「アンテナを張る」ということ

僕は色々な方から、よく「アンテナを高く張っている」と言われます。

元々僕は研究者ですから、自分の専門分野てある社会の問題について、一般の方より知識量はかなり多いと思います。
新しい話やこれから社会がどうなるかといったことも注視していますから、やはり一般の方より広く深く考えられると思います。

こうしたときに「アンテナを張っている」と言われるのですが、ちょっと違うように感じます。
最近、この質問を何度か受けたので、自分なりに考えてみることにしました。

・トレンドは追いかけない
僕はビジネストレンドやトレンドワードなどは殆ど知りません。そうしたものは追いかけていないので、むしろ疎い方ではないかと思います。

大学院に入学した頃は、ちょうど大前研一氏が流行っていて、僕も読みましたが、先生から「そうした目先の本を読むな」とお叱りを受けてやめました。
またこれ以来、トレンドを追いかけるようなことはしなくなりました。

博士課程からは学会発表のため、常に論文を書く生活になります。
論文でテーマにするのは、簡単に言えば、社会の問題の本質を見つけること、そして社会の「在るべき姿」を考えることです。
そうすると余計にトレンドを知る必要はなくなります。

・何を見ているのか その1
ここでちょっと、「ものの見方」について考えたいと思います。

「アンテナを高く張る」と言う場合の視点は、例えて言うなら、雑踏の中で人の姿や流れを見て、流行を見つけることに似ているのではないでしょうか、このとき背伸びをして視線を上げれば、周りがよく見えます。

ビジネスの考え方に「鳥の目、虫の目、魚の目」という言葉があります。
上記の視点は「虫の目」と「魚の目」、つまり細部までよく見ることと、時流を見ることに当たります。
これに対して「鳥の目」というのは俯瞰した視点です。高いところから、全体を見渡す視点が必要という意味です。

どうやら僕たち研究者は、この「俯瞰した視点」の高さが違うようです。

・何を見ているのか その2
社会科学の研究者は、常に社会全体と歴史を俯瞰して見るクセがついています。そして常に、社会の在るべき姿や向かうべき方向を考え続けています。

そこには「人の営み」という無数の光が広がっています。

その中の多くは点滅を繰り返して消えていき、また新しい光が生まれます。
そうした中で、時々強く光り続けるものや、社会の在るべき方向へ向かうもの、真逆に向かうものなどがあります。
そうした特異な光はそれほど多くはなくて、そうしたものを観察し、理解することに努めています。

・何に気をつけているのか
それでは普段から何に気をつけているのかということですが、上述のように、より高く、より広い視点で物事を見る力や姿勢を維持、向上させるために必要な「考え方」を得る努力をしています。

この作業は、残念ながらよく言う「アンテナを高く張る」ことでは得られません。
現状を演繹しながら、何故そうなっているのか、これからどう考えるかを、自分で見つけ出す必要があります。

この考え方のため、以前の記事でも述べた「情報」の考え方を説明します。

インフォメーション(情報)
・オープンソースの現状、事実

↓ 必要な要素を抽出

データ(要素)
・SVで述べられた現象と証明

↓ 分析

インテリジェンス
・クローズドソースの文脈化された理論や考え方

このようにして導き出された「インテリジェンス」が、真に重要な情報と言えます。そしてこの「インテリジェンス」を導き出すために必要な要素を探す作業が僕の「情報収集」です。

例を挙げましょう。

時々中小零細企業の経営者の方から、働き方改革への不満を耳にします。確かに最低賃金の上昇などは、経営者の方には頭の痛いことでしょう。

しかし僕は、こうした発言がイヤです。
本来、最低賃金で人を雇用しようという方が間違いです。またバブル崩壊以降、零細企業では収支をプラスマイナスゼロにする会計処理を行うことが一般化しましたが、元来であれば、より利益をあげ、税金を払ったうえで財務戦略を考えるべきですが、現状の会計処理では企業のキャッシュフローは限りなくゼロに近づき、教育や設備投資の機会を失ってしまいます。(インフォメーション)

しかしここで単に反論するのではなく、現状の問題点を考えます。

僕は今50歳、大学入学は1992年、既にバブル崩壊の後でした。バブル崩壊以前に社会に出た人で55歳、バブル経済を社会人として経験したのは55歳以上。
すると社会(本来の経営)の仕組みを理解したうえで社会人経験を持つ方は60歳以上ということになります。(データ)

つまり多くの経営者は、本来の経営の姿を知らないということになるので、これを伝える必要がある、というのが現在の日本企業の状態。(インテリジェンス)

この「インテリジェンス」を導き出すために、新しい情報は不要です。
しかしこの説明は、多くの経営者の方が、「目からウロコ」とおっしゃいました。

実際のコンサルティングでは、このような経営が成り立たない事業の打ち切りという判断になりました。

「アンテナを張る」ことは必要ですが、激動の時代の荒波で、アンテナに振り回されていないでしょうか。

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