2020年4月20日の『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』
パン屋、ミニスーパー店員、専業主婦、タクシー運転手、介護士、留学生、馬の調教師、葬儀社スタッフ……コロナ禍で働く60職種・77人の2020年4月の日記を集めた『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』。
このnoteでは、7/9から7/24まで毎日3名ずつの日記を、「#3ヶ月前のわたしたち」として本書より抜粋します。まだまだ続くコロナとの闘い、ぜひ記憶と照らし合わせてお読みください。
【コロナ年表】四月二〇日(月)
ドイツは再生産数が一未満となったことを根拠に、中小規模の商店を順次再開へ。
ニューヨークの原油先物で五月物が一バレル=マイナス三七・六三ドルに。世界的な感染拡大によってガソリン需要、ジェット燃料需要などが大幅に減少、産油国は大規模原産を決めたものの原油相場はそのまま下落。
ミニスーパー店員
❖ にゃんべ(仮名)/五一歳/東京都
猫の波瑠さんと暮らす。ラジオ広告制作の傍らミニスーパーの早朝シフトで働く。いつも通り働かざるを得ないことに不安を感じる。
4月20日(月)
朝、出勤するとうちの店のレジ前に透明の幕がぶら下がっていた。
遅ればせながら、他のスーパー同様、飛沫感染の防止策に乗り出したようだ。
レジを打つときは、ゴム製の手袋を着用。お釣り銭の受け渡しはトレーを介して行うよう掲示が貼り出されていた。しかし対応が遅いな、うちの店は。
品出しをしているとご近所に住んでいると思わしきお婆さんがやってきた。
「納豆はないのかしら?」
売り場を見れば1つもなかった。
納豆は毎日入荷しているはずだが、ここ最近は入荷後、日にちを跨がずに売れ切れてしまうのが現状だった。
これも不思議なのだが、日本人はこの様な事態に対峙すると、やたらと「納豆」に頼りたがる。ナットウキナーゼに抗ウイルス性が認められたわけではないのにだ。
同様にヨーグルトの類も売れる。
目には目を。菌には菌を。
市井の人々は無駄に踊らされているなと思うと失笑するしかない。
だが少しでも家族のために身体にいいものをと買い込んでいるのだとしたら笑えない。
お婆さんに、「駅前の○○に行けば多分売ってると思うんですけどね」と伝えると、
「あそこは人が多いから行きたくない。感染したら嫌だもの」と返された。
そりゃあそうだ。
うちはミニスーパーだから、大型のスーパーに較べ品数は劣る。
だが、お婆さんにしてみればわざわざ離れた駅前に行って感染リスクを高めるより、近所にあるミニスーパーに行く方が利便性と安全性は高い。
小さな店だから一気に客が押し寄せたら元も子もないけれど、今の所はそこまで酷い状況にはなっていない。うちの店でも、お年寄りの生活圏に近い分、少しだけでも役に立っているんだなと思うと、ちょっと救われた気がした。
お婆さん、今日も納豆、入荷しますからね。
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介護士
❖ いしあいひでひこ/五七歳/埼玉県
介護士の仕事はこんなときでも続く。医療介護関係者には優先的に検査を受けさせてほしいと願う。小説『ペスト』のNHK番組に泣く。
4月20日(月)
今日、事業所でマスク1個貰った。厚労省から来るやつじゃなくて、事業主が知り合いから購入したものらしい。布マスクだが、水着と同じ素材で作られている、なんかちょっといいやつみたい。うちにはまだ例のやつは来ない。
COVID-19の影響はおれの仕事でも当然あり、どこかの施設で感染者が出たとなれば、直接ではなくとも、その施設関係者周りの人間は現場を離れることにはなるので、その分の仕事が臨時という形でうちの事業所へ回ってきたりすることもある。
また、感染疑わしいという話のあった施設が利用不可になり、そこへの送迎が中止されることもある。
ヘルパーも家族からはなんとかウイルスを持ち込まないでくれ、仕事は休止してくれと言われてる人もいる。続けてはいるけど。
重度の障害で寝たきり状態の利用者の中には、外部の人間を入れることを止めて、家族で介護をするようなケースもある。
入所系の施設では人の出入りを嫌い、既にショートステイ中の人は自宅へ戻らず、逆に新規のショートステイの受付けはしないと云う所もある。
デイサービスなどでも感染を怖れて通所を止めている人たちもいる。
ざっくりと言って利用が減り、売り上げも減っているといえばわかりやすいか。
おれ自身は毎日変わらずに仕事に行っているので、なんだか変化がない気もするが、そうしてじわじわとCOVID-19は浸食して来ている。
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歯科医
❖ かねごん(仮名)/三六歳/大阪府
大阪府内の歯科で院長として働く。コロナ感染の不安と従業員の雇用を守れるのかという不安に挟まれながら、衛生用品をポチる日々。
4月20日 (月)
国が医療機関のために医療用マスクを確保し、保健所に順次配送していると聞いた。最寄りの管轄の保健所に問い合わせてみたところ、担当者曰くまずはコロナ対応している病院へ優先支給、残りは医療機関への支給となるので、歯科はちょっと……とのこと。
初耳だった。歯科医院は医療機関ではなかったらしい。
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(すべて『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』より抜粋)
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