世界が謎に包まれていることについて

 仕方のないことかもしれませんが、私は今日一日部屋の中にうずくまっていました。カーテンを締め切って、薄暗い部屋の中で、夜の延長線を繰り広げる。これには一定の楽しさがあります。窓を開けて新鮮な空気を取り入れる位なら妥協しても良いです。ですが、淀んだ空気も嫌いではありません。
 私にはこの世が何なのかよく分かりません。外で騒がしい声がしたので、カーテンの隙間から覗くようにしてみると、連れ立った学生が楽しそうに歩いていました。またそのすぐ後の事です。背中を丸めた一人の老婦人がえっちらおっちら歩いていました。途中歩みを止めて、伸びをすると顔を空に向けて上げました。空には夢幻的な光暈(ハロ)が現れていました。
 私は何もかも分からなくなってまたカーテンを閉め切りました。従属的な生活から一時猶予を与えられて持ち直していた気分は、跡形もなく消え失せていました。ベッドに横たわるとしばらく天井を眺めていました。部屋に入り込んだクモが歩いていました。それもしばらくすると部屋の片隅に消えていきました。無機質な天井は安らぎを与えてくれました。チャイムが鳴りましたが、起き上がる気力がありませんでした。
 いつの間にか寝ていて、気がつくと夜でした。郵便物を回収するとアリエスの『死の文化史』がポストに入っていました。死の文化!死が文化をつくることが現代において可能かどうか、それは怪しいものでした。
 何の話をしていたのでしたっけ?そうです、世界は謎に包まれているということです。やはり謎は謎のまま、混沌は混沌のままが良いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?