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【無料公開】暮田真名『宇宙人のためのせんりゅう入門』/1日目◉未知との遭遇 より

2023年12月下旬刊行、『宇宙人のためのせんりゅう入門』の「プロローグ」と「1日目◉未知との遭遇」の冒頭試し読みを公開いたします。
前代未聞!!宇宙人との対話形式でシュールなのになぜか胸が熱くなる、前代未聞の川柳入門です。お楽しみに!

『宇宙人のためのせんりゅう入門』

〈目次〉
プロローグ
1日目◉未知との遭遇
2日目◉いろんな川柳を読んでみよう
3日目◉川柳ってどうやって作るの?
4日目◉Do 川柳 Yourself
5日目◉五七五クライシス
6日目◉句会をしよう
7日目◉川柳と「わたし」
エピローグ
せんりゅうのために 〈寿司法〉で作った十句

プロローグ

真夏の夜に、宇宙人を拾った。
アルバイトから帰ってくると、マンションの入り口を大きな灰色の岩がふさいでいた。近付いてみると、灰色の岩に見えたものは土やほこりの混じった氷のかたまりのようだ。暑さで溶けたのだろう、地面は水びたしである。これをどかさないことには部屋に入れない。ためしに利き足でキックしてみたが、どうにも敵わなそうだ。
「いたいっ」
どこからか機械のような声が聞こえてきた。氷を蹴ったのと同時だ。もう一撃くわえてみることにした。
「やめてえー」
氷のなかから声がしているのは間違いないようだ。いったいどういうことだろうか。
「蹴っちゃってごめん。ここからどいてくれないと家に帰れないんだ。動ける?」
「うん」
小声でお願いすると、氷のかたまりはあんがい素直にぴょん、とわたしの前から立ち退いた。
「どいてくれてありがとう。じゃあね」
「つめたいよー」
「え?」
「ここから出してよー」
「……いったんうちに来る?」
「わーい」
断れない性格が災いして謎のいきものを連れて帰ることになってしまった。階段をのぼるわたしの後ろを氷のかたまりはカツン、カツンとついてくる。通り道にはくだけた氷がきらきらと光っている。
氷のかたまりを部屋に招き入れるとすぐに溶け、墨色の煮こごりのようなものが現れた。キッチンのボウルにお湯を溜めた即席のお風呂に煮こごりを入れてやりながら、身元調査を行うことにした。
「きみは何者なの? 名前は?」
「名前? わかんない……ぐす……」
「困ったな。どこからきたの?」
「ぼくはべつの星からやってきたんだ」
「じゃあ、宇宙人ってこと? なんで地球に来たの?」
「地球だけじゃない。あちこちの星を転々とさせられてる。次の星に行くときには前の星の記憶は消えてしまうんだ」
「それってひどくない? どうしてそんな目に遭ってるの?」
気丈に振る舞っていた煮こごりも、この質問には顔を曇らせた。
「罰なんだ……」
「罰? なんの?」
「わからない……でもぼくがなにか悪いことをしたんだと思う……めそ……」
煮こごりは震え、スプリンクラーのように涙をまき散らした。
「事情はよくわからないけど、しばらくうちにいるかい?」
「いいの?」
「いいよ。わたしは暮田真名。きみは今日から『せんりゅう』だ」
「せんりゅう?」
「そう、きみの名前はせんりゅうだよ」
こうして川柳人・暮田と宇宙人・せんりゅうの奇妙な共同生活が幕を開けた─。

1日目◉未知との遭遇 より試し読み

★一部書店様にて特典シールの配布を予定しております。詳細は追って告知いたします★(2023/11/27)


著者近影

暮田真名(くれだ・まな)
1997年生。川柳句集『ふりょの星』(左右社)。他に『補遺』『ぺら』(私家版)。『はじめまして現代川柳』(書肆侃侃房)入集。「川柳句会こんとん」主宰。「当たり」「砕氷船」メンバー。NHK文化センター青山教室で「現代川柳ことはじめ」講師、荻窪「鱗」で「水曜日のこんとん」主催。


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