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会津若松スマートシティー拠点AiCTについて、現時点での一市民の感想と見聞きした課題。

知る人ぞ知る、いや、地方創生や地自体機能の電子化などに興味のある方ぞ知る「会津若松市のICTオフィス環境整備事業」。これについて、約3年前に会津若松市にUターン転職してきた筆者が、聞こえてくる噂と期待について語ります。

なぜnoteでわざわざ書くかというと、一には発信力の高いブログやSNSアカウントを持っていないに尽きますが、地方衰退の危機意識をもって行動している方や、中小企業の改革を経験した方の記事がnoteに散見され、そういった方の目に止まればと思ったためです。

「AiCT」完成までの経緯について

なぜ福島県の片田舎である会津若松でこのようなプロジェクトが立ち上がったのか。それは別にずっとウォッチしていたわけでもない私が端折って語るよりは、構想段階から中心人物として推進に携わるアクセンチュア・イノベーションセンター福島センター長の中村さんの記事を熟読していただきたいところです。

下にリンクを貼りますが、なんとコラムは現時点で全24回にもわたり、関係者や有識者との対談も含めてその意義を論じています。その崇高な目的意識と壮大なビジョン、説得力、熱量、何よりその長さに、一気読みすると頭の中はすっかりイノベーションが完遂されたのような錯覚さえしてクラっとしますが、この事業を7年もやっていればそれでも語りつくせないことでしょう。

なぜ会津若松だったか

なぜ会津若松か、の理由をラフに拾い上げると・・・

・震災、原発事故復興が喫緊の課題となっていた
・少子高齢化、人口減少、産業空洞化など日本の課題をモロに受けていた
・会津大学というコンピュータ系公立大学があり、地域振興に活用したかった

といった点が挙げられると思います。
これらが中村さんにとっては、東京一極集中が招いた日本の課題に対する解決策を事例として提示できるチャンスと捉えられたのではないでしょうか。

会津大学への期待

特に会津大学については、1993年の創設当時にまだ中学生として会津に住んでおり、センター試験も会津大学で受けた筆者にとって、とてももどかしい存在に思っていました。

なぜ田舎の会津に急にそんな大学ができたのかというのは、アホヅラでゲームばかりしていた田舎の中坊には当然理解しようがなかったのですが、高校でそこそこ成績優秀な同級生も受験先として選択したことに少し驚いたことを憶えています。優秀なやつらが地元に残る場ができて良かったじゃないか、とも思いました。

しかし大学以降会津を出て、たまに帰省すると、会津若松市内は寂しくなるばかりでした。
自分が仙台の大学で研究していた時は、大学ってすげーことやってるな、と世界のトップランナー気分でいたものの、いざ大企業に就職してみたら、工業製品の設計に大学の研究の知見が生かされているふうには微塵とも感じません。
大学なんてあっても、街の賑わいには無意味。焼け石に水だったのではないかという諦念の思いしかありませんでした。

いや、もちろん大学があり学生や教員が暮らすというだけでだいぶ街のためになっているはずです。納税や消費もあるでしょう。しかし近くに住むわけでも仕事で関わるわけでもない一般人にはなんら恩恵が感じられなかったのです。

そのため、この事業で何より先に思ったのは「やっと会津大学が会津の役に立つのか!」という期待です。

住んでいて聞こえてくるリアルな課題

壮大なスマートシティー構想の第一歩として、事業の見直しなど紆余曲折を経て昨年4月に開所したのが「スマートシティAiCT」です。

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※画像は市の資料から引用。普段はこんなに人通りはありません。

建設地の選定から事業スキームまで長年議論を重ねて官民一体となって実現したこの施設、関係者は並々ならぬ思いだったことでしょう。

その実行力に頭が下がりますし、ケチをつける気はまったくありませんが、見聞きして課題と思ったことを挙げます。

<入居状況>

AiCTの収容人数は約500人。開所当初は17社、約400人ほど入っているようで、よくぞそこまで集まったなという感じはします。しかしその6割以上の250人がアクセンチュアです。

つまり事業推進の中心人物である中村さん自らが引っ張ってきた人たちです。
しかもそのほとんどが、転居ではなく「長期出張」。どの程度の期間の約束で、どれだけ出張手当をもらって来ているかわかりませんが、そのような逆にコスト高な状況でこれだけ人を集められたのは、中村さんの会社だったからなのではないでしょうか。

<入居料>

AiCTの家賃は、ざっくりと坪単価12,000円程度のようです。

これは会津若松市のほかの貸しビル相場の約2倍、東京都でも都心まではもちろんいきませんが、江東区や墨田区あたりは上回っていそうです。

もちろん最新設備だとか駐車場が安いとか、そういう強みがあるので単純比較はできませんが、受注できる仕事の数・金額が全然東京にかなわないので、「ビジネスを探しにくる」という会社には割りに合わないことは明白です。

