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【読書録】『幸福の「資本」論』橘玲

今日ご紹介する本は、橘玲(たちばな・あきら)氏の『幸福の「資本」論』(ダイヤモンド社、2017年)。

橘氏は、作家で、金融や経済をテーマとするフィクションやノンフィクション作品を多く世に出している。昨年、同氏の著書『働き方 2.0 vs 4.0』についての読書録記事をアップした。

 『働き方 2.0 vs 4.0』は、タイトルのとおり働き方に焦点を当てた本であったが、本書『幸福の資本論』は、同氏が、幸福な人生の設計について提案する本だ。

幸福の土台となる3つのインフラや、人生の8つのパターンという独自の切り口で、人間の幸福について分析していて、なるほど、と膝を打つことが多かった。

以下は、私の備忘録。

 幸福の3つの条件

①自由、②自己実現、③共同体=絆

 幸福の3つのインフラ

①金融資産、②人的資本、③社会資本。

人的資本=自らの労働力を労働市場に投資して給与や報酬という富を得ること。
社会資本=まわりのひとたちとの関係性から富を得ること。

人生の8つのパターン

「貧困」「退職者」「ソロ充」「プア充」「リア充」「旦那」「金持ち」「超充」の8パターン。

資本をひとつしか持っていないと、ちょっとしたきっかけで貧困や孤独に陥るリスクが高くなるが、2つの資本を持つことができれば、人生の安定度ははるかに増す。

ただし、3つの資本を同時に持つ「超充」になることはおそらく不可能。理由は、お金と共同体の道徳が対立するから。

「貧困」= 金融資産なし 人的資本なし 社会資本なし
「退職者」= 金融資産あり、人的資本なし、社会資本なし
「ソロ充」= 金融資産なし、人的資本あり、社会資本なし
「プア充」= 金融資産なし、人的資本なし、社会資本あり(地方在住のマイルドヤンキー)
「リア充」= 金融資産なし、人的資本あり、社会資本あり
「旦那」= 金融資産あり、人的資本なし、社会資本あり
「お金持ち(投資家/トレーダー)」= 金融資産あり、人的資本あり、社会資本なし
「超充」= 金融資産あり、人的資本あり、社会資本あり

お金と幸福に関する法則

①年収800万円(世帯年収1500万円)までは、収入が増えるほど幸福度が増す。
②金融資産1億円までは、資産の額が増えるほど幸福度は増す。
③収入と資産が一定額を超えると幸福度は変わらなくなる。

 フリーエージェントのすすめ

基本戦略
①好きなことに人的資本のすべてを投入する。
②好きなことをマネタイズ(ビジネス化)できるニッチを見つける。
③官僚化した組織との取引から収益を獲得する。

サラリーマンでは、定年退職で人的資本と社会資本を失うから、フリーエージェントとしてプロジェクト型(映画製作など、プロジェクトとして人が集まり、終われば解散する)の仕事をするという、生涯現役戦略が良い。

社会資本について

幸福は社会資本からしか生まれない。

徹底して社会的な動物であるヒトは、家族や仲間と”強いつながり”を感じたり、共同体のなかで高い評価を得たときに幸福感を感じるような生得的プログラムを持っている。

金融資産と社会資本は原理的に両立不可能。富(金融資産)が大きくなると、すべての人間関係に金銭が介在するようになって友情は壊れていく。地方のマイルドヤンキーが友情を維持できるのは、全員が平等に貧しいから。

強いつながりに留意すべき2つの問題点

①社会資本を一極集中しているため、一瞬でなにもかも失ってしまうリスク。(⇔弱いつながりは、社会資本を分散投資しているのでリスク耐性は強い。)

②社会学でいう内集団であり、メンバーの情緒的共感が幸福感を生む一方で、一体感が外集団(自分たちでない者)の排除や差別からもたらされる。いじめなど、友達の輪が残酷さをもつ。
(⇔弱いつながりは、お互いの価値観が似ているという「認知的共感」によって境界の曖昧な集団を構成するから、異質な存在に対しても寛容。)

幸福な人生の最適ポートフォリオ

金融資産あり
人的資本あり
社会資本:強いつながり(家族・恋人など)を最小化して、友情を含めそれ以外の関係はすべて貨幣空間に置き換える

感想

まず、幸福になるために、「金融資産、人的資本、社会資本」という3つのインフラがあるという考え方が、大変分かりやすく、腑に落ちた。

しかし、その3つのインフラは、増えれば増えるほど幸せになるというものではない。この皮肉な指摘が、特に印象に残った。

幸福になるために、人は金融資産を増やしていくが、一定限度までは幸福度が増すものの、限界効用は次第に逓減しゼロになる。

そして、金融資産が増えると、友情に金銭が介在し、つながりが壊れ、社会的資本が失われてゆく。社会的資本からしか、幸福は生まれないにもかかわらず、である。

そこで、幸福な人生の最適ポートフォリオとして、強いつながりを最小化することや、フリーエージェントとしての生き方を提案する。

著者の言うフリーエージェント的な生き方は、凡人にはかなりハードルが高いだろう。しかし、意識して、自分なりの方法で、3つのインフラを、個人の性格や考え方に合ったポートフォリオで築いていくことはできる。

「3つのインフラでポートフォリオを組む」という本書の考え方は、これから幸福になりたい人にとってはもちろん、既に自分は幸福だと思っている人にとっても、残りの人生設計を考えたり、見直したりするために、大いに参考になるだろう。

ご参考になれば幸いです!

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