽で食べていきたい!」と思ったらしく僕の講座を受けてくれてます。思うところがあって「次の相談までに曲作ってきて」ってお願いしました。そして曲が送られてきたので、聞きながら細かくアドバイスしました。

「うーーん、まずアレンジが何なのかをちゃんと把握した方がいい」


受講生の楽曲はアレンジというより伴奏って感じでした。例えば、リズムを適当に打ち込んでピアノやシンセでコードを刻めばそれっぽいオケができます。でもそれだけでは"アレンジ"になりません。"ボーカルが歌えるカラオケが作れる=アレンジ"ではないのです。そこで僕はこうアドバイスしました。

「何曲か耳コピして曲を再現してみましょう。どういう楽器がどういう風に使われていて、それがどういう役割があるか理解しましょう」


絵でいうとデッサンがそういう役割なのかな?と思います。なんとなくボンヤリ見てわかったつもりしてるけど、実際に絵に描いてみると「あれれ??」ってなって、、、人の顔を描こうと思っても、「耳ってどこから生えてるっけ?」「目尻ってこんなんだっけ?」ってなりますよね。デッサンすると細部まで具体的に理解することができます。

そんな風にアドバイスした僕ですが、実は今までほとんど耳コピしたことがありません。耳コピがめちゃくちゃ苦手なんです。耳コピできない僕がどうやって音楽の作り方をマスターしたかというと、各楽器がどういう風に積み上がって音楽になってるのか分解しながら意識しながらずっと好きな曲を聞いてたからです。音楽をはじめたアマチュア時代から、いや楽器を触ったことないころから、ベースだけ聞いたり、ストリングスのラインを口ずさんだり、コードの流れを意識して聞いてみたり。なので

・メロディーの隙間に合いの手いれるといい
・コードの移り変わりのトップノートの動き大事
・このメロディーを引き立ててるのはこの裏メロ

みたいな発見をリスナー時代からやってたのです。おかげで、DTM機材を買ってすぐに曲作ることが出来ました(今聴くとヘボい曲ですが)。

今でもいろんな音楽を聴きながら自然と引き出しを増やしてます。沢山曲を聞くより、好きな曲を何百回も聞ことが多いです。ということで、今回は耳コピが苦手な人がDTM上達するコツを少し書いてみようと思います。

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題材は、最近ぼくがハマってる、なにわ男子のデビュー曲です。

「初心LOVE」と書いて「うぶラブ」と読みます。デビューで初々しくてウブな楽曲。むちゃくちゃフレッシュです。「ウブ」に聞こえる要素を探しながら、アレンジの引き出しになるようなことを見つけていきましょう。これって仕事で「ウブな感じの音楽」って言われた時のヒントにもなりますね。


出だしにメロディーとユニゾンでベルが使われてます。ベルってフレッシュな感じしません?あと恋が生まれる感じもします。フレーズが上昇してるのも良いですね。King & Princeに「koi-wazurai」っていう超名曲があるのですが、そこでもベルが効果的に使われていて恋煩いな感じがします。ウェディングソングでもベルって使いがちですよね。ベルが鳴るだけでキラキラしてる恋がはじまる感じします。恋愛真っ只中って感じもします。槇原敬之の「もう恋なんてしない」にも効果的にベルが使われてますけども、こちらも"恋"な感じはしますが、"フレッシュ"という感じに聞こえないので、なぜ印象が違うのかを考えてみるのも面白いかと思います。

次、メロディー三音目からストリングスの「シb」の音がずっと長く持続してます。これもむちゃくちゃ重要ですね。なんでもないロングノートに聞こえるけども、このフレーズがなかったら凄く地味でキラキラしません。音程がずっと同じってとこも重要です。これは昔からの定番ですね。同じ音が続くことでどういう効果が生まれてるか考えてみましょう。もしこのフレーズに動きがあったらどうなのかを想像してみると答えが見える気がします。このストリングスのフレーズがその後ボーカルの「みだけ」のメロディーに合流します。ユニゾンになるとメロディーが強くなりますね。

ちなみに、90年代のJ-POPではサビのメロディーとユニゾンで他の楽器がなってるヒット曲が多かったです。たとえばB'z「愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない」のサビがそんな感じです。ブラスとボーカルのユニゾンでつよつよなメロディーになってます。今やると古い感じになるアレンジですが、、、WANDSもそんな感じでしたね。ただ、今でもメロディーとユニゾンのフレーズをうっすら重ねるという手法はすごく多いです。これをすることでオケとボーカルの馴染みもよくなるし、印象的に聞こえるようになったりもします。

