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ダウ90000『ずっと正月』配信感想

 面白かった。見てよかった。

 漫才とコントのハイブリッド劇のような、若者たちによる街角ワンシチュエーションコメディ。
 100分ずっと安定して面白いのがすごい。「話」を大事にしている。ゆえに話をちゃんと終わらせてくれる。放った言葉の行方に責任を持っている。
 思わせぶりな伏線を張らない。むやみに客を煽るだけの「こういうの好きなんでしょ??考察したくなるでしょ???」みたいなのもない。
「誰も傷つけない笑い」だとは言えないけれど、とてもよくできている。見た後に徒労感に襲われることがない。

 なんでこれ今やるんだっけ、とか今だからこそこれなんだろうな、みたいな作品を立て続けに見たので、別に意義とか問わず普通にまあまあ近現代の話なのが逆に新鮮。

 作・演出の蓮見翔さんは24歳(1997年生まれ)だそうで、他のメンバーも1998〜2001年生まれの方々なのでその若さに「私(30代女)でもわかるか…?」と尻込みしたけど全然わかる。そしてこれは私の感性がみずみずしいからとかでは全然なく私みたいな人でも「わかるように」書かれている。接待されてる。ここを勘違いしてしまうと「若い子の笑いもわかる俺」になってしまうので気をつけなければいけない。単純に作り手側がすごい。30代の私だけでなく、結構幅広くみんなにわかる面白さだと思う。そういう笑いと設定になってる。うちの親もわかるかもしれない。いやそこまでは難しいか…?でも本当にわりとみんな「『わかる』と感じる」と思う。

 この作品は言葉・認知を使った直線的な笑いと見た目・空間デザインを使った立体的な笑いの二段構えになっているので、冒頭にも書いたけど漫才とコントのハイブリッドみたいな印象。そしてその笑いを積み重ねることで話自体もこの二段構えで展開されていくので見ていて常にクリアでわりと堅実的。
 最後にしっかり話をまとめる、話を終わらせるという親切さがこちらも逆に新鮮なんだけど、その終わらせ方も「ラスト15分、あなたは必ず騙される…!」みたいな「大どんでん返し」系のやつじゃなくて、至極真っ当な、レゴでずっと作ってきたエンパイアステートビルが完成するのを見届けたみたいな気持ちになる終わり方なのでとても納得感が高い。
 たまにあるじゃないですか、今まで組み上げてきたレゴを最後にドカーンとぶち壊して「完成形はあなたの想像に委ねよう……」みたいな作品。委ねんなら最初から言えや。2時間見守って損したわ。なんだったんだよこの時間。みたいな作品。あの絶望の裏切りがないので……私の中ではそれだけでも名作と言えますね……
 個人的にはシチュエーションコメディという形式と、その積み重ね方と投げ出さない終わらせ方、人に見せる「話」を作ることへの真摯さに、昔録画で見た三谷幸喜氏の『笑の大学』を思い出したけど、それは褒めすぎかもしれない。いかんせん昔なのでわからん。ちょうど確かこのあいだ再放送してて録画した気がするので見返したい。

 属性や「あるある」「いるいる」の攻撃になっていないとは言えないので人を傷つけない笑いだとは言えないし、実際、私もめちゃくちゃ傷ついたんだけど……ニッセンのくだりとか。いやほんと子ども生まれたらニッセンはマジで神だから。でも私も若い頃は「ニッセンで…服を…!?」て思ってた時代あったなと思った。あと「こたつ布団と服を一緒に買うなよ」みたいなツッコミあったけど「お母さん、キャンペーン中に10,000円以上買って送料無料にしたかったんかな…」ってそこだけ異様に解像度高く共感した。
 でもこうして「めちゃくちゃ傷ついたんよ」と笑って言える雰囲気がこの作品にはあって(もちろん怒ってない)、たぶん一方的に特定の属性を上から揶揄し消費しているわけではないと感じるからかなと思う。ちょっともしかしたら「先輩」に対してはかなり一方的だったかもしれないけど……

