Scardanelli2020

夢遊病者の夢

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夢遊病者の夢

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最後の教室を訪れる

 8月も終わりのある、蒸し暑い夏の日の午前、彼は新潟県十日町市に向けて車を走らせていた。  車を運転しながら、彼はクリスチャン・ボルタンスキーの事を考えていた。  彼がボルタンスキーの訃報を耳にしたのは、彼の死去から一ヶ月も経ってからの事だった。  眠れない真夜中に、心臓音のアーカイブのことなどを考えている内に、次第に彼は疲労と絶望感の淵に沈み始めた。  そのような死に方はまったくもってボルタンスキーらしいのではないか。そして今や彼の心臓の鼓動は完全に止まり、彼の眼差しが向い

    • 世界が謎に包まれていることについて

       仕方のないことかもしれませんが、私は今日一日部屋の中にうずくまっていました。カーテンを締め切って、薄暗い部屋の中で、夜の延長線を繰り広げる。これには一定の楽しさがあります。窓を開けて新鮮な空気を取り入れる位なら妥協しても良いです。ですが、淀んだ空気も嫌いではありません。  私にはこの世が何なのかよく分かりません。外で騒がしい声がしたので、カーテンの隙間から覗くようにしてみると、連れ立った学生が楽しそうに歩いていました。またそのすぐ後の事です。背中を丸めた一人の老婦人がえっち

      • お散歩日記

         一晩中、得体の知れない悪夢にうなされた。幾度となく目を覚まし、空ろな闇夜に息を潜め、不安そうに辺りを窺った。立て付けの悪い窓の隙間から、ヒュプノスが音もなく忍び込むと、彼のまぶたに眠りを振りかけた。彼女は眠った。悪夢は繰り返された。しかし、暮れない昼がないように、明けない夜もなかった。  いつの間にかカーテンの隙間から朝日が差しこんでいた。窓ガラスに濾過されて淡い光となった日差しは、太陽が昇るにつれて、白い壁を、ついで机の上のペン立てを、本棚に並んだ本の背表紙を、そして最後

      最後の教室を訪れる