13秒に鳴ってるチャラランってピアノのフレーズもウブな感じ出てますね。LOVEって感じもします。僕もドラマ「イタイケに恋して」の劇伴で似たようなことをしています。SexyZoneの菊池風磨くんが毎回ときめくのですけども、その時に流れる「恋だね」のイントロがピアノのキララランってなってます。「ときめく瞬間の感じの曲を」って依頼が来た時に役立ちそうです。

その後「My First Lover」っていうキメの歌詞がきます。こういう大事なフレーズの時はブレイクするんですよね。これはお決まりです。さっき書いたピアノのキララランも、音数が減ったところで流れるからちゃんと効果的に響くし印象的になるのです。ガチャガチャ音がなってるところにキララランって鳴っても埋もれちゃいますしね。聞かせたいフレーズがある時は、その音に耳が向くように作るのは鉄則です。(音数減らす以外の方法もいっぱいあります)

ドラマや映画見てて気づいてる人もいるかもしれませんが、重要なセリフの時は音楽がなくなります。バラエティでもそうですよね。ボケを言う直前で音楽が無くなります。人間の耳がどの瞬間に何を聞いていてどういう気持ちになるか、その心理を理解してるとアレンジが上手くなります。職業作曲家になるためには、音楽理論を勉強するのもいいですが、いろんな音楽を客観視して分析できる力をつけるのが役に立つんじゃないかと思います。

「My First Lover」の「バー」のところに被ってイントロのフレーズがはじまるのもむちゃくちゃ重要ですね。気分が盛り上がったままイントロに突入します。その直前のベースの「グーン」も大事だし、次のフレーズにつながるキッカケのドラム一発「ドン」もすごく大事ですね。

「なぜその音がそのタイミングで入ってるのか?」


を意識していろんな音楽を聞くとアレンジ力が深まります。僕はアレンジは「演出」って思ってます。物語を時間軸の中でどう構成していくか。サビで盛り上げたいなら、そこまでの物語をどういう風に作っていくか。構成力と演出力。

「ウブ」の話に戻ると、イントロのオクターブベースも初々しさありますね。Aメロの歯切れいいバッキングも初々しさあります。こういう要素がいろんなところに散りばめられることで、キラキラした男の子たちにふさわしい楽曲になるのです。これこそアレンジ!ってことですね。

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僕はアマチュア時代からこんな風にアレンジの引き出しを増やしていきました。いちいちメモ取ったりはしないですが、、、引き出しが多ければ多いほどいろんな曲が作れます。伴奏みたいなカラオケだと、すぐにネタがつきます。その曲にとってベストなアレンジもできません。


▷昔のJ-POPはトラック数が少ない。

アレンジを研究する上で、昔の曲もいろいろ聞いてみるのもいいかなと思います。音数が少なく必要なトラックだけで構成されていることが多いので。今のJ-POPってかなり複雑になっているので基礎が掴みにくい気がします。コード進行もかなり複雑ですし。一瞬の隙があると違うコードを差し込むみたいなアレンジ多いですし。

僕が作曲しはじめた90年代前半、清水信之さんアレンジの曲を聴きまくって頭に叩き込みました。2小節のリフを作って繰り返しましょうとか、サビの転調とか、印象的なメロディーにするための工夫とか。リズムの崩し方とか、サビのフレーズを簡単にしてイントロに使うとか。

上のリンクの「SOMEBODY LOVES YOU」なんてすごく面白いですよ。転調したと見せかけて転調してないみたいな仕掛けとか。Aメロのバッキングはマライア・キャリーのオマージュだったり。このアルバムに「一緒に暮らそう」って曲があるのですが、その曲のサビの歌詞がない部分のコード進行の遊び方とか。曲の歌詞に合わせて効果音を効果的によく使ってたのも、この清水信之さんでした。平松愛理さんの「もう笑うしかない」も電話の音とか効果的です。薬師丸ひろ子の「あなたを・もっと・知りたくて」も電話の音が効果的です。アレンジは、歌詞とメロディーが持ってる物語を立体的にするような感じで考えてます。

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▷アレンジの勉強になるJ-POP

アレンジの勉強になったなーと思う懐かしいJ-POPをいくつかあげます。

●MISIA「K.I.T」
すべてがかっこいいのですが、入ってる音がすべて効果的。サビで地味に繰り返されるオルガンとか、地味なシンセの短いフレーズむちゃくちゃ重要な役割を果たしてます。ついつい印象的なキメとか、テクニカルなベースに耳がいっちゃいますけど。こんなに複雑なアレンジなのにキャッチーで聴きやすくなるのは、どういう風に音が設計されてるかなど考えながら聞くといいです。島野聡さんは天才すぎます。


