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テレビになにが可能かーChoose Life Projectについて

先日、東洋経済でこんな記事をみつけた。

https://toyokeizai.net/articles/-/367155

Choose Life Project(以下、CLP)とはTBSでディレクターとして働いていた佐治洋氏が代表を務める、YouTubeで報道をテーマにした動画を配信するプロジェクトだ。

日本国民の投票率が低さを危惧して、若い人の投票率を上げたい、という思いから「自分で自分の未来を任せる政治家を選ぼうよ」という意味で名づけられたChoose Life Projectは、2016年の参議院選で投票を呼びかける内容の動画投稿を皮切りに始まった。

投票呼びかけから始まったCLPの動画は、今年ツィッターで話題になった検察庁法改正問題を取り上げたことをきっかけに、識者らを集めた討論会の企画や関係者へのインタビューを発信。
投票呼びかけからニュース・報道へ、今年2020年から本格化している。

代表の佐治氏は、記事内でこう語る。
「僕がディレクターになった2007年頃はまだ、自由な空気があった。優秀な人もすごい人もたくさんいた。だけど、自分で意見をいろいろ言う人がどんどん報道の現場から外されていった。それも「栄転」に見える形で」

かつての「自由な空気」というもの、そして今が当時と比べてどうなのか、私は体感として知っているわけではない。しかし、同じようなことを、私が以前働いていた番組制作会社”J”の社長も似たようなことを言っていた気がする。

「昔は求人に応募してくる人もすごい人がたくさんいて、アフリカを放浪しながら履歴書と膨大な量の企画書を送ってきたような人がいた。震災後に、こんなことしてる場合じゃないと、他の仕事をやめて報道の世界に来た人もいた。だけどそういう人たちがみんないなくなった」

私がテレビ業界に入ったここ一年くらいで、局外の制作会社やフリーランスで働く古株のプロデューサーからよく聞くのは「昔はよかった」「当時は面白かった」という言葉ばかりだった。
コンプライアンスも厳しくなり、以前なら最前線に突撃していたようなところにも行けなくなってしまった。報道やドキュメンタリーに充てられる枠も、一つの番組に使える予算も減ってしまった。

だけどそれはほとんどは間接的に聞いただけの話であって、それは番組制作会社”J"がかつて得意としていたような調査報道がやりたくて入った私にとって、「今はそうではない」と知ったのは実際にテレビ業界の内側に入ってからだった。

番組制作会社"J"の倒産は、そんな報道・ドキュメンタリー界をとりまく状況の変化を象徴する出来事であるような気がした。

かつて情熱をもってドキュメンタリーを作っていた