マガジンのカバー画像

小説「あんぱんと弦月湯」

4
「それだったら、弦月湯に行ってみたらいいんじゃない?」  悩める日々を送るデザイナー・悠平は、カフェ・ポート・ブルックリンのマスター、セキネコの言葉で弦月湯のnoteを検索する…
運営しているクリエイター

2024年6月の記事一覧

小説「あんぱんと弦月湯」第4話(最終話)

小説「あんぱんと弦月湯」第4話(最終話)


これまでのお話

・第1話はこちら

・第2話はこちら

・第3話はこちら



第4話(最終話)



「それじゃ……乾杯!」
「乾杯!」

 カフェ・ポート・グラスゴーで、俺はセキネコさんと静かに祝杯を上げた。久しぶりのこまごめ村エールを喉に流し込む。旨い。

「やっぱり、金曜夜のグラスゴーでの村エールは旨いですね」
「久しぶりだもんね、悠平くん」
「そうですね。この3ヶ月ほど、なかなか

もっとみる
小説「あんぱんと弦月湯」第3話(全4話)

小説「あんぱんと弦月湯」第3話(全4話)


これまでのお話

・第1話はこちら

・第2話はこちら



第3話



「ふはあ……」

 離れの縁側に座って八月の夕空を見上げながら、俺はあんぱんをひと口齧った。あんこと柔らかなパンのハーモニーを味わったあと、番台で買った瓶入りの冷たい牛乳をぐいっと飲む。これこれ。これなんだよ。口の中に広がるあんことパン、牛乳の三位一体の調和を喜びながら、目をつむる。ああ、まじで旨い。生きててよかった

もっとみる
小説「あんぱんと弦月湯」第2話(全4話)

小説「あんぱんと弦月湯」第2話(全4話)


これまでのお話

・第1話はこちら



第2話



「すげえ……」

 大人になってから見る弦月湯の内装は、自分という存在の芯に迫ってくるようだった。美術を僅かなりとも学んできたから、ここに使われている技術がどれだけ凄いかも理解できる。彫刻家・若月弦二郎が自分という存在のすべてを賭けて、この内装に取り組んできたことが肌身で感じられた。思わず、俺は身震いした。

 グラスゴーでの山口さんと

もっとみる
小説「あんぱんと弦月湯」第1話(全4話)

小説「あんぱんと弦月湯」第1話(全4話)



あらすじ



第1話



「それだったら、弦月湯に行ってみたらいいんじゃない?」
「へ?」

 北三日月町の隣町、巣鴨の駅にほど近いカフェ・ポート・ブルックリンのマスター、セキネコさんはあっけらかんとそう言った。眼鏡の奥のいつも笑ったような眼が印象的な、爽やか好青年であるセキネコさんの本名は、関根さん。ネコが大好きで、SNSのアイコンも自分で描いたネコのイラストにしているから、セキネコ

もっとみる