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DXの怖さを、標本化定理から考えてみる

DXって知ってますか?

デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略です。

「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念である。デジタルシフトも同様の意味である。2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱したとされる。
(Wikipediaより)

デジタル化によるノイズ

”デジタル”とは、連続値(アナログ)を離散的なデータで扱う事です。信号処理の話になりますが、アナログをデジタルに変換する(AD変換:Analog-Digital変換)において原則となるのが、標本化定理(Sampling定理)です。

標本化定理とは、アナログ値をサンプリングするときに、元の信号周波数の2倍以上の周波数で行わないと元の信号を再現出来ない、というものです。簡単に言うと、元の信号の変化の速さよりも2倍以上の速さで計測してデータにしないと元の信号はちゃんと捉えられない、という事です。

もし、この定理を守れないと、折り返し(Aliasing)雑音というノイズが発生します。このノイズが発生すると、元の信号には無かった偽の信号が発生してしまいます。

例えば、夜間に車のタイヤを見ると逆回転しているように見えることが無いですか?

これはワゴンホイール効果と言われたりします。この動画は昼間ですが、スマホで撮影することによって、スマホカメラのサンプリングレート(1秒間に何枚撮影するか?)が、元のタイヤが回転する速度の2倍よりも低いために発生します。

夜間に見えるのは、蛍光灯の点滅(これは電気の周波数で決まります)の周波数がタイヤの回転の2倍よりも低いと発生します。

または、テレビでアナウンサーの服がやたらと縞々に見えることが無いですか?

これは服の元々の縞模様や、記事の細かい縫い目の周波数(どれだけ細かいか?)が、撮影しているカメラの画素数で決まる空間周波数(どれだけ細かく撮影できるか?)の半分以上になっていることから発生します。

これがデジタル化によるノイズです。

DXで発生するノイズ

では、デジタルトランスフォーメーションと言われているビジネスの中でも同じようなノイズが起きないのでしょうか?

デジタルトランスフォーメーションで重要になるのは、従来、アナログ的に捉えていた情報をデジタルデータにすることです。

例えば、ユーザーの行動履歴を何らかの手法でデジタルデータにして、その結果を基に推薦を行うサービスが考えられます。AmazonやNetflixや、ありとあらゆるサービスでAIを活用した推薦が行われますよね。

これらのサービスでは折り返し雑音は発生していないのでしょうか?

Amazonでは、自社のサービスを利用した顧客の行動(閲覧、購入など)をデジタルデータとして、その蓄積から推薦を行います。このサンプリングは、顧客が行動した時に発生します。

推薦エンジンでやりたいことは、顧客の心理状態を把握して、あなたはこんな商品を買いたいと思っていますよ、とお勧めすることです。となると、顧客の心理状態が元の信号です。これを非常に粗いサンプリングでデータ化している状態です。心理状態がどのくらいの周波数で変化するのか?というのは科学的に測ることは困難ですが、Amazonへのアクセス頻度の半分以下の変化という事はないのでは?

標本化定理の視点からは、Amazonは顧客の心理状態を正しくデジタル化出来ていない、という事になります。

折り返し雑音が発生していると、本来の心理状態にはない、偽の状態が作り出されているかもしれません。そのデータに基づいて推薦を行うので、間違った推薦が行われるかもしれません。

ここで重要なのは、正しくデジタルデータに変換するという事です。

さもないと偽の信号を作り出してしまう可能性があるからです。

○○Tech

最近よく見ますよね。EdTechとか、FinTechとか、HRTechとか。

○○にあたるところは応用領域です。Ed=Education(教育)、Fin=Finance(金融)、HR=Human Resources(人事)という感じです。

Techはテクノロジーです。

○○の領域で、テクノロジーを用いて新たなイノベーションを起こしたり、自動化による業務効率改善を行うものが○○Techです。ここでいうテクノロジーの主役は情報処理技術(ICT)になるので、デジタルトランスフォーメーションが主体になります。

ここまで読んでいただいた方にはお分かりかと思いますが、○○Techを正しく活用していくためには、デジタルデータの質が重要になります。

EdTechの例で考えてみましょう。

例えば、生徒の学習活動をデジタルデータに変換し、これを用いて学習評価を行う、というような事例の場合、何の元信号をどういうサンプリング周波数で取るかが重要です。

学習の途中で行われるテストの結果をデジタルデータとして、その変化から学習の効果を計る、というような場合、テストの間にある様々な学習活動はサンプリングされません。生徒がいろいろと思考した行動がデータに反映されていないので、偽の信号が表れる可能性があります。

これまでアナログ的で定性的な見方をしていたものが、定量化されることで誤差を含んでしまうのです。この誤差を含んだ数値が独り歩きをして正しいものと認識されてしまう。

これがデジタルトランスフォーメーションの怖さだと思います。

現在はDX, ○○Techが大流行です。そもそもICTをデジタル技術と呼ぶこと自体がセンス悪いな、と思いますが、テクノロジーは正しい使い方をしなければ、有益な効果が得られません。

猫も杓子もDX, ○○Techという前に、何の情報を、どのようにデータ化し、どういう効果を得るために情報処理するのか?をしっかり考えることから始めることが大事ですね。

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