君は君の道を行け。
「サイクリング行こうか」と日曜日の朝に娘を誘う。土曜日、前から頼んでいた自転車が届きウキウキしていたのを知っている。二つ返事でどこか遠くへ行こう!と笑顔。
今までは子供用自転車だった。まだサイズ的には小さくはあるが、きらきらしたピンクとかスカイブルーなものは嫌がりアイボリーのお姉さんっぽい自転車を選んでいた。そういうところからも少しずつ大人の階段の下段くらいを上っているんだなと思う。
家の前でサドルに腰かけウキウキしているのがわかる。小さい頃から、長男も娘もウキウキするとぴょんぴょん跳ねていた。可愛い生き物だなと思う。今はそれは成長し抑えようとしているがぴょんぴょんが顔に出ている。よし行こう。出発!といって目的も決めずに走り出す。
「こっちの道、ワクワクする!」と予感だけで先陣を切る娘。かなり性格が僕に似ている。知らない細い道や不思議な形状をした家で留まり、パパあれ見て!と嬉々として報告してくる。豆腐みたいな家やな!とか、公園ひょろ長い、ここで鬼ごっこしたら2秒で詰むなとか。
娘の自転車はぐんぐん進む。心の思うままに道を選び、そこで新たな発見をし、振り返る。僕たちは御所を通過し、鴨川デルタに到達する。パァッと視界が開ける。娘は初めて見つけた黄金都市のように目がきらきらにかがやいていた。「パパ、すごいところ見つけてしまった」と真顔でいう。
鴨川の亀さん飛び石をぴょんぴょんと飛び越え、急に振り返る。
「パパ、あの自転車ならどこまでもいけるな!」
そうだなーそうなんだよ。君はどこまでもいける。
何にだってなれるんだよと心で思ってうるっとくる。
鴨川に至るまで娘が勝手に選んだ道をついてきた。
そこにはいろんな発見があったり、可愛いワンちゃんとおばあちゃんとお話ししたり。美味しそうなご飯屋さんがあったり。綺麗な桜が咲いていたり。その道中、僕はずっと考えていた。君もいつか1人で旅に出るんだなぁって。
僕が大学進学した際に、見送る両親は泣いてはいなかった。
でも、隠しきれない不思議な感情は滲み出ていた。おそらくあのときの感情と同じものなのかもしれない。親にしかわからない子供が巣立つことの喜びと寂しさ。ないまぜの感情。
今日、娘と過ごしたような日常は、もう2度と訪れないのだ。
明日も明後日も、二歩も三歩も僕らより早く成長していくんだ。
今日見た些細な物事も、娘にとっては世紀の大発見で僕は娘と同じ目線で驚いたり笑ったり、彼女の世界を楽しんだ。
ずっとここにいていいんだよって言葉は押し殺すのだろう。
彼女が世界を旅しながら、出会いや別れを積み重ね、自分の人生を歩んでいく、その背中が見たい。いいこともわるいこともたくさんある。でも、時折旅の途中で帰ってきては、道中の驚きや美しかったものや悲しかったことを今日のように教えておくれよ。
君が1人で旅に出るその日まで。
僕は父として君を支えていこうと思う。
いただいたお金は子どもに本でも買おうかと思ってます。