[ prologue ]
4月から東京に戻り新たな生活が始まるはずだった。しかし、待っていた現実は先の見えない自粛生活。
正直、不安に襲われた。写真家として何ができるのだろうか、シバタタツヤとして何をすればいいのだろう?当然、答えは出るはずもない。
「これも何かのチャンスなのでは」
ふと、そう思った。
気付けばまるで回遊魚のように動き続けていた自分から解放されていたのだ。取り舵いっぱい。僕は「なにもしない」をすることに決めた。動かないものは動かさず、じっくり腰を据えて、自分なりに心と向き合う。そう、決めたのだ。
自分の中に潜む表現欲求と承認欲求との違いはなんだろう?SNSと距離を置き、敢えて"写真"と離れることで「本当に撮りたいものは何なのか」「自分が表現し続けたいことは何なのか」が見えてくるだろう、と信じて。
離れて見えてきたものはただただ"生きる"ということの尊さ。なにひとつ間違いなんてなくて、自分で選んできた道、その轍が人生の形を創ってきたことを誇りに思った。
「やりたいことをやろう」
自分でいようとすればするほど苦しくなる。なにをしていたって自分なんだって気付いたら、ふと心が軽くなった。
写真を撮り続けることが写真家である。
写真を撮り続けなければ写真家ではない。
その線引きは果たして誰のためにあるのだろう。カテゴライズされるために存在したくはない。
僕は"人間"でありたい。
探すことをやめたら、
新しい出会いが。
新しい想いが。
ハルの芽吹きのように優しく咲いていた。
少しずつ、少しずつ、言葉にしていけたらと思う。
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©︎ Tatsuya Shibata / Haruna Sanada
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