本来は地元の企業も、あわよくば少しだけでも間借りして、都会やグローバルな企業と情報交換し、先見性を高めたいものです。ですがこの家賃では難しいでしょう。
なお、この建物の目的が「人材の転入」を主とするのだとしたら、採算度返しでも入ってみたいと思う地元企業があったとしても、遠慮します。地元企業で埋まったところで意味がない。実際に県内IT企業の社長からそのような声を聞きました。

<補助金>

その高い家賃の中400名集まった理由の一つは、期間限定の家賃補助(補助金)があります。当然その期間以降の空室リスクも事業計画で考慮されています。しかしその期日までに成果が生み出せなかった企業、またはプロジェクトが終わってそのあとに仕事がなさそうな企業は、想定より早く退去してしまうリスクがあります。

ただしこの事業がほかと違うのは、ホルダー企業と言って、施設設営、管理、貸し出しを民間企業が行うことです。つまり運営責任も、不採算時のリスクも負います。

そんな役だれがやるの?と思うのですが、そこは志が高く郷土愛の深い地元建設会社が腹を括って担っています。つまりただ税金だけを使うよりもある程度挑戦的なことができるわけです。もし空きテナントが増えてきたら、民間ならではの柔軟な、ウルトラC的な対応も期待できます。(下は運営企業のサイト)

<受け入れインフラ>

そもそも、会津若松にはそんな大量の高給取りが住むようなマンションがありません。長期出張の人たちがどこに泊まっているのか不思議です。
それを受けて、急遽地元建設会社が高級マンションを建てたという話も聞きましたが、東京の駅前マンションと違って資産価値も期待できないわけですから、終の住処として住もうとする人が今後発生するような好況がもたらされることを願うばかりです。

仕事を生み出すことができるか?が鍵

AiCTに今入っている企業は、アクセンチュアを中心として、

・会津大学との共同事業を進めている企業
・会津での公共系システムを開発していく企業
・会津若松を事業実証の場としたい企業

という風情の面々が並んでおります。
つまり、最後を除いては既に会津での仕事を得ている企業がほとんどです。

いや、当たり前と言えば当たり前です。採算性が見えなければ関係もない田舎にわざわざ企業の大事なリソースを割くわけがありません。仕事が生まれそうだから、東京や中国には企業が進出するわけです。
そこが地方の企業誘致における永遠のネックといえるでしょう。

つまり、AiCT およびスマートシティ構想によって、どんなビジネスが生み出されるか?を明確にして筋道をつけ、それに都心の企業が我先にと群がるくらいの魅力を持たせないといけないのです。

地方自治体のプラットフォームづくりだけでは雇用を維持できない

先の通り、現在の入居企業の多くは、会津若松を中心とした自治体からもう仕事がもらえるところです。
今のところ、入居企業は産学官連携と実証実験にばかり目が向いているように見えます。

つまり、市内で大多数を占める、中小企業や農家を含む個人事業者に対しての動きがまだ見えてきません

ビッグデータを使ったアナリティクスによって製造業の生産性を上げて行こう!という取り組みはあるようです。それは大事なのでぜひやってほしいですが、恩恵は一部の企業に限られそうです。

筆者が懸念するのは、やはり中小企業の業務効率化。それから、会津といえば稲作、つまりコメ農家のIT化
これらを避けて会津若松のスマートシティー化はなし得ないと同時に、そこにビジネスチャンスはないのでしょうか。
言い換えれば、それらをこの事業の主要テーマに据えることで、これまでにないほどのITビジネスが生まれるのではないかと思うのです。

地方の特色と向き合う覚悟が必要

会津若松のスマートシティ構想では「自治体としての特色を失っては本末転倒」との認識が共通化されています。

ならば、なぜ「稲作のICT化」が最大のテーマにならないのか。
水耕栽培や果樹・野菜のハウス室温管理ではなく、稲作でないとダメなのです。露地栽培とICTの相性の悪さをふまえても、なお、です。

悲しくも原発被害で価格が落ちましたが、福島県の米は新潟に遜色ないか、むしろ近年では食味評価で上回るほどです。「コメなんてどこで獲れたものでも同じだろ」とか、「魚沼が一番なんでしょ」という方は、会津の米について別に手前味噌な記事を書いていますので、この記事の後にぜひお目通しください。

会津地方は全国有数の米どころであると同時に、60歳台は若手、80歳越え当たり前という多くの零細農家が生活の糧および生きがいとして農家に勤しんでいます。一見足も不自由そうなじいさんが軽トラに乗り、コンバインに乗り移ります。それが会津の風景であり、地元民もそれが尊いものだと思っています。

日本の米は国際的な競争力が低く、農協の組織的課題があったり政治家の票集めのために聖域化しているのが問題で自立が必要などとも言われます。政策のまずさから引き起こされた値上がり、パスタやパンの台頭、更には糖質ダイエットが追い打ちをかけ、存在感が薄れつつもあります。しかし日本人にとってやはり稲作は文化そのものであり、風景です。そして会津は日本で一、二を争う米の名産地なのです。その肥沃な土地がなければ古い歴史もなかったでしょう。

