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【読書録】『東京會舘とわたし』辻村深月

今日ご紹介するのは、辻村深月氏の小説『東京會舘とわたし』(2016年)。私が持っているのは、文春文庫版、上下巻。2冊合わせると完成するシャンデリアの表紙イラストが素敵だ。

『サンデー毎日』に連載された小説に加筆修正を施した作品で、「東京會舘」という建物にまつわる短編小説を、年代順にまとめたものだ。

「東京會舘」は、東京は丸の内の一等地にある、宴会場やレストランの入ったビルだ。東京出身の方や東京在住の方にはおなじみかもしれない。大正11年の創業から、現在まで、日本の社交場として重要な役割を担ってきた。

その東京會舘で働く人々や、東京會舘を舞台に歌う歌手や式典に参加する小説家、料理教室に通う生徒さん、お客として訪れる人々やその家族をとりまくストーリーを年代順にまとめたものだ。

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ところで、私が初めて東京會舘を訪問したのは、まだアラサーの頃だった。仕事上の会食のために上京し、上司とともに、取引先にコース料理をご馳走になった。

当時、華やかな場に全く不慣れであった私は、伝統ある洗練された社交場という雰囲気に、完全に気圧されてしまった。同時に、こういう場所に似合うような、品のある女性になりたい、という憧れも抱いた。

その後、今年まで、東京會舘を訪問する機会には恵まれなかった。

今年になって、コロナによる行動制限が解除され、久しぶりに、私の敬愛する女性たちとの女子会が開催されることになった。その幹事さんが指定したのが、東京會舘の「ロッシニテラス」というお店だった。

この女子会の参加者のおひとりが、食事の場で、この小説について話題にした。東京會舘で提供されている料理や飲み物、お菓子などのエピソードを紹介していもらい、場が盛り上がった。歴史的な場所で、昔から守られ続けたレシピに基づく美味しいお食事ができる幸せを味わった。(このときのディナーを、以下の記事にまとめました。)

その夜、帰宅してすぐに、アマゾンでポチっとし、この作品を購入した。

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前置きが長くなったが、そうしてこの本と出会い、文庫本2冊に収録された11の短編小説を、一気に読み切ってしまった。

取材に基づく事実と、創作を交えた、心温まるストーリーの数々。マッカーサーの視察や、3・11地震、直木賞受賞会見など、さまざまな歴史的な場面が出てくる。複数のストーリーにわたり、同じ人物や同じエピソードが登場し、連続性を持たせている。東京會舘の脈々と続く歴史が、順を追ってわかりやすく描かれており、まるで大正から令和にかけて、自分の目で東京會舘を見守ってきたような感覚に陥る。

何より素晴らしいのが、東京會舘のさまざまな持ち場で、見事な気配りを見せるスタッフたちと、それぞれの理由で東京會舘を愛するゲストたちとの、一期一会の交流の描写だ。とても人間味に溢れていて、感動を呼ぶ。読みながら、何度も涙してしまった。

東京會舘に対する愛とともに、東京會舘を愛した人々に対する愛にも溢れる一冊だ。これを読むと、東京會舘に行ったことのないあなたにとっても、東京會舘が特別な場所になるだろう。東京會舘には、是非とも、今後も末永く存続していただき、東京を代表する社交の中心地であり続けてほしい。

この本を読んで、東京會舘に食事にお出かけになってはいかがだろうか。

ご参考になれば幸いです!

私の他の読書録の記事へは、以下のリンク集からどうぞ!


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