テレーゼのために 第三話
「入りますよ、アンネさま」
部屋の扉を開くと、アンネは口許を綻ばせつつ、グラスに菫色をしたワインを注いでいる。「遅かったのね。エミリオ。貴方の可愛い天使はもう帰ってしまったわよ」
「あなたの呼び出しさえなければ、テレーゼとは同じ馬車で帰れてましたよ」
「悪かったわ」
「……悪いとも思われてもないのに、謝られるのはいかがかなものかと思うのですが」
「エミリオくらいよね。私に騙されてくれないのって」
「どんなに性格や底意地が悪くても、あなたのように麗しい顔さえしていれば、おめで