見出し画像

【読書日記】島尾新『水墨画入門』(岩波新書)

 電子書籍はとても便利なものだが、まだまだ不便なところもあって、そのうちの一つに、立ち読みできないというところがある。最近では目次とかは買う前に覗けるみたいなこともあったりするが、そういうことじゃない。目次ももちろん大事だけど、そうじゃなくて全体をパラパラめくりながら眺めてみることで、その本の雰囲気を知ることもまた大事なのだ。

 少し前のこと、会社の帰りにいつものように梅田の紀伊国屋書店に寄ったとき、新書コーナーでふと手に取ったのがこの『水墨画入門』だった。「水墨画とか全然知らないなぁ…歴史の教科書に雪舟とか出てきたっけ…」とか考えながらパラパラページをめくっていたら、アクションペインティングという文字が見えて驚いた。しかも別のページにはなぜかジャクソン・ポロックの絵の写真が載っている…。何なんだこの本は…。というわけで迷わず購入した。

 この本に書いてあることは、大きく分けると次の三つになるとおもう。①そもそも水墨画とは何か。②日本における水墨画。あるいは日本に水墨画が中国から伝わってくるときにどのように受容されたか。③水墨画と西洋の芸術との比較。当然、『水墨画入門』なので①にかんする記述が一番多い。そしてたぶん、(少なくとも私にとっては)知らないことだらけで大変に興奮した。例えば、「水墨画」というこの言葉。中国で一般的に用いられていたのは「水墨」という言葉のほうで、「水墨画」という言葉が今のように広く用いられるようになったのは、実は戦後になってかららしい。初っ端からこの調子であるから、読み進めていくと様々な新しい知見を得ることができるに違いない。

 また②についての記述もそこそこ多い。そして日本における水墨画の受容を見ていくと、水墨画に日本人が加えていった変化を色々と読み取ることができておもしろい。さらに③についての記述もそう多くはないが、時折出現する。そもそも常識的な芸術観は近代以降の西洋に規定されたものだから、それとは無縁な水墨画における実践はいちいちそういう常識とか分類をはみ出してくる。まぁこれは仰け反って驚くようなことでもなく当然といえば当然なのだが、近代的かつ西洋的な芸術観を相対化する手助けをしてくれてやはりとてもありがたい。

 というわけで、改めてリアル書店に定期的に通うのは大切だ、と気づかされた読書体験となった。新年早々幸先の良いスタートを切れた気がするので、今年も引き続き、ぼちぼち関心を広げていきたい。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?