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教員の学びをアップデートしたい/イノーバティーチャー インタビュー(中楯浩太さん)

未来の子どもたちのために教育にイノベーションを起こそうとしている教員InnovaTeacher(イノーバティーチャー)のインタビューシリーズです。第1回目は、世田谷区立等々力小学校の中楯浩太さんです。

【プロフィール】中楯浩太さん
東京都公立小学校の教師。
「社会科教育連盟」に所属して社会科を中心に研究を重ねてきた。現在は、社会科に関心のある小中高の教師の学びの場として「Social Borderless 」を組織して活動中。よりよい社会科の実践と実社会で活躍する人々の話をもとに、参加者と語り合う「社会科プレゼンふぇすてぃばる」を開催している。
また、東京都周辺の各教科の指導教諭を中心にして、教科の垣根を超えて、互いの専門性について学び合い、教育の本質を考える「教科横断プロジェクト」を立ち上げて活動。

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最初は体育の教師になりたかった

- なぜ教師になったのですか?

もともとスポーツや体育が大好きだったんです。小学校から大学まで、その日1日が楽しいかどうかは、体育の授業があるかどうかにかかっていました(笑)。なので、その延長で、初めは中学校の体育の教師になりたかったんです。ですが、高校生になった頃に、日本全国で子供達がいじめを苦にして自殺するという報道を多く目にするようになって、心を痛めました。この問題を何とかしたいと、心から思うようになって、そのためには中学校よりももっと早い段階で、心の教育も含めて、いじめがなくなるような教育をしたいと強く思うようになりました。

でも、やはりスポーツの道は捨てられず、大学は教育系には行きませんでした。スポーツ用品メーカーに就職しようと思ったからです。しかし、残念ながら最終面接で落ちてしまいました。傷心の旅ではないですけど、人生を見つめ直す旅に出て考え直した結果、もう一度原点に戻って教育の道を進もうと思い、やり直したんです。そこからは、脇目も振らずに通信教育で勉強をして、資格を取って、今に至ります。

- 教師になって良かったと思うことは何ですか?

初めはとにかく子供たちと休み時間に一緒になって遊ぶのが、本当に楽しかったです。休み時間にクラスのみんなで東と西に分かれてやった「相撲大会」は、白熱しましたね。先生になってからやってみたい事はたくさんあって、温め続けてきたんです。子供達が自分の好きな本を家から持ってきて学級文庫に大量に並べて、オススメの本について自由に語り合う時間。『キン肉マン』『ドラゴンボール』『スラムダンク』などの大好きだった漫画を教材化した道徳の授業。明治大学の齋藤孝先生の考案した“3色ボールペン”を使って線を引いたり書き込んだりする読書活動。心にグッと迫って本気で考えさせられるような素材を世の中から探して教材化することなど、やりたいことはたくさんありました。

外に出て新たに研修会で学ぶことも大好きで、楽しそうな事や、子供に力が付きそうな事を実践するたびにワクワクしていました。子供の反応が明らかによくなって、その表情を見るのがたまらなかったですね。3年目から社会科を専門に学び始めたんですが、教材のタネが世の中に無限にあって、エンドレスで教材準備を行ってましたね。今では、「働き方改革」に引っかかってしまうかもしれませんが(笑)、こだわって魂を込めたものが子供の成果につながると、もう最高で、「教師になってよかったなぁ」って、つくづく思いました。

自分を大切にできる人を育てたい

- 教師として子供たちにはどんな大人になってほしいと思いますか?

若い頃は、子供たちがいろいろな事が出来るようになって欲しいと思っていました。でも、今はそうではなくて、「自分を大切に出来る人」になって欲しいと思っています。

- どうして考えが変わったのですか?

