わたしのおとうさんのりゅう 〔第7回〕
人を小ばかにしたように
『ドリトル先生のキャラバン』はこんなふうに始まります。
『ドリトル先生のサーカス』で、サーカスという興行に、言い替えれば「遊行の芸能」に身を投じたドリトル先生ですが、その後、町の動物屋で一羽のカナリアをみつけました。雌鳥は歌わないと先生は考えていましたから、安値で、期待せずに買ってきたわけですが、このカナリア、実は歌も作曲も天才的でした。
その場面を引用しますが、英語原文もつけておきます。井伏鱒二のすごいわざを見てください。原文で、カナリアはかなりぶっきらぼうな受け答えをしていますが、日本語訳では、一文を長くし、敬語を使うことで、自分を引き下げています(ダブダブほどじゃありません)。井伏鱒二によって、彼女の自我の強さと先生に対する敬意とが、翻訳され、強調されて、あらわされているのがよくわかるかと思います。
「わしは、おまえが、雌鳥かと思っておった。」と、先生はいいました。
"I thought you were a hen," said the Doctor.
「そうなんですよ。」と、カナリアがいいました。
"So I am," said the bird.
「それにしては、歌をうたうじゃないか!」
"But you sing!"
「でも、歌をうたっていけないわけは、ありませんでしょう。」
"Well, why not?"
「しかし、雌のカナリアはうたわぬものだ。」
"But hen canaries don't sing."
緑色の小鳥は、人を小ばかにしたように、声をふるわせて、長いこと笑いました。
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