マネジメント 普遍性と外れ値

4月、新年度に向けて、いくつかの経営者の方の集まりで、講演の依頼を頂きました。
特に中小・零細企業は、苦しい状況に置かれている方も少なくないと思いますが、こうしたときにお声掛け頂けるのは、とてもありがたいです。それぞれテーマが異なるので、現在の経済や社会の状況に即して、それぞれのご要望に合わせて話をさせて頂く予定です。

ちなみにですが、、、

僕は、実は講演が苦手です。なせなら、人前で話すと、全て「講義」になってしまうからです。お話しを頂いた方は、とても勉強熱心な方で、むしろその方が良いと言ってくださったのでありがたいです。

さて、経営者の方の集まりなどで、よく成功例についての話が挙がります。僕は全く知らなかったのですが、経営者の方の集まりは数多あるそうで、多くの会で様々な勉強会をしていると知りました。その中でも、会員の方の成功例をきくという勉強会が多いようです。

確かに、毎月なり隔月なり、勉強会の講師を探すのは大変でしょうから、そのような勉強会てあれば、開催も容易かと、、、ただ、こうした成功例は、必ずしも役に立つとは限りませんし、場合によっては、視野を狭めてしまう危険性があるように思います。

・ある経営者の方の話
僕が住む中部の愛知県、名古屋市は、いわゆる「ものづくり」が主要な産業である街です。トヨタ自動車のお膝元で、‘トヨタシステム’と呼ばれる経営システムによって、産業構造が形作られています。
この‘トヨタシステム’は、実はかなり厄介です。強固な縦型の企業間関係が形作られ、その慣習から抜け出すことが難しいのです。

例えばこれは、僕の父の話です。

父は木型(金型の元を木で作る)の職人でした。1660年代後半、父が務める会社がかなり苦しくなった頃、僕は博士課程の学生でした。
僕は父に、技術のコアを活かした、新たな仕事や顧客を見つけないと先がないという話をしました。しかしこのとき、父は「そんなことをしていて、トヨタの仕事ができなかったら、仕事がなくなる」と、門前払いでした。しかしその数年後、父は職を失いました。

また僕が独立するとき、とある経営者の方から、こんなアドバイスを頂きました。
「佐伯君は、100億円の‘ビジネス’を作る能力はあるかもしれないが、特に名古屋という街で、100円のものを買って、支払ってもらう能力に乏しい」と。
このことも、独立後、すぐに貴重な失敗体験として現実になりました。

このような街ですから、やはり独特の商慣行やかんがえがあります。これにはかなり苦労させられました。

・成功例の落とし穴
話が逸れましたが、こうした街ですから、‘ものづくり’の成功例にしがみつく特徴が強く見られます。
ある会合で、本題が始まる前に、雑談をしていたところ、やはりこうした話が出ました。ある方が、「頑張っている、ものづくりの中小・零細企業がたくさんある」という話に、少し反論したところ、別の方が、金型の修理で活躍している会社の例を挙げました。

こことき僕は「またこれか、、、」と、思ってしまい、それ以上意見を述べるのを止めました。先に挙げた父の例のように、聞いてもらえないことが多いからです。
こうした成功例を、決して否定するつもりはあ(ません。それぞれの企業が個々の努力で活躍しているのは見習うべきことです。しかしこれらの例を、一括にして考えるのは、少し危険なように思います。
なぜなら、これらの例に普遍性がなければ、それは個々の企業のポテンシャルであって、日本の中小企業の特徴にはなりえないからです。

・普遍性と外れ値
普遍性とは、一定の条件が整ったとき、同じ結果を実現できる条件を指します。例えば、自社の差別化可能な経営資源を明確にして、新たな製品を開発した例、というものであれば普遍性があります。
これに対して「外れ値」という考え方があります。これは統計学の言葉で、数値として現れていても、特定の条件には当てはまらないものを指します。企業の成功例についても同じで、ごく一部だけにしか当てはまらないものを、僕は解りやすく外れ値とよんでいます。

・普遍性を見つけるためには
上記のような外れ値の場合、基本的には参考にならないので、有効な事例を見つけるためには、普遍性を見出さなければなりません。
実はこのとき、○○という企業が、△△という製品で、、、といった説明では、普遍性はおろか、外れ値かどうかを判断することすらできません。その成功例を判断するとき、抽象的な視点から、説明できる理論やモデルに当てはめることができて、初めて普遍性のある実例と言うことができます。

成功例を参考にするのであれば、まずはその例の普遍性を見つけ出し、自分たちに当てはまるものかどうかを考えてみて下さい。


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