「ティーチャーズ・イニシアティブ」という学びの場に参加したことは大きかったですね。自分の生き方を見つめたときに、できることをいくら積み重ねてもそれはもろい、という事に気付いたのです。何かが出来ることよりも、「そこにいること」、「自分らしくあること」の方がずっと大事だという事に気付きました。

ですが、自分は小さい頃から無意識のうちに「出来ること」、「人と比べること」、「人よりすごいこと」で自分を安心させようとしてきてしまっていたので、やはり必然的にそういう教師になっていました。それに気付くきっかけを与えてくれたのが、「ティーチャーズ・イニシアティブ」での学びであり、目の前の子供たちの姿でした。自分を見つめ直すと、これまでやってきたことは違ったんでないか、と強く思うようになり、今は「まずは、自分を大切に」ということを大切にしています。

ティーチャーズ・イニイシアティブ
一般社団法人ティーチャーズ・イニシアティブは、「先生こそが真に未来をつくることができる」という考えの元、先生たちと共に学び、日本の教育をよりよいものにしていくために設立されました。21世紀型の学びを探求する先生向けのプログラム、「21世紀ティーチャーズプログラム」を全国の先生に提供しています。
https://teachers-i.org/

鈴木寛と聞いてティーチャーズ・イニシアティブに申し込んだ

- なぜティーチャーズ・イニシアティブ(TI)に参加したのですか?

「将来、中楯は何になるんだ?」と周りの人からよく言われてたんです。社会科をバリバリやっている状況を見て、その行きつく果てはどこなんだ?と。自分の良さは生かされないかもなと思い込んでいて、指導主事や管理職になることには興味が無かったんですが、しいて言えば、唯一興味があったのは、確か当時文部科学大臣補佐官だった「鈴木寛」さんだったんです(笑)。周りにも公言していました。

ある時、友人から「最先端の学びの場」があると聞き、それがTIの合宿でした。その理事に「鈴木寛」という名前を見つけて、すぐ飛びついて申し込んだんです。妻に合宿費を借りたり、家族旅行をキャンセルさせてもらったりと、今にして思えばもうごめんなさいとしか言いようがないんですが、直感に従って決断したんです。もちろん、当時もごめんなさいしましたよ(笑)。

世界が見えている鈴木寛さんと、あと幸福学の第一人者の前野隆司さん、この二人にものすごく関心があったので、この二人が理事なのであれば絶対に話が聞きたいと思って飛び込みました。

どん底に叩き落され自分自身を見つめ直した

- TIに参加して、どんな変化がありましたか?

TIによる学びの大きさは、メンタルモデルを絶えず更新できる自分になっていったことだと思います。これまでそんなに意識してこなかった、自分のものの見方や在り方、行動等は、実は当たり前ではない、と自分をメタ認知することができるようになったんです。「本当にこれは大切なことなのか?」「そこまでこだわる必要があるのか?」「自分は何を大切にしたいのか?」という、自分の在り方を絶えず見つめて気付けるようになったことが一番大きいですね。

学びによる変化はすごく大きくて、1年目はメンタルモデルが変わるとこんなに世界が変わるんだ、自分が動けば世界が変わる、という感覚に包まれていました。幸福感もものすごい強くなり、今の日本の学びは全然幸福につながっていないから、もっと幸福に直接つなげたいと思いました。自分のやっている教育では決して幸せになれないのではないか、と思ったんです。

でも、そんな幸福感は長く続かず、翌年には管理職から「あなたのそれがダメだ」と何度も言われてどん底まで叩き落されました。自分が強みだと思っていたことが、そこがダメだと毎日指摘されました。実際に学級の様子もあまりよい状態とは言えず、やっぱり自分のせいなのかな、と痛感しました。もう教師を続けていられないなとまで思い、TIで学んだことは苦しい現実を前にすると通じない、意味無かったと思ったのが2年目でした。

3年目は心のリハビリ期間で、周囲の仲間達に支えられて精神的に安定してきて、新しい事、新しい繋がりを大事にしてやっていこうと思えるようになってきました。4年目になって完全に吹っ切れて、教師教育をなんとかしたいという意識が強くなりました。

つまり、TIでの学びは、一過性のものではないし、すぐに何かの役に立つ教育技術というものでもないんです。また、一回学んだからと言って、永久不変に生かせるものでもなく、時間と状況と共に学んだ意味さえも変化するという本当に不思議な学びでした。きっとこれからも学んだことの意味は、変化するんだろうと思っています。

- どういうところがダメだと言われたのですか?

