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【読書録】『ピークパフォーマンス』野上麻理

今日ご紹介する本は、野上麻理氏の『ピークパフォーマンス』(2021年10月、WAVE出版)。副題は『効率と生産性を高め、成果を出し続ける方法』

著者の野上麻理氏は、ピカピカでバリバリのビジネスウーマンだ。P&Gのマーケティング系のお仕事でキャリアを築かれ、その後は、日系製薬会社・外資系製薬会社の日本法人の社長を歴任している。私から見ると、まさに、雲の上の人。

野上氏のすごいのは、仕事だけではなく、私生活も大変充実していることだ。お子さんを2人出産され、お子さん連れで、スウェーデンへ海外駐在されたという。現役のトライアスリートでもあり、フルマラソンは3時間15分を切り、トライアスロンで年代別入賞をされるという。

この方のことを知ったとき、率直に言って、野上氏が、とても自分と同じ人間であるとは思えなかった。

しかし、この本を読んで、納得できた。野上氏は、上手に効率と生産性を高めることによって、仕事でも私生活でも、自分のやりたいことにエネルギーを集中させ、見事、ご自身の望みを実現してきたのだ。そして、この本で、ご自身の人生の軌跡を織り交ぜながら、その秘訣について明らかにしてくれている。

以下、例によって、印象に残ったくだりをいくつか要約して、書き留めておく。

総論

パフォーマンスを最大化するためには、時間を管理するのではなく、エネルギーを管理する。

p23

ビジネスのプロがパフォーマンスを最大化するための4つのエネルギー

・身体のエネルギー
・感情のエネルギー
・思考のエネルギー(集中力)
・精神のエネルギー(自分が人生で大切にしていること)

ピラミッド構造になっていて(注:下から身体→感情→思考→精神)、《身体のエネルギー》がもっとも基礎的なエネルギーでベースになり、《精神のエネルギー》が全体の方向性を決め、下の3つのエネルギーを統制することで、最大出力を生み出せるという仕組みになっている。

p26-28

ビジネスのプロである以上、自分が再考のパフォーマンスを出せる状態を自己管理することは、スポーツのプロと同じで大切なこと。

p41

仕事でも私生活でも、最大のパフォーマンス、成果を出したいのであれば、そのことに興味を持って、最高のエネルギーを振り向けることが必要。

p46

身体のエネルギー

《身体のエネルギー》を増やすためには、次の4つが大切。

・正しい食事
・運動習慣
・睡眠(早寝早起き)

《身体のエネルギー》は年齢とともに落ちるので、意図的に上げる習慣をつくる。

p81

感情のエネルギー

感情的に反応することをやめる。
起きてしまったことに振り回されるのではなく、自分がコントロールできる範囲の中で最善を尽くす。
人を責めるより、問題を解決することに全力を尽くす。

3つのステップ
①深呼吸をし、「対処方法を決めて状況をコントロールするのは私だ」と思う
②最悪の状況を思い浮かべて、それを回避することに集中する。
③できれば、最悪の状況から何かポジティブな副産物ができないかを考える(プロセス改善のきっかけを見つけたり、相手に貸しをつくったりする)。

p90-91

ストレス耐性を、負荷を上げながらつくる。
心の安心安全な場であるコンフォートゾーンの外に出るようなプロジェクトや役割に自ら挑んでいく。
まったく違うバックグラウンドの人と話すなど、多様性を取り入れて、考え方や受け止め方の幅を広げる。

p96-101

思考のエネルギー

ビジネスマンでもフリーランスでも、自分のキャリアを左右する重要な出会いやプレゼンがある。最初は、それがいったいいつなのか、自分ではわからないものだが、意識してそういう場を探し、そこに向かって集中力を上げる訓練を積んでおく。

p109

思考のエネルギーをコントロールする3つのステップ
①勝負どころ、集中のしどころを知る。
②リハーサルをする。
③動作の初めにルーティンを作り、本番でリハーサルの感覚を取り戻せるようにする。

p111

集中力を上げるために、集中しないときを積極的に作る。高いエネルギーを発揮しようとするなら、その前に思いっきりエネルギーを低くしておく。仕事を完全にシャットダウンし、リラックスする。仕事と私生活をしっかり分けて、メリハリをつける。

p114-117

精神のエネルギー

自分が人生で大切にしていることを意識して仕事にも向き合う。

《身体・感情・思考のエネルギー》は、エネルギーを高めるための必要条件だが、最高のエネルギーを発揮する十分条件には、もっと根源的な、自分の精神が大きな役割を果たす。

