2020年4月23日の『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』
パン屋、ミニスーパー店員、専業主婦、タクシー運転手、介護士、留学生、馬の調教師、葬儀社スタッフ……コロナ禍で働く60職種・77人の2020年4月の日記を集めた『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』。
このnoteでは、7/9から7/24まで毎日3名ずつの日記を、「#3ヶ月前のわたしたち」として本書より抜粋します。まだまだ続くコロナとの闘い、ぜひ記憶と照らし合わせてお読みください。
【コロナ年表】四月二三日(木)
俳優の岡江久美子さんが死去。三月二九日の志村けんさんの訃報につづき大きなニュースとなる。
菅義偉官房長官が記者会見で、自宅療養中の感染者数、病院外での死者数を把握していないと発言。
小池都知事が記者会見で、スーパーや商店街での買い物を家族の最少人数で、三日に一回程度にするよう協力を要請。大型連休を念頭に二五日から五月六日までを「いのちを守るSTAY HOME 週間」と位置付ける。
ライター
❖ 清田隆之/三九歳/東京都
妻と双子を育てながらオンラインで打ち合わせ。恋バナを聞くユニット・桃山商事としても活動。恋愛や結婚の変化に思いを巡らす。
四月二十三日(木)
朝から活発に動き、お腹が空けば大声で泣きわめく双子たちをあやしつつ、月イチで回答者を務めている朝日新聞be「悩みのるつぼ」の原稿に取りかかる。今回は家事をやってくれない夫にモヤモヤしている三十代の専業主婦からのお悩みだった。彼女は家事と子育てを一手に担っていて、時間的にも精神的にも余裕がない。そのため夫に対し、日々「お湯を沸かして欲しい」「レンジでチンして欲しい」「ゴミ捨てをして欲しい」などと思うものの、その期待はいつも叶わず、不公平感が塵のように積もって苦しんでいる。しかし、お金を稼いでいないため自分には相手に期待する権利がないとも思っている。どうすれば小さなことを気にせずに暮らしていくことができるのかーーというお悩みだった。根底にはおそらくジェンダーの問題が横たわっていて、「言えばいいじゃん」とか「相手に期待するだけムダ」で片付けられるような簡単な話ではない。夫婦は家庭の共同運営者なわけで、仮に夫がお金を稼ぎ、妻が家のことを担うという役割だったとしても、仕事としての家事や育児は会社と同じように九時〜五時で終わるはず。それ以外の時間は平等に分担するのが原則であり、相談者さんは引け目を感じる必要は一切ないという方向性の回答にまとまった。外出自粛でリモートワークも増えている今、こういった問題は多くの家庭でめちゃくちゃ多発しているように思う。
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評論家
❖ 川本三郎/七五歳/東京都
一人暮らし。朝食はドトールコーヒーでとることが多いが、次第に行けなくなる。たとえ会えなくとも、友人たちとの交流は続く。
四月二十三日(木)
「平信」という言葉がある。用事があって出す手紙ではなく、日常の何気ない挨拶がわりに出す手紙のこと。私はメールもSNSもしないので手紙をよく書く。今日も同じように一人暮しをしている何人かの友人に「平信」を書く。
にわかに話題になっているカミュの『ペスト』を読むと、あの状況下では手紙を書くことも禁止になっている。幸い、日本はそこまで行っていないのでほっとする。
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文化人類学者
❖ 樫永真佐夫/四九歳/大阪府
ベトナム少数民族の文化を研究する一方、両手故障中だがボクサー復帰を目指し、自宅で鍛錬。年度始めでスケジュール調整が急務。
四月二三日(木) 晴れ
五時五〇分起床。七時〜九時、自宅で筋トレ。シャワーを浴びると原稿を書きに河川敷のベンチに。途中、いつも同じ時間帯に同じ木の梢で美声を響かせていた鳥が今日はいない。一二時前に帰宅して昼食、一時半からウェブ会議。そのあと河川敷のベンチで事典の編集作業。
文筆家佐伯誠さんが、今回の新型コロナ騒動について印象に残ったコメントの一つとして、藤原辰史氏の「パンデミックを生きる指針ーー歴史研究のアプローチ」(岩波新書編集部「B面の岩波新書」 二〇二〇年四月一八日最終更新)を挙げていた。藤原氏には七年前に農業に関する短い記事をお願いしたことがあり、これも何かの縁と、今晩ウェブ上で早速読んだ。二〇世紀初頭スペイン風邪流行時との類似性の指摘その他、背筋が凍る思いがした。読後、次のように思った。民意が暴走しつつある現在、自粛の強制、言論や表現の自由の抑圧がますます進みそうな気配。学問も危機的状況。
大事なのは体力。何にせよ体力なくして闘えない。
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(すべて『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』より抜粋)
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