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彼女が放った輝きの陰にあったもの 『AMY エイミー』 #おうち映画祭

「27クラブ」という言葉がある。
才能あるミュージシャンの多くは齢27歳で死亡するという、ロックファンが唱えたジンクスだ。
ロバート・ジョンソン、ジミ・ヘンドリクス、ジャニス・ジョプリン、ジム・モリソンにカート・コバーン。
クラブに名を連ねる彼らの死に関連性はなく、この定説は結果論に過ぎないが、「若くして亡くなった天才たち」のドラマは人を惹きつける。

10年前、ロックミュージックに傾倒し始めたばかりだった世間知らずなわたしは、「27歳」とはきっとその後の人生を大きく左右するほどの苦難にまみれた、特別で成熟した年齢なのだと、漠然としたイメージを抱いた。
そしていざ27歳を迎えて8ヶ月と少しが経った今、自分は相変わらず未熟だけれど、幸い生きるか死ぬかの瀬戸際にいるような生活は送っていない。


第50回グラミー賞で最優秀楽曲賞や新人賞など、計5部門を総なめにしたR&B歌手、エイミー・ワインハウスもまた、アルコールとドラッグにその命を蝕まれ、27歳でこの世を去った。

曲がりなりにも同じ長さの年月を生きたというのに、エイミーとわたしとでは、あまりにも人生の密度が違う。
スターであった彼女と凡人の自分を同列に語ることすらおこがましいけれど、今この年齢を生きている瞬間にしか感じることのできない何かがあるはずだと思って、この文章を書いている。


『AMY エイミー』 (2015)
Amy
アシフ・カパディア監督

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エイミーは19歳という若さで商業デビューし、その才能を開花させた。
往年のソウル歌手を思わせる力強い歌声と、彼女自身の恋愛経験を投影した繊細で飾りのない歌詞で、聴く者を魅了した。

幼いころに父親と別居したエイミーは、彼から十分な愛情を注がれなかったことに大きなコンプレックスを抱いていた。
その孤独感や虚無感を、不特定多数の異性との関係で解消しようとしていた。

そんな中、彼女が生涯を通して夢中になったのがミュージックビデオの撮影アシスタントであるブレイク・フィールダー・シビルだった。
彼らは何度もくっついたり離れたりを繰り返す、共依存のような関係にあった。
エイミーはブレイクのことを「双子のきょうだいみたい」と語っていたが、良くも悪くも鏡のような存在だったのだろう。


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精神的に弱いもの同士は、時にお互いへ悪影響を及ぼしてしまう。
エイミーが死の直前までドラッグやアルコールへの依存を断ち切れなかったのは、同じく常習犯であったブレイクの影響が少なからずあった。
それでも彼から離れられなかったのは、愛というより執着が原因だったのであろう。


エイミーの初期のキャリアを支えた元マネージャー、ニック・シマンスキーは、早い段階で彼女を依存症治療に向かわせなかったことを後悔していた。

「あのとき彼女を施設に入れていたら、2枚目のアルバムはつくれなかったかもしれない。でも、大スターになってマスコミやパパラッチに追い回される前に、治療を進めるべきだった」

2枚目のアルバムBack to Blackは確かに素晴らしい作品だった。
恋人であったブレイクとの最初の別れを経験したエイミーは、その悲痛な想いを全力で音楽にぶつけた。


We only said goodbye with words
I died a hundred times
You go back to her and I go back to black

交わしたのは口先だけのさよなら
心が数えきれないくらい死んだ
あなたは彼女のもとへ帰って
わたしはまた暗闇に包まれる


施設への入所を拒否した体験をもとに書かれた"Rehab"はシングルカットされて国境を超え、諸外国でも大ヒットを飛ばした。


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やがてエイミーの名前は全世界に知れ渡ることになるが、彼女自身の人生は、エンターテイメントとして大衆に消費されるべきではなかった。
自分の私生活を曝け出し、コンテンツとして切り売りすることで成功するタイプの著名人もいるが、彼女は決してそんな人生を望んではいなかった。
有名になって脚光を浴びるためにレコードを出したのではなく、ただ純粋に、音楽を愛していただけなのだ。

エイミーは細く長く生きのびる代わりに、一瞬の輝きを放って消えてしまった。
その強烈な光が、途方もない才能が、彼女を取り巻く人々の目を眩ませた。
彼女はスターである前にひとりの人間であるという事実が、陰に隠れて見えなくなってしまった。


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精神的に脆かったエイミーは、険しいショウビズ界を生き抜くだけの逞しさを持ち合わせていなかった。
彼女はわたしたちと変わらない、ただ誰かに愛されたいと願う、ごく普通の女の子だったのだ。



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