 あと設定というか登場人物が置かれた環境の一部に、好ましいとは言えない現代の歪みみたいなのがあって気になる人はすごく気になると思うしそこは肯定もできないんだけど。でも私は先に、ちゃんと話を進めて終わらせてくれる才能のほうを称賛したいかな……とは思う……難しいけど。

 いや、もし自分と同年代とかそれ以上のいい歳した大人たちが作ってる作品があまりにも無自覚無邪気に現代社会の歪みを肯定し人を傷つけまくってたらそりゃ批判するよ、だって彼ら彼女らは権力でもあるから、これ見て若い人たちがどう感じるか考えてみろよ、価値観の再生産とか差別の助長とか、そういうのに今更加担してどうすんだよってそりゃ言うよ。創作する大人たちがそんな背中見せてどうすんだよって。でも今からどんどん伸びていこうとする若い人たちに対して一番にそこあげつらうのは違うかなって。まだその構造に巻き込まれている側だと思うし。

 それに実際、私もそうだけど無自覚な傷つけに気づくこと、いい大人でも本当に難しいので……
 その点でいうと、蓮見さんがダウ90000がM-1予選に出た時のnoteで「あと誰が可愛いかみたいなコメントは若干嫌がってたと思うのでできたらあんまやめてあげてください」と書いていらっしゃったの、本音か建前かなんて外野からはわかりませんけれども、たとえ建前であってすらそうやって言えるおじさんがどれだけいるかよ???????って話ですよ。

 それ系の話もっとしていいですか?
 若い人たちのところにこういう客が入ってくるとめんどくさいだろうなと思うのであんまりそういう視点からあれこれ言うのよくないよなと思うんですけど、YouTubeでコントなどもいくつか見て、ダウ90000の作品は女性の役者さんが「試されてない」感じがするのもとてもいいなと思いました。
 今の演劇やお笑いのことはよく知らないのでもうそんなことないのかもしれないけど、というかこれは私の勘違いや偏見でしかなかったのかもしれないけど、一部の場所では女性の役者さんやお笑い芸人さんって常に「本気度を試されている」感があったような気がしていて。「本気で演劇orお笑いやってこうと思ってんの?????思ってないっしょ?????」みたいな。で、本気でやっていきたいなら「女であることを見せろ」「女であることを捨てろ」のどちらかあるいは両方を迫られる。やたら覚悟を問われる。
 でもダウ90000の作品には(外野なので実際のところは分かりませんが)少なくとも舞台上ではあんまりそういう圧力みたいなのがなくて、そこが見ていて楽だなと。そんな悲痛な覚悟とかは別になくていいので……

 なのでまあそんなところ褒められてもまったく嬉しくないと思うんですけど見る側からしたらそこも良かったなあと思って……舞台上に立つ役者さんたちのテンションや方向性がまとまっていて安定しているのも安心できた。でも一番良かったのはやっぱり「何かを作って誰かを楽しませたい」っていう創作の原点みたいなきらめきがそこにあったことで、しかもそれが独りよがりじゃなく普通に面白かったのでとても稀有に感じたし素晴らしいなあと思いました。

 常日頃から演劇をもっと見てみたいと思いつつ、価値観が合わなかったらめんどくさいなと思ってしまい新たな創作物に触れるのがものすごい億劫なんだけど、こういう作品に出会えるとやっぱり創作する方々ってすごいな…!!!と思います。

 最後に作品に関係ない気づきを一つ。
 ダウ90000、SNSしかない?から情報発信とアーカイブ的な拠点として公式サイトとかあったほうがいいんじゃ…と一瞬思ったけど、この発想、なんかの手続きとかでオンラインだけじゃなく電話やファックスも使えるようにしろって圧力をかけてくるおじさんと同じだなと思いました。30代にしてターゲット層の違いと世代間リテラシー格差に直面した。これからどんどんこういうの増えてくんだろうな。ついていけるかな。頑張ろう…

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