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読書記録/『人は2000連休を与えられるとどうなるのか?』(上田啓太)

育児と猫2匹の世話をしていると、一番ほしくて懐かしいのが「おひとり様で自由に過ごせる時間」です。


うちのマンチカン


もちろん赤子は可愛いし、猫ちゃんズもとびきり可愛い。

ですが、赤子が産まれてからの4ヶ月、自分一人だけで過ごせる時間がほぼなかったので、ちょっとずつ心のどこかが蝕まれていくような気がしてなりません。

「可愛い」と「一人になりたい」という感情は両立しなかった。全くの別物でした。


そんな状況の私が、タイトルに惹かれ思わずポチッた上田啓太さんのドキュメント『人は2000連休を与えられるとどうなるのか?』(河出書房新社)。

一畳半の物置で6年間に渡る連休をとった男の記録が克明に綴られておりました。

笑いあり、狂いあり、涙あり、狂いあり…狂いあり…で真剣に綴られる文章。


これを読むと「そういえば、私が無職で暇すぎた時、ちょっとした身体の不調ばかり気にしてしまっていたな…人と久しぶりに会った時、上手く声すら出せなかったな…」と、そんなことを思い出したのでしたーー。

😀😀😀

本作は、京大卒業後、色々あって仕事を辞めた男・著者の上田さんが、京都の一階建ての古い民家に住む、杉松さんという女性のデザイナーさんの元へ転がり込み、一畳半の小部屋(物置)にて、2000連休を過ごした記録が綴られています。


連休序盤は昼間からマンガを読み、音楽を聴き、ネットを見て、謳歌していたものの、あっという間に曜日感覚は消滅、不規則な生活になり、新たに仕事を探すのが異様におっくうになってしまうのです。


しかし、杉松さんから(この杉松さんは彼女ではないらしい…!)家賃を毎月3万払うよう言い渡されてから、上田さんは仕方なく、以前から参加していた、雑誌の大喜利連載の回答を出すアルバイトを再開させます。

真剣にやれば月に8-10万の収入になるそうで、当面の生活をそれで工面しながら、いつの間にか、余った膨大な時間で自己とひたすら向き合い、本の内容が徐々に哲学書のように様変わりするのが何とも恐ろしかったですーー。

😀😀😀

生活リズムを安定させるために、自分の行動を分単体で記録する、そしてそれを同居人の杉松さんに送って困惑される…。


ネット以外の人間関係が極端に薄まった結果、ネットの言葉とうまく距離がとれなくなり、ネットを見る時間を制限し、ついでに読書も禁止してみる…。

これまで会った膨大な数の人間のデータベースを作ってみる…。


封印していた感情を書き出し、毒としての感情を噴出させる…。


ーー著者の上田さんが、杉松さんと、杉松さんが拾ってきた猫・毛玉ちゃんと、極限まで切り詰められた人間関係の暮らしの中で、自分の身体や思考を使った、ある種の「実験」と呼ぶものを繰り返すその様は、ページが進むに連れて、読むのがだんだん辛くなっていきました。


なぜって、極端に刺激を減らした生活を行った結果、だんだん「自己」や「肉体」の濃度が薄くなっていく様子が克明に記録されているからです。


自分は本当の意味で上田啓太なのか、どうして私は私なのか…? と、まるで映画「マトリックス」のような…深く考えると発狂しそうな領域のことまで、さすが京大卒…と思えるような思考の揺れが、鋭い筆致で綴られているのは度肝を抜かれました。


😀😀😀
この2000日続いた連休がどのように終わりを告げるのか、心の広いデザイナー、杉松さんはどのように上田さんと対峙するのか、猫の毛玉ちゃんは…? と、本作はまだまだ色んな気になるエピソードが記録されています。


私が2000連休与えられたら旅行へ行ったり、もっと堕落して過ごしてると思うので、己と徹底的に向き合い、鏡に向かって「お前は誰だ?」と言い続けるなど…発狂しそうなことはたぶん出来ないので、すごいなと思いました。

育児の休みはほしいけど、私はひたすら寝たいだけです(笑)。

やっぱりたくさん勉強してきたり、己の身体や頭で深く考えてきた人の文章は、凄みがあって面白いなと感じた1冊です。


さゆ




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