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映画の興行収入予測方法について / ニューラルネットワークの活用

映画は、様々なビジネスの中でもかなりリスクが高いビジネスである。
製作費が莫大でも、ヒットするとは限らない。
しかし、製作費をある程度かけないと、有名な俳優は雇えないし、豪華なシーンを撮影するのは難しい。

そのため、どれくらいの興行収入が見込めるか予測することが重要である。

製作費(投資)に対してどれくらいの興行収入(リターン)が見込めるか。
どの分野のビジネスにおいても重要なことである。

しかし、映画は人を感動させるビジネスなので興行収入を予測するのは簡単ではない。(現段階では)

最近では様々な予測方法があると言われている。

・ツイッター分析
ツイッターの投稿を分析して興行収入を予測するものである。
「xxxはおもしろかった」だと、「おもしろい」というワードがあるので1ポイント、反対に「つまらなかった」だと-1ポイントで計算する。キーワードとなるデータセットを作って、それにポイントを紐づけて予測する方法である。
ツイッター以外にも方法はあって、グーグルが検索ボリュームを用いて、公開された週末の興行収入を92%予測することができると発表している。

今回はよくある簡易的な興行収入について紹介しようと思う。

■設例
A社は2011年5月公開予定の「カンフーネコ エピソード7」という作品(制作費150億円)がある。公開が直前に迫っている。

今回はその興行収入について予測する。
「カンフーネコ エピソード7」はシリーズものである。
過去シリーズのパフォーマンスは以下になる。

「カンフーネコ」は動物がアクションする映画なので、同じジャンルの映画を取り上げる。それに加えて、その監督の他の映画のパフォーマンスも取り上げる。

こうして興行収入を予測するために対象の映画に類似している点(過去シリーズ、ジャンル、監督、俳優)がある映画のパフォーマンスを見ていく。

続いて、これらの過去の実績の映画の認知率を並べる。

同じ「カンフーネコ」シリーズでは「カンフーネコエピソード6」、同じジャンルの作品では「タートルウォー」が認知率がそれぞれ一番近しいため、2作品を参考にする。
さらに監督の他の作品で今回の製作費150億円に近い、制作費180億円の「進撃のてんとう虫」も参考にする。以上、3作品の過去の実績を参考にした。

さらに2011年5月公開予定の他の作品を調べる。その結果、他の作品で同時期に有力な作品は見当たらなかった。よって下方修正は行わない。

上記の3作品を参考に興行収入、配給収入を幅で予測する。
さらにヒットした場合-High、普通の場合-Medium、不振の場合-Lowと3パターンを作成する。確率は主観的確率で設定。

以上の検討から、期待値を算出して興行収入は85,500百万円、配給収入は43,000百万円と予測した。

以上が簡易的な興行収入予測である。


さて、今回は公開直前の認知率を主にベースとして簡易的な興行収入予測を行った。認知率は映画の収入に大きな影響を与えるので、予測では大いに参考になる。しかし、認知率は作品が完成しないとわからない。
本来は脚本のみの製作前の段階で、興行収入を予測したい。

そういった予測を行う専門の会社が存在する。
イギリスのEpagogix社は、ニューラルネットワークを利用した独自の脚本解析アルゴリズムを用いて、映画会社が巨額予算の映画を製作決定するのをサポートしている。(HPを見るとヘッジファンドとも仕事をしたりしているそうだ)
この会社が行っているのは以下のようなことだ。


まず初めに「トレーニングセット」というものを用意する。

例えば、先ほどの「カンフーネコ」を例にする。
カンフーネコの脚本を参考に、様々な項目で10ポイント評価をして採点する。

①ヒーローの挫折:7ポイント / 10ポイント中 700万ドル相当を加算
②主人公は動物:6ポイント / 10ポイント中 300万ドル相当を加算
③主人公と人間が共演するシーン:8ポイント / 10ポイント中 900万ドル相当を加算




などなど

*項目によって重みづけ(ウェイト)が異なる。

以上のように脚本を様々な要素に分解して採点をする。

そして採点を実際の興行収入結果と比較をする。
当然最初はでたらめなので、ぴったりと数値は当たらない。
そして再度、採点への重みづけを変えて計算して最初の作品を的確に予測できる式(フォーミュラ)を完成させる。

次にその式(フォーミュラ)を使って、他の作品を予測する。当然、これもぴったりと一致をしない。そこで再度ブラッシュアップしていく。これを膨大な映画作品で繰り返すと、どの映画作品でも予測できる式(フォーミュラ)が完成する。これが彼らが行うニューラルネットワークを活用する映画予測である。

今後、上記のような分析の普及によって、ますます映画の興行収入予測の精度が上がっていくと思う。それによって映画会社は失敗をすることが減ると思う。

しかし、個人的には本当にそれで良いのか?と思う。

例えば、日本では「ジャニーズ系×青春×恋愛」の類の映画が毎年の様に製作されている。これはジャニーズ系の人を出演させれば、過去実績からある程度収入が見込めるとわかっているからである。ホームランではなく、こつこつ小さなヒットをつなぐ。

企業としては小さなヒットを積み重ねること必要であると思う。

しかし、映画好きの一個人としては、
過去実績やニューラルネットワークに頼らずに、
ホームランを狙いにいって、これまでになかった作品を作って、人々を感動させてほしい。

それこそが映画だと思う。



<参考>

・コンテンツビジネスの会計実務 IFRS対応版

・ハリウッド映画の興行成績を脚本段階で予測する「Epagogix」の仕組み




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