地域を知る、ということ
「自分の携帯番号を言えない人〜?」
司会の千葉暢子(のぶこ)さんが参加者にこやかに問いかける。
「へ?」
私は質問の意図が分からずコンマ1秒くらいポカンした。
『え、言えない前提の問いかけ...?そんな人いる?』と思い至った時にはすでに会場にいる半数が手を挙げているではありませんか!
「ええええ!?」
私は本当に目を見開いて止まっていたと思う。
「言えないですよねー。だからこの防災手帳にご自分の番号を書いておいてください」
千葉さんが平然と言葉を続けていた。
「地域を知るって、こういうことなんだ。」
ガツーーーンと頭を殴られたような感覚と
パアーーーっと頭の中が照らされたような感覚を同時に体感したのを未だに覚えている。
これは、去年の3月に開催された岩出山地域の『防災講座』でのこと。
この防災講座には70人くらいが参加していて、おそらく9割方は60代以上。
30代は私ぐらいだったか。(平日の昼間だったこともあり)
私は製作中だった「岩出山の本」のため、地域の取り組みの知見を増やしたくて参加していた。
私は、地域のリアルが全然見えていなかったんだな、とこの時気づかされた。
自分の携帯番号が「言える」ことを当たり前と思ってする話と、「言えない」前提でする話では、後に続く話題の噛み合い度が全く違ってくることは明らかだ。
その当時、本の進捗としては、『岩出山の人が岩出山を知る本』というコンセプトだけは決まっていたものの、まだ企画が決まりきっておらず、構想を練っていた段階。
ただ、20〜40代の若い世代が読みたいと思えるような内容に寄せようと考えていた。
だって、これから地域を動かしていって欲しい世代はそこだから。
だから、Uターンとか移住者とか子育て世代とか、自分と近しい属性での座談会を繰り返していた。あと逆に今お話を聞いておかないと機会がなくなってしまうかもしれない80代・90代の方にはお話を聞かせてもらっていた。
1番のボリューム層の60代・70代が抜け落ちてるな、ということには気づいていつつも…。
でも、この防災講座の一件以来、考えが変わった。
若い世代と上の世代に相互理解が必要だと思った。
若い世代の主張を振りかざす前に私も上の世代のことをちゃんと知らないと。と思うようになった。
原稿を見てもらうと地域のおじさま方から「文字が小さい」と再三言われた。
以前の私だったら「そういうデザインなんです」と押し切っていたかもしれない。
けれど、直した。(まあ8ptを9ptに、くらいだけど笑)
でもしょうがないと思った。
だってこの本を読んでもらう人の半数は60代以上だから。
(岩出山地域の60代以上の割合は51%!大崎市全体では37%、14ptも高い!)
若い世代で繰り返していた座談会は年齢層を広げた。
千葉さんからもアドバイをもらい人脈を使わせてもらって、私だけでは繋がることができなかった地域の重鎮ともいえる方々にお話を聞かせてもらった。
プライドが高そうなイメージを持たれがちで実際私もそういうイメージを抱いていた地域の60・70代の方々も実は若い世代を応援したいと思っているし、引き継ぐ方法なども考えられていることが分かった。(その手法には課題が残ると感じたものの…。)
見えていなかったものが見えるようになって、結果、それをそのまま本のコーナーの一つにした。
タイトルは「岩出山にあるものを知ろう」。
どの年代の方も登場する、バランスの取れた本になったと思う。
地区公民館が作る本だもの。
これが民間企業が作る本だったら利益を生むため、ターゲットに即した内容にする必要があると思うし、行政が作る本だったらこんなに地域のリアルな声が拾えた本にならなかった思う。
地区「公」「民」館だからこそ作れた本になったと思う。
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