会津といえば、酒造や漆器産業、焼物もそうです。最近は若い杜氏や職人もたくさんいますが、斜陽産業という捉え方は覆りません。しかしこういった伝統産業の復興は地域の魅力向上に不可欠でしょう。
海外旅行者のインバウンド需要に対応した旅行お役立ちシステム開発の話はたくさん出てきますが、観光資源そのものの魅力をICTでより磨くプランがあまり聞こえません。

なお、稲作のICT化については生産効率を上げるだけの効果に止まりません。
米農家かつ高齢者という会津地方のマジョリティーのデジタルディバイドを解消することは、会津のデジタルガバメントの実現の達成に不可欠なのです。

2月の確定申告時期に、会津アピオの確定申告コーナーがめちゃくちゃ混みます。皆e-Taxで申告するのになんの追加システムも要らないはずなのにもかかわらず、ほとんど利用しないのです。こういう人たちが、データのオープン化で便利なアプリを多数公開したとしても、果たして使うのでしょうか。スマートシティー構想に魅力を持つのでしょうか。市役所に電話で質問するのをやめてスマホアプリを立ち上げるでしょうか。

やはり下地としての中小企業の改革ありき

やっと第一歩を踏み出した勇者AiCTに対して、いきなり米農家の高齢者というラスボスを登場させて気持ちを萎えさせることがこの投稿の目的ではありません。
その前に、中小企業の惨状を革新することに目を向けてほしいというのが筆者の願いです。
それは「私の戦闘能力は53万です」のフリーザに比べれば、ギニュー特戦隊くらいのチョロさにすぎません。

確定申告の例はラスボスで出しましたが、ほかにも社会保険料、住民税等の源泉徴収、労働保険、入社・退職の際のそれらの手続きなど各種労務系の手続き。更には勤怠管理、休暇取得管理、給与計算。
それらの業務の煩わしさに、外部に業務委託する企業も多い中で、わからないながら高いパッケージソフトを使ったり、それこそ紙とハンコでやっている企業がたくさんあるわけです。
どっちみちどの会社もやらなければいけない業務は、クラウド上にSaaS化して、企業規模に応じて安価で使えるような仕組みがあったなら、多少コストがかかっても多くの企業が乗っかるのではないでしょうか。

更には請求書発行や支払い。中小企業の多くが県内企業から原材料を仕入れ、そして県内で販売する。支払いは地元の東邦銀行などをメインバンクとして送金している。
全部送受信プロトコルとデータフォーマットを統一化した基盤を作って、県内企業なら安価で使えるサービスを作ってくれたら、絶対使いたい。

こういった、やたら手間のかかる、企業が企業たるために必要な業務をICTで削減することができれば、会社が事業活動自体に時間を多く割くことができます。
更には、そのシステムを管轄する組織、自治体でも委託民間業者でもよいですが、そこではその運用管理、導入支援、サポートにIT人材を雇用できる
もっと言えば、それら業務システムを全従業員が否応無く使うことで、全従業員にデジタル耐性がつき、もっと高レベルの、データ分析だとかコミュニケーションツール、クラウドアプリなどITツールを使いこなすための素養、下地ができるのです。

下の記事では日本政府による「デジタル国家創造」について触れていますが、今回の取り組みよって会津が成功事例を作り、この国家施策を牽引することも夢ではないと思うのです。

会津若松市、およびAiCTに期待しています

というわけで、外野から暴論をぶち込んでしまいましたが、今回の事業に対し会津若松市および関係企業にとても期待しています。などとまとめてしまう予定調和的ですが、アクセンチュア中村さんのコラムを読むと、恐れ多くも基本的な思想は筆者と共通するなと思いました。まるでホラン千秋とウェンツ瑛士くらいの一致感です。

下記は中村さんの言葉です。

大企業にはグローバルな最新情報が提供されやすい一方で、中小企業には、そうした情報は届きにくい。格差を解消するはずのICT分野にさえ格差が生じている。こうした実情を私たちは問題視しています。

これは、私のマガジン「都会でSEに疲れたら、地方中小企業の経理になろう」で解決したい問題そのものです。

ICT栄えて国滅んではいけません
あくまでICTは主要産業を振興するための補助ツールであるべきと筆者は考えます。「日本はICTビジネスで食っていくんだ」くらいの方向転換が将来あるかもしれませんが、まだありません。しかし、「観光立国として食っていくんだ」は既に政府から発表されています。
IT人材を活かすとか地方に止めるとかの前に、「地方の主要産業をしっかりと盛り上げる」という目的意識を忘れないでほしいです。


なお、近隣の「磐梯町」も今盛り上がっています。協調できるところがあればやってほしいですね。

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2020/11/3 続きの記事を書きました!情報のアップデートがあるので、合わせてどうぞ。


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