役人の栄え・虚飾の滅び
くすくす笑う美男の集団がどこの誰だかはわからなかった。なんでそんなところに美男が集まっているのか。役者衆か。或いは何処かの抱え衆なのか。だがそれにしてもあんな美男の前でみっともない姿は見せたくねぇ。そう思った次郞長はある決意を固めた。そう、どれほど打たれても絶対に音を上げない、声を出さない、と心に決めたのである。
と言うと簡単なように聞こえるが、よくよく考えればこんな難しいことはない。というのはそらそらそうだろう、家の中で箪笥の角に足の指をぶつけただけでも、「いってぇー」という声が出てしまうが、これを意思して抑えることはできない。なぜならなにも思う前に咄嗟に出てしまう声だからである。
痛い、と言ったからといって痛みが減じるわけではない。誰かが介抱してくれる訳でもない。なのに、痛い、と言ってしまうのは、その語が意味のある語ではなく、もはや呻き声や叫び声と同じような無意味な音声であるからである。
ちょっと足の指をぶつけただけでそれなのだから、竹に麻糸を巻いて拵えた専用の棒で背中を打たれたらどうなるか。咄嗟に声が出ることを押しとどめることはまずできないだろうし、その声は、もはや、痛い、という言葉ですらなく、まるで動物のような悲鳴となるだろう。
それでも意志の強い人間なら最初の十回くらいは歯を食いしばって耐えることができるかもしれない。しかし十回、二十回と打たれるうちに肉が破れてくる。だからといってやめてくれるわけではなく、その傷口へさして情け容赦なく棒が振り下ろされる。血飛沫が飛び、肉はさらに破れてミンチのようになる。
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