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東京は地方より子育てしにくいのかっていうと…

都会の人は冷たいって言われたら、そんなことないよ!と思ってたし、東京は子育てしづらい、声かけてくれる人がいないって言われたら、優しい人もいるよ、ちゃんと、って思ってた。
でも子連れで地方に泊まりがけ出張して、そう言われる意味が分かった気がした。

新幹線を降りたのは19時過ぎ。
駅ビルを通り抜けると、飲食店で飲んでいる人たちの姿が見えた。男女4人。スーツ姿で仕事帰りだと思う。話してる内容なんて何も聞こえないんだけど、何だろう?顔つきなのかな。
すごくこう、東京と違う感じがして。ゆるい空気というか、仕事中に鎧をかぶってない感じというか、うまく言い表せないけど、こう健やかな感じ、というのかなぁ。うまく回ってる、がんばってない、しっくりくる言葉が出てこないんだけど、自分が安定している、と言えばいいのかな。とにかく、東京がトゲトゲしてる空気だと言われることに納得できる、空気感の違いがあった。

翌日、朝早くに託児所に子どもを預けた。予約した時から、なんて神対応なんだろう!と驚いていたけど、当日の対応も信じられないほど、おおらかだった。予約キャンセル料はなし、予約時間より早くお迎えに行けたら費用は預けた時間だけ、というだけでもスゴいのに、ご飯のタイミングも希望に合わせてくれるし、恐る恐る相談した投薬も対応してくれた。
オムツやら着替えやらの大量の荷物を持ち、子どももひょいっと抱っこして「いってらっしゃい」と見送ってくれる保育士さんの姿はもう、頼りになるお母さんそのものという感じだった。あまりに普通に抱っこされたので、子どもはしばらくママでない人が抱っこしていることに違和感を覚えることすら忘れていたようで、泣きもしなかった。
しばらくすると事態を悟ったベビーのギャン泣きが聞こえてきて少しだけ心が痛んだけれど、託児所がくれた圧倒的な安心感に、後ろ髪をひかれることなく完全に仕事モードで待ち合わせ場所に向かった。

出張の用件は取材だった。せっかく来てくれたのだからと、もうあちこち見せて回ってくれて、お話も止まらなくて、あっという間に予定の時間を超過した。昼頃に託児所に電話をかけると、当日延長も可能とこと。ますます取材は白熱した。
人里離れたところまできているので、託児所の方へ戻るには車で1時間ほどかかる。最後は待たせている子どもが気になったけれど、盛りだくさんな取材も無事に終わった。アテンドしてくれた担当の方のお陰だった。
育児中で毎朝お子さんを保育園に送っているそうで、最大限の気遣いをしてくれた。子育ての大変さを理解した上でのちょうどいい配慮がありがたかった。諸々の用事が終わると、真っ先に託児所に向かってくれて、延長1時間で滑り込んだ。

「すみません!」と駆け込んだ私に、保育士さんは「お母さんも大変でしたね」と声をかけてくれた。どこまで優しいんだろう。「さっきまで寝ていて」と保育中の子どもの様子を伝えてくれると、それを聞く私の頭のなかは一瞬でママモードになった。次のお迎えの人もきていたので、保育士さんとの立ち話は必要最小限。子どもが胸元におさまって、ママもベビーもお互いひと安心だ。
託児所を出ると、気持ちは自宅でパパと待っている上の子に向かった。約束した時間からなるべく遅れないように帰らなくちゃと、ラストスパートをかけた。

新幹線を降りたあと、自宅へ向かうまでの混雑した電車のなかでもハートフルな気遣いはあった。やっぱり、東京にだって親切な人はたくさんいる。
でも、何かが違った。

それが何なのかをずっと考えていた。
託児所でいつもと違うと思ったのは、何も聞かれないことだった。
正直聞かれるだけで圧迫感のある言葉というのがある。
言葉なのか、その言葉の言い方なのか分からないけれど、例えばもし、託児所で投薬の相談をした時に、「病院の診断は出てますか?」と聞かれたら、くじけてたかもしれない。「伝染る病気の子どもをこんな遠くまで連れてきたのか、こいつは。迷惑だし、かわいそう」と言われた気がして。でも、そういう類の拒否されている感じ、しょうがないなぁという感じを一切受けなかった。
それは、いつも私が求めていたことだった。何も聞かずに預かってほしい。聞かれるような別の方法やリスクやデメリットは検討理解した上で、迷いながらも決断してお願いしてるのに、今さら反対するようなこと言わないでよ、と。

でも多分、託児所だけが違ってるわけじゃない。もっと大きく何かが違う。

出張から戻った翌日も鬼のようなスケジュールだった。そこも無事にこなして土日。反動からの子どもたちの甘えん坊まで織り込み済みで動いていた私が、考慮し忘れていたことがあった。私ちゃんだ。

山場を超え、平時に戻ったはずの日曜日。思うように物事が進まず、パパにも子どもにもいつも以上にイライラしていた。イライラぶりにひかれていることが分かっても冷静になれないぐらい、ささいなことが気に障った。
何とか抑えなくてはと、あたたかいところで座って、しばらく黙ってご飯を食べ、子どもたちのご飯や買い物も済ませて、ようやく落ち着いてきた時にイライラの原因に気付いた。
数日間いつにも増してがんばってた私ちゃんも、私に構ってほしかったのだった。全方位に気を配って、プチトラブルにも対応して4日間よくがんばったね、と。私ちゃんは私に泣いている子も溜まった洗濯物も無視して、布団にくるまっててほしかったのだった。

私ちゃんの抗議に耳を傾け、その後に襲われた頭痛腰痛腹痛をやり過ごし、平日を何日か過ごしたところで、ようやく彼の地と東京の子育てのしやすさの違いにジワジワと気付いてきた。
あちらでは、自分はがんばっていなかったのだと思う。

子育て中だからって、それを言い訳にしてはいけない。仕事をしているからって、子どもをほったらかしてはいけない。集団保育の決まりには従わなくてはいけない。子育てが大変でも愚痴ってはいけない。だって、大変だって分かってて勝手に産んだんだから。
適度に力を抜いて自分のこともケアして常に笑顔でいられるのが最高のママ。自分の都合じゃなく子どものことを一番に考えられるのが理想のママ。ちゃんとしたママじゃないと子どもがかわいそう。
いやいや、無理だろ。それ、完璧にこなせる人がいたら、そいつは人間じゃないだろ。
そんな理想の働くママ像を無意識に目指していたのだと思う。

東京は子育て施設もサービスも充実してて、理解ある企業も多くて、金さえ出せば、いくらでもサポートしてくれる環境がある。ないと思われてる緑だって、優しい人や地域のつながりだって、ちゃんとある。
ただ、東京で暮らしているいつもの私は、仕事中に子育てをしていることでハンデをもらうのを当たり前だと思えないでいたんだと思う。おマメ(おミソ?)扱いされる自分が釈然としない子どもみたいな感じで。

だから、働きながら子育てする、逆だな、子育てしながら働く自分の困った状況をうまく表明できて、それに対する配慮をうまく受けとれていた取材期間中は気持ちが楽だったんだと思う。

東京が好き。いいところも悪いところも知った上で。
東京は何でも高い。それは認める。何なら家賃の低い地域に移住したい。
東京の人は冷たい。全員じゃないよ。
都会は冷たい人が多い。あったかい人も多いよ。ただ人が多いだけ。
東京は子育てしづらい。子育てしづらいというよりも、気を張ってる人が多いから、ペースがゆっくりしてたり、コントロールできなかったりする人への許容度が低い雰囲気なのかもね。

子育て中かどうかは関係なく、東京はがんばる場所なんだろうなっていうのがやっと分かったし、今の私は気を張ってるんだなってのも分かった。
それが都会なんだって言われたら、なるほどね、って思える。

別にそれが分かったからって、何か生活が明確に変わったり、変えようとしたりはしてないのだけど、何か分かってとてもスッキリした。
なるほどなぁ。

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