読む理由 │ 面白い、その先がある
食事を忘れて仕事とわずかな睡眠時間だけで1日が終わってしまうみたいな日々が続いている。
そんなときでも「本が読みたいな」って思うくらいには好きなんだと思う。
「どうして好きなの?」と聞かれると単純に面白いから。
でもそれだけじゃなくて、面白いを遥かに超えてくる作品に何度も出会ってきたから。
読み終えたあと、宝物を見つけた子どもみたいに嬉しくなるような、そんな作品。
そのすべてを語ると長編小説くらいになりそうなので、今回は2冊だけ紹介したいと思う。
人生を変えた本 『燃えよ剣』(著:司馬遼太郎)
好きな作品を聞かれたら真っ先に答えるのが「歴史小説界の巨星」とも称され、私が最も尊敬する作家である司馬遼太郎先生の『燃えよ剣』。
累計発行部数500万部を超える歴史小説の最高峰。
幕末の動乱期、新選組の鬼副長と恐れられていた土方歳三の生涯を描いた作品。
中学生のころ、父の隣で何気なく観ていたNHK大河ドラマ『新選組!』に強い衝撃を受け、そのときに薦めてもらったのがこの作品でした。
泥臭く、血生臭く、時に呆れてしまうようなエピソードすらある新選組。
戊辰戦争では追い詰められ、賊軍と化し、散ってゆく。
決して格好いいばかりではない彼ら。
そんな彼らをより魅力的に描いたのが司馬遼太郎先生だと思っています。
まるでこの時代を見てきたかのような臨場感あふれる描写と、親しみすら感じてしまうような人間味溢れる隊士たち。
ふとしたときに思い出し、気が付けば手に取っていて、私の人生で間違いなく読んだ回数が1番多い本です。
私が生まれたのは北海道函館市。
土方歳三の最期の地。
幕末を駆け抜けた志士たちの足跡が今も至るところに残っています。
そんな函館の街が私は大好きです。
東京に憧れてこの街を去ったこともあります。
ほかに夢中になることができて新選組への熱が冷めてしまったこともあります。
それでも時を経てまたこの地に戻ってきたのは『燃えよ剣』との出会いがあったから。
今は函館の街を元気にするお仕事をしています。
それを誇りに思っています。
この選択を与え、背中を押してくれたことに心から感謝しています。
呼吸を忘れた本 『未必のマクベス』(著:早瀬耕)
たくさん本を読んでいると、先の展開が読めてしまうこともしばしば。
驚きや感動はあっても期待の範疇内で、魂を揺るがすような作品に出会うことが少なくなる。
そんなとき、SNSで知り合った読書家さんと書店に行く機会があり、その方におすすめしていただいたのが早瀬耕先生の『未必のマクベス』。
IT企業ジェイ・プロトコルの中井優一。
同僚の伴浩輔とともに商談を成功させた優一は、 澳門の娼婦から予言めいた言葉を告げられる。
「ーーあなたは、王として旅を続けなくてはならない」と。
出向先の香港の子会社で待ち受けていたのは底知れぬ陥穽。
シェイクスピアの『マクベス』をなぞるような悲劇とその行方を描いたこの作品は、恋愛小説であり、ミステリ小説であり、犯罪小説であり、ハードボイルド小説。
読み終えたときの切なさと安堵が入り混じった静かな余韻は、心地よいのか感情を乱されているのか分からない複雑なもの。
しばらく言葉が出てこなくて、呼吸すらも忘れていました。
1冊の本を読み終えただけでは普通は味わえない、長い旅を終えたような感覚に包まれました。
読み終えてから約半年。
まだこの作品の余韻を忘れられません。
生涯心に残しておきたい、それほどまでに素晴らしい作品でした。
私が本を読む理由
本を読むと読解力や知識が身につくとか、想像力が鍛えられるとか、視野が広がるとか、そんなご立派な理由は私には必要ない。
実際に本を読んだことでたくさん得たものはあると思うし、その経験が今の何不自由ない生活につながっているとも思う。
でも、私が本を読む理由は、結局は面白いから。
そして面白い、という最上級の褒め言葉すら薄っぺらく感じてしまうような素晴らしすぎる作品がこの世界に存在しているから。
ただそんな作品に出会いたいだけ。
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