私の教師としての在り方や子供への温かさが足りない、という事なのだと解釈しています。思い悩んでいると、私が自分の being (ありのままの存在)を受け止めていない、という事に気付かされました。自分が自分の being を受け止めていないから、他人の being を受け止めることが出来ず、doing(できること) ばかりを高めるような教育をしてきてしまった。子供にとって一番大切なのは、「自分で自分のことを認め、大切にできるようになること」だと思うし、私自身もそうなりたいと思えるようになりました。ここに向き合わせてくれたのは、周囲からの指摘や子供の姿だったと思っています。

「勉強」と「学び」は違うもの

- 教師の学びをどうアップデートしたいと思っていますか?

日本の「勉強」という言葉のイメージはマイナス過ぎると思います。勉強は、「やらされるもの」、「我慢するもの」、「役に立たないもの」の代名詞になってませんか?だけど、本来人間は「学ぶ」ことは好きですよね?赤ちゃんや幼稚園児を見ていると、もうそれは明らかです。遊びながら学んでいますよね。でも、学校に入るととたんに興味ないことを無理やり勉強させられる感覚が強くなって、運が悪ければ16年間もその環境の中で育った教師の卵たちは、目の前の子供たちにその勉強を再生産するから、日本の学びはいつまでもこの悪循環から抜け出せなくなっているんじゃないかと思っています。

学びは、人と比較して優越感に浸ったり、それによって自己肯定感を高めたり、テストで答えられるためにするのものではないと思っています。全員が学びが好きで生まれているので、全員が学び好きなまま大人になれるような世界にしたいと思っています。このためには学校教育にかなり問題があると思うのです。この問題を作っているのは、社会構造もそうですが、教師の学びの在り方だと思うので、まずは、私も一緒になってこの点をアップデートしていきたいなと思っています。学びは楽しいし、学びは遊びと同じような感覚であることをもう一度実感できるような機会と場を提供できればなと思って活動しています。

人が変わるのは、困ったときと、憧れたとき

- 具体的にはどんなことをやりたいのですか?

人が変わるのは大きく二つあると思っています。一つは、困ったとき。もう一つは憧れたとき。この二つを上手く活かしながら、人の困っているところに私たちが学んできた何かをさっとサポートしてあげたい。教材の準備でも、指導方法の共有でも、研修会への紹介でも、社会で活躍する人とつなぐことなど、どんな形でもいいので、困っている人のためになるような支え方をしていきたいです。

もう一つは憧れ。自分がある世界や人物などに憧れをもって行動して、それを常に発信していれば、それに共鳴してくれる人もきっといると思います。まずは、一回の体験が非常に大切だと思っています。私の場合も、他人事から自分事に変わる一番のきっかけは、憧れの場や人と体験を共にすることでした。

多くの教師は、困っています。また、世界を広げたいとも思っています。この二つのエネルギーを教師が変わるきっかけにしていきたいと思っています。

日本を対話の渦に巻き込みたい

- 未来の子どもたちのために改革をしようとしている人たちへのメッセージをお願いします。

私は、TIをきっかけにして「自分が動けば、世界が変わる」ことを経験しました。でも、「自分一人では何もできない」という事も同時に感じています。なので、皆さんと一緒に「豊かな対話で、クリエイティブに学び合える日本」にするために、手を携えてほしいな、と思っています。


【インタビューを終えて】

中楯先生とは1年ほど前に知り合いました。私が開催したワークショップに参加してくれたのですが、その時から、とにかく”熱い”、”新しいこと大好き”な先生だなと思っていました。中楯先生が中心となり、東京都の小学校社会科部の先生方による「社会科プレゼンふぇすてぃばる」というイベントが立ち上がり、先生同士が授業実践のプレゼンテーションをしながら学び合う場が出来ているのですが、まさに教師の学びをアップデートする活動を実践されています。

そんな熱い中楯先生ですが、学校現場でTIの学びが通用しないと感じて大きく落ち込み、自らの在り方を見直し、「自分のありのままを受け入れられる人」を育てたいと思うようになった、という経験が、葛藤を乗り越えて成長していくことを大切にする姿勢に繋がっているのだと感じることが出来ました。

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