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2020年4月16日の『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』

パン屋、ミニスーパー店員、専業主婦、タクシー運転手、介護士、留学生、馬の調教師、葬儀社スタッフ……コロナ禍で働く60職種・77人の2020年4月の日記を集めた『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』。
このnoteでは、7/9から7/24まで毎日3名ずつの日記を、「#3ヶ月前のわたしたち」として本書より抜粋します。まだまだ続くコロナとの闘い、ぜひ記憶と照らし合わせてお読みください。

【コロナ年表】四月一六日(木)
緊急事態宣言を全国に拡大する方針が諮問委員会に諮られ、妥当との結論。懸案だった国民への一律の給付金は、一人当たり一〇万円として実現へ。

客室乗務員

❖ 小田沙織(仮名)/二八歳/東京都
三月頃よりフライトが減ってゆき、四月の出勤は二日間のみ。同僚たちと情報交換しつつ、何があってもいいようにスキルアップを図る。

四月十六日(木)
 明日は四月が始まって以降初めてのフライト。毎日、社内連絡用の掲示板を見て更新されている新しいフライト情報やサービス内容等の変更点を確認し、突然のシフト変更にも対応できるようにしているが、これまでこんなにも長くフライトしないことがあっただろうか。そのため今日は特に念入りにフライト準備を行った。また情報交換のために会社の同僚と電話をした。三月頃から日に日にフライト予定だったスケジュールが消えていき、月に数回のフライトとなってしまっている状況。ひっ迫している現状が伺えていることに二人して不安を覚えていた。同じように家事をしたり、テレビや動画を見たりして、家で過ごしているようだ。休みであるこの期間を利用し、何かしらのスキルアップを図り、転職活動も視野に入れておく必要があるのではないかという話になった。

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画家

❖ 長嶋祐成/三七歳/沖縄県
海のそばに暮らし、魚と水生生物を専門に描く。東京滞在中に事態が深刻化し、石垣島に帰るべきか帰らないべきか悩む日々が続く。

四月十六日(木)
 早朝から荷造りする。飛行機は午後の便。
 島に戻ったら、ウイルスの潜伏期間とされる二週間は自宅にこもったまま人と接触せず生活できるようにと、食料品を買い込んで送っておく。バス停への道すがら、さらに甘いものを買い足してスーツケースに詰め込む。
 羽田空港は閑散として、手荷物受付のカウンターは臨時で設けられたものになっていた。那覇まではそれなりに乗客があったが、乗り継いで石垣に向かう機内は数名のみ。
 新石垣空港では、馴染みのタクシードライバーさんが迎えてくれた。「おかえりなさい!」といつもの笑顔を向けてくれて、後ろめたい気持ちがかすかにほぐれる。聞けば、明日からしばらく休業するという。「リーマンショックのときもひどかったですけど、今回はその比じゃないですよ」。声こそ明るいけれど、言葉の端々から強い不安が伝わり、島の状況が深刻であることを改めて思い知らされる。帰ってきたことは黙っていた方がいいかもしれないですね、というアドバイスに、感謝と申し訳なさが募る。
 一ヶ月ぶりの自宅。つけっぱなしのサーキュレーターの風に、干して出た洗濯物が揺れていた。空港で買っておいた焼き鯖寿司がとてもおいしくて、いつか恋人と旅行するときにはこれを買おうと思う。
 夜、石垣市独自の緊急事態宣言が出された。

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農業指導者

❖ 道法正徳 /六七歳/広島県
講演の中止が相次ぎ収入減を覚悟していたところ朗報が舞い込む。電話や動画を使った指導に挑戦。休日は妻と洋服のセレクション。

四月十六日(木)
 緊急事態宣言十日目。熊本から、朗報あり。昨年まで、水俣市・津奈木町・芦北町と年間顧問契約していた。七年続いた津奈木町は、昨年度で終了となった。水俣市と芦北町は、引き続き継続となった。ところが、今までの契約なら、水俣市や芦北町で現地指導しないとお金をもらえなかった。このままだと、私に指導料が入ってこないと判断した担当者の宮本裕美さんが「今回は、テレビ電話で指導してください」との提案。これなら、電話越しでコロナの心配なく指導ができる。本当に、うれしかった。これで二十万円はもらえるだろう。「助かる」が本音。しかも「このことを、本にしますよ」と熊本の担当者に言うと「こちらも、水俣・芦北地域雇用創造協議会での実績報告になるので助かります」との事。うれしいね、うれしいね。これがうまくいくと、新しいビジネスが成り立つと確信した。
 実は、本年から写真による指導を始めたとこだった。現場の写真を、メッセンジャーで送ってもらいマーカーでせん定指導する方法である。年間六万円、月五千円コース。年間三万六千円、月三千円コースをつくった。いずれも、年間一括払いである。聞く方も、私が忙しいのを知っているため、いつもすまなさそうに聞いていたが「お金を払った以上は、遠慮なく聞ける」と好評だ。熊本の場合は、これの動画版だ。どんな感じになるか、二十三日が楽しみだ。

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(すべて『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』より抜粋)



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