●嵐「believe」

四つ打ちのJ-POP曲で一番かっこいいんじゃないかと思ってる曲です。Bメロからサビへの入りだけでも繰り返し聞いてみてほしいです。吉岡たくさんの手がけるアレンジはリズムまでしっかりかっこいいです。他にもアレンジがむっちゃかっこいい「Step and Go」「Monster」など嵐の曲を沢山手掛けられてるので聞いてみて欲しいです。

●槇原敬之「雪に願いを」

ベルの音について書いたのでベルの入ってる曲でわかりやすいのって何かな?って思ってこの曲を思い出しました。紹介した三曲の中で一番アレンジの基本がわかる曲なんじゃないでしょうか。イントロだけでも何回も聞いてみてください。四分音符のメロディーの後に入ってくるドラムのフィルがスウィングしてハネて入ってるのが印象的だし、ストリングスのフレーズも天才的。で、特に小さくなってる所々になってる音をしっかり聞いてみてください。クラビとかレゾナンスかかったピョンピョン鳴ってるシンセとか絶妙なタイミングでアクセントになることやってます。Bメロ前半のギターのシンプルなアップダウンなフレーズとか。サビの良いメロディーを引き立ててるのは、ストリングスとベルの裏メロであることにも気づきます。他にも「冬がはじまるよ」のサビの裏のストリングスも、とんでもなくいいフレーズで印象的でしかもメロディーを引き立ててます。コード進行に対してめちゃくちゃいい感じに横切るんです。良いメロディーには良い裏メロがあるって僕はいつも思ってます。この曲はリズムの崩し方もすごいです。サビ前のフィルのパターンを聞いてみてください。


●井上苑子「ナツコイ」

曲がはじまった瞬間キラキラしてるし、入ってくるドラムが応援してる感じだし、Aメロはメロトロンで懐かしい感じあるし、すごくアレンジ楽しめます。歌も歌詞も、このアレンジがあることでかなり表情豊かになってます。コード進行も絶妙で隙がない感じ、この曲に入れられる技はすべて入れてるのがむっちゃすごいなーと思います。いい違和感がいっぱい詰まってて引っかかりが沢山あります。かなり好き放題詰め込んでる感じするのに、アレンジャーの色やテクニックが前に出過ぎるんじゃなくて井上苑子が全面に出てるところもかなり好感触です。フレーズの出入りが全部絶妙で必然なので、耳コピすると発見できること沢山あると思います。コードの付け方だけでも盗めるものいっぱいあると思いますよ、最後の最後まで演出こだわってます。玄人でないとできないアレンジだけど難しく聞こえないのも凄い。かなり天才。


まぁ、ちょっと熱く語ってしまいましたけども、好きなJ-POPを紹介するのは楽しいですね。また機会があれば取り上げてみようと思います。


今回は、音楽の仕事の裏側とはちょっと違うアプローチの記事だったので、全文公開にしてみました!

ということで、最後までありがとうございました!!


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スキャット後藤

音楽プロデューサー・作曲家。音楽制作プロダクションcutecoolを主催。
フリーランス22年目。

1994年より京都のゲーム会社トーセにて音楽・効果音制作の仕事をはじめる(バイトとフリー)。25歳の時に上京。2年半会社員としてゲームサウンド開発に携わる。2000年5月、会社に所属してるより自分で直接いろんな繋がりを作り音楽の仕事をする方がリスクが低いと思いフリーランスの道へ。独立がキッカケで、ゲーム以外のテレビ番組やCM音楽の仕事をはじめる。

2016〜17年は秋元康氏プロデュースの欅坂46やAKB48のドラマに参加、音楽プロデュースと劇伴を担当する。音楽ゲーム『スクールガールストライカーズ ~トゥインクルメロディーズ~』に楽曲提供。2018年、「青春高校3年C組」「きらきらアフロ」「君は放課後、宙(そら)を飛ぶ(私立恵比寿中学)」などの音楽を担当。2019年、NON STYLE石田さん脚本の映画「耳を腐らせるほどの愛」の劇伴、「NON STYLE2019ツアー」のコント音楽など手がける。2020年、内田理央さん主演の「来世ではちゃんとします」の劇伴担当。NiziU出演のロッテFit'sのwebCMの音楽を手がけるなど、若い層に向けてのコンテンツに参加することが多い。

詳しい実績はこちらをご覧ください。
www.cutecool.jp
Twitter: cutecool_kikaku

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