・自分がどんな人間で、どんなときに最高のパフォーマンスを発揮できるのか
・自分はどんな生き方をしたいのか(自分の墓標になんと刻まれたいか)
・自分が考え得る最大の挑戦は何なのか
を明らかにする。

p121-124

「なぜ自分は生きているのか」「自分が人生で大切にしていることは何なのか」の答えと、「なぜ自分は働いているのか」の答えが、近ければ近いほど幸せで、エネルギーも発揮しやすくなる。

p127

自分の価値観を書き出し、自分の価値観とのギャップのある点について「現在のストーリー」を書き出す。このままではダメだという意識があれば、そのストーリーを自分の価値観と結び直してその結果を受け止め、本当に変わらなければいけないという意識を強くし、自分の「新しいストーリー」を書き出す。

p132-145

生産性と効率を上げる基礎能力

著者が重視しているスキル3つ
・目的を明確に定義する能力
・情報のインプット・アウトプットの速さ
・物事の本質をシンプルにつかんで説明する能力

p150

メールに時間を取られないルール
・1日1~2回しか見ない
・メールを開いたら処理するまで閉じない
・組織に影響するメールにはルールをつくる

p165-169

時間を作り出す方法
・仕事を「見える化」する。
・アウトソーシングする。
・道具を使う

p170-177

習慣化する力

習慣化のポイント
・行動に移しやすいように、具体的な行動目標を曜日や時間を含めて決める。
・最初の2~3か月は意図的にがんばって繰り返す
・行動がとりやすくなる「サポートシステム」を持つ(宣言、ご褒美など)
・1度や2度できないことがあっても諦めない

p181-189

自分だけの強烈な強みをつくる。
強みづくりのためなら継続できる。
人と違う分野で習慣を積み上げ、専門性を高める。

p190-199

感想

本書の表紙や帯を初めて見たとき、「ピークパフォーマンス」とか「エネルギーのマネジメント」とか、カタカナの大きな文字が目に飛び込んできた。第一印象としては、正直言って、少々、暑苦しそうだな、とか、なかなか読むのがしんどそうだな…、と感じた。

しかし、一旦読み始めると、とてもシンプルで、意外に読みやすい本だった。平易でわかりやすい文章で、忙しい日々の隙間時間に、サッと通しで読め、比較的容易にエッセンスをつかむことができた。

本書には、既に巷で見聞きしているようなことも多く書かれていた。今までの人生で、読んだり聞いたりして得た知識を思い出しながら、復習するつもりで読んだ。

たとえば、「身体のエネルギー」で述べられている「食事・運動・睡眠」の重要性は、誰でも知っていることだ。

「感情のエネルギー」で書かれている、最悪の事態を想定し、コントロールできることに集中する、というのは、先週ご紹介した『幸福論』(ラッセル著)にも出てきた。

「思考のエネルギー」で、ここぞという発表の前にリハーサルをすることは、私も実践していることだ。

「生産性と効率を上げる基礎能力」のくだりも、特にものすごく目新しいものはない。時間を作り出す方法については、以前ご紹介した『自分の時間を取り戻そう』(ちきりん著)とも共通するものが多い。

しかし、他のエネルギーをコントロールする最も大切な「精神のエネルギー」をどのように増やしていくかのくだりについては、オリジナリティがある。

本書のなかでもコアになる部分であり、精神のエネルギーを充実させるマインドセットを持つためのトレーニング方法が、具体的かつ丁寧に記されていた。

精神のエネルギーと言っても、スピリチュアルなものでは全くない。自分の大切にしている価値観を洗い出し、その価値観とギャップがある現状を「ストーリー」として言語化し、それを一度、しっかりと受け止める。そして、それを、理想のストーリーに再構築して、自分の大切な価値観と結び付ける。ポジティブで健全な精神を保つためのトレーニングだ。

ここは時間をかけて読んで、実際にやってみた。とても有益なエクササイズだった。

このトレーニングを実際にやってみると、それなりに、精神的な負荷がかかる。多くの人にとって、普段の生活の中で、自分は何のために生きているのか、何を大切にしているのか、を考える機会は、あまりないだろう。そんななか、自分自身と向き合って対話するのは、なかなかしんどいかもしれない。理想からかけはなれた生活を送っている現状が浮き彫りになると、それを受け止めるのはつらいかもしれない。

しかし、そこを出発点とし、自分の価値観に合致した人生を再設計することができる。これからの人生を、エネルギーに満ちた、希望にあふれたものにできるだろう。

「自分の人生、なぜか、うまくいっていないな」とお悩みの方には、本書を手にとって、このトレーニングを実際にやってみて、エネルギーを高める機運をつかんでいただきたい。

これから社会人になる学生さんや、社会人初心者などの若い人にも、これから残りの人生を充実させたいミドルやシニアにも、すべての人にとって参考になるだろう。

そして、何より、これからキャリアを築きたい、仕事もプライベートも妥協したくない、と考えている女性にとっては、特におすすめしたい。

野上氏は、まだまだ女性リーダーが少なく、おそらくロールモデルなどほとんどいなかったであろう時代に、悩み、考えぬき、試行錯誤しながら、道を切り拓いてきた。そんなご自身のストーリーが、本書全体に織り交ぜられている。そして、これから後に続こうとする世代に熱いエールを送ってくれている。同じ女性として、男性著者による自己啓発本と比べて、ずっと強い影響を受けた。

ご参考になれば幸いです!

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