2020年4月21日の『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』
パン屋、ミニスーパー店員、専業主婦、タクシー運転手、介護士、留学生、馬の調教師、葬儀社スタッフ……コロナ禍で働く60職種・77人の2020年4月の日記を集めた『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』。
このnoteでは、7/9から7/24まで毎日3名ずつの日記を、「#3ヶ月前のわたしたち」として本書より抜粋します。まだまだ続くコロナとの闘い、ぜひ記憶と照らし合わせてお読みください。
【コロナ年表】四月二一日(火)
妊婦や介護施設向けに政府が配布した布マスクに汚れや異物混入などが相次いだ問題で、厚生労働省は受注した四社のうち三社の社名を公表。残る一社の社名は二七日に遅れて公表された。汚れなど不良品は四万七千枚におよぶことが後にわかり、配布中断、未配布分を回収検品したうえで再配布へ。
シャープが自社製マスクを発売開始。専用サイトはすぐにアクセスが集中、二七日に抽選制に切り替えて再発売へ。
ライター
❖ ワクサカソウヘイ/三六歳/東京都
貧乏に慣れてしまっているので生活の不安は薄い。それより気になるのはZoom飲み会。なぜ自分に誘いの声がかからないのか……。
四月二十一日(火)
Zoomを使って、担当編集氏と打ち合わせ。秋に刊行する予定の書籍について。書店や出版業界に暗雲が立ち込め始めている中で、果たしてスケジュール通りに出版されるのか、見ものである。
打ち合わせ終わり、「このあとはどんなご予定なんですか?」と編集氏に尋ねると、「仕事仲間とオンライン飲み会をする予定です」と返され、動揺する。
やっぱりみんな、私の目を盗んで、こそこそと愉快な時間を過ごしているのだ。
-----------------------------------------------------------------------------
薬剤師
❖ ベージュのアン(仮名)/六五歳/愛知県
調剤併設型のドラッグストアで働く。契約しているグループホームの入所者や常連のお客様を思いやり、ときに厳しい声をあげる。
4月21日(火曜日)
早朝から店の前に並んでいる人にマスクを販売していたが中止になった。朝早くから並ぶので、周辺の家に迷惑がかかるのと、いつも同じ人が並ぶので、1人でも多くの人に買ってもらいたいというのが理由。 薬局もいかにしたら公平に行き渡るか頭を悩ませている。1日も早く大量生産し、地方にも行き渡らせることを願うばかり。
今日はグループホームへ持っていく薬を作るのに忙しかった。昼食は4時。老体に鞭打って頑張った。お昼頃、グループホームから入所者さんが肺炎になったと電話があった。PCRの検査をしたらしい。肺炎の治りかけとのこと、良かった。
万が一うちの薬局からコロナ患者が出たらどうなるのだろう。契約しているグループホームの薬はどうしても必要。それぞれの入所者さんに合った作り方をしている。まさにオーダーメイド。コロナが出ました、ハイ別の薬局で、というわけにはいかない。
この人は錠剤が飲めないから粉砕して、この薬は体調によって中止する可能性があるから別の袋に分包して、この薬は混ぜると変質するから別にして……等、とにかくややこしい。これを一目瞭然に誰でもどこでも作れるようにしておく必要がある。危機管理がまだまだだ。
-----------------------------------------------------------------------------
ブック・コーディネーター
❖ 内沼晋太郎/三九歳/東京都⇄長野県
移転したばかりの「本屋B&B 」と新店舗「日記屋月日」の休業を決め、オンライン営業へ。やることは山積みだが、新企画も生まれる。
4月21日(火)
9時前に起床。最寄りのみずほ銀行は隣の長野市だったので、車で向かう。行きは、散歩社の定例ミーティング。車中は会話を中心としたミーティングにとても向いていて、音ははっきりしているし、雑音も入らない。なにより運転中は頭と耳と口は空いているので、移動時間が無駄にならない。銀行の窓口で振込。いままで振り込んだことのないほどの大金であっても、かかる時間は変わらない。10分で済んで、帰りの車中はradikoで「サンデー・ソングブック」。昔のライブ音源特集。山下達郎が読み上げる医療従事者の人たちのコメントに泣きそうになる。涙腺も緩んでいる。
帰宅してデスクワーク。B&Bのためにクラウドファンディングを立ち上げてくださるという佐藤尚之さんとのやり取りや、木曜のイベントについての手紙社・北島さんとのやり取りなど、諸々。スタッフの多くが休業しているぶん、細かなタスクも自分の手元にひたすら溜まっていく。16時半、バリューブックスの取締役会のZoomに合流。
夜はモーションギャラリーの大高さんと、編集者の武田くんと、新しい企画の相談。本来はこの話のほうが先にあったが、急に書店向けの大規模なクラウドファンディングを立ち上げることになり、先週も話をしたばかりだった。こちらの話も盛り上がり、早く企画書が書きたくて仕方がないが、直近に迫る課題はあまりに多く、いったい、いつになるだろうか。
-----------------------------------------------------------------------------
(すべて『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』より抜粋)