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2021年地獄の旅 第3話 「不信感」


小さい頃住んでいた家の近くにもう使われなくなった沢山の自動販売機や冷蔵庫が並んでいる敷地があった。今思うと産業廃棄物の不法投棄だったかもしれないが子供たちにとっては格好の遊び場所だった。
かくれんぼをしてたある日、私は冷蔵庫の中に隠れた。隙間から覗いて鬼が来ないか確認していたら何かの拍子にドアがパタンと閉まり中から開かなくてパニックになったことがあった。

それ以降狭い場所がダメになった。エレベーターにも乗れないという人に会った事があるが私は身体を動かすスペースが無いくらいの狭さ限定だ。
ダイハードの映画でブルースウィリスがダクトの中を這って進むシーンも、イタズラで突然毛布を頭から掛けられるのも、そして勿論MRIもダメ。

10月30日が終わる頃、麻酔で眠らせてくれと懇願するも麻酔医が居ないからと却下され、脳が出血してるとの衝撃の事実を何時間も温められた後にサラっと伝えられたショックで閉所恐怖症の方はかなり麻痺してるようだった。あの細く息苦しいMRIの中に入れられて「目を開けなければ大丈夫だからね〜」と聞いた瞬間に条件反射で薄目開けて天井が目の前にある事に「ヒッ!!」と声を上げて、
「大丈夫?」
「無理無理無理」
「じゃあ今度は目を開けないでね」
と無理X3はスルーされて、私はひたすら目を閉じてあの耳栓してもうるさいガンガンガンガンという音も我慢して捨て身でMRIに挑んだ。幸いな事に手はあの筒の外で指が自由に動くスペースがあった事に救われた。
今になってあの時麻酔医が居なかったのは良かったと思う。ざけんな💢と叫びたくなる後日受けた造影剤検査時の麻酔の請求書が送られてきたからだ(写真参照)。

ざけんな💢請求書によると麻酔1回のお値段$2928


10月31日。
MRIを終え日付けが変わり痛み止めも効きまくり流石に疲れ果てた私は爆睡態勢に入った。
とりあえず体力温存せねば。体力の素となる栄養摂取は朝まできっとスルーされる。残された自分に出来ることは寝ることだけだ。目を閉じた瞬間に意識を失った。

が。

24時間眠らない病院に救急車で運ばれた者に眠る権利などない。

Twitterの記録(愚痴)によると:
1:00    夜勤ドクター来室、自己紹介と問診
1:45     ナース来室、ロケットブースター2錠投下
2:20     点滴開始

と私の眠る権利はどんどん侵害されてゆく。
文句言えないくらい私の状況は予断を許さなかったので侵害などという言葉を使う事自体失礼極まりないけれどそれでも「ああこれでやっと眠れる」と30分おきくらいに思わねばならない事にとてもダメージ受けるくらいに私は疲れていた。
とどめに点滴開始したと思ったら更に夜中の3:00過ぎにまた叩き起こされてお引越しを言い渡された。
朝まで待てないんですか、、、と半分意識飛んでる私の行き先は他の階、それもICU階であった。私のイメージだとICU病棟って超重症の人達が行くところだけど、私の行先はIntensive Careでもその中のIMC(Intensive  Monitoring Care)、つまりあれこれたくさん繋がれて24/7で数字を一般病棟よりも厳しく見張られるという場所であった。

ちなみにお客さんのナースと私の入院騒ぎについて話していたら、この真夜中のお引っ越しは昼間の混雑中の移動を避けるために良くあることだそうだ。
なるほどねーーーーー!!
でも普通、引き継ぎ上簡単だしまず先に移動してから点滴や投薬始めるよね、MRIの結果はすぐ出るし判断する夜勤のドクターも居るわけだし、とも言っていた。
そうですよねーーーーー!!

もう気がつけば朝方になってて、最後にお腹に何か入れたのは仕事中に急いで食べたランチだけ、という事実に改めて直面して眠いよりも今度は空腹の方が辛くなってきた。

参照:  空腹に耐えかねてる連続ツイート

ベット横の点滴を睨み付けながら(腹の足しにもならないので)ひたすら時間が過ぎるのを待ったよね、、、。

昼前に娘たちが私が頼んだ物(充電器、iPad、着替え、お菓子)とbobaティーを持ってきてくれた。何も食べちゃダメと言われてるのに聞いたらbobaは良いんだと言われ首を傾げながら飲み、そのあとCT with造影剤を撮った。検査があるから何も口から入れちゃダメってなんだったんだろう。bobaのタピオカが脳に映るわけでもなければミルクティーがヨウ素剤と化学反応起こす訳でもないのでbobaは良かったんだろうか。
ヨウ素剤は体に入った瞬間にカーーーっと物凄い熱が走って緊張した。放射能の被曝を防ぐために原発事故直後にアメリカ大使館が自国民とその家族に配ったのもヨウ素剤、画像診断で血管を浮かび上がらせるのに直接血管に入れるのもヨウ素剤。素人にはよく分からないけど、あのカーーーっとなる感じは何度も味わいたくないと思った。
と思っても翌日もヨウ素剤投与して画像診断があったのだけれども。
静脈、動脈どちらもヨウ素剤まみれとなった。

結局、食事にありついたのは最後のランチから24時間以上軽く経ってたのだけど、食事にありついたのも自力だった。
空腹で目の前がチカチカする中、ふと気がついた。
ナースは2シフト制で朝6時と夕方6時に引き継ぎがある。
各部屋にはベットの前にはボードがあって引き継ぎ時にナースの名前や注意事項が書き換えられる。
私は夜中に個室から別階の相部屋に移動になった。その時に私を連れてきたナースがボードに情報を書いた。そのあと朝方に来たナース、名前は書き直してあるけど他の情報はそのまま。

患者の情報を共有するボード

ダイエット(食事の欄)にあるNPOって何、、、、
分からないので速攻調べた。
NPOとはnil per osというラテンの言葉で no food by mouth経口接種禁止を意味する。
その前にドクターに何か食べたいと言ったらその時は良いと言われたのにご飯を持って来る人は私の所には持って来ない。ナース呼んで確認したら結局引き継ぎがテキトーでどちらも確認せずに放置、食事の配膳に来る人はこのボードのNPOの文字を確認して私の所には持って来ず、という事だった。
私の怒りはご想像にお任せする。

そして入院2日目にしてドクターとのコミュニケーションも悪い。病状の説明が正式に誰からも無い。
散々ナースに文句言ってやっと来たドクターとの会話はボイスメモで録音した。私が相手を信用しない時やどうしても情報を聞き逃したく無い時にいつもやる事だ。
この日午後に別の脳外科医が来て説明してくれた。彼女の説明はわかりやすく安心感はあるのだけど、一体誰が私の治療の決断するのか分からない。ドクター同士のコミュニケーションちゃんと取れてるんだろうか。誰が責任者?って聞いても私のボスが明日来るから彼に聞いてみてと。

なんだか色々すっきりしない。たった2日しかいないのに。

ちょっと嫌な予感がした。


【覚えておいた方が良い単語】

angiogram 
血管造影 造影剤検査

NPO
経口接種禁止 飲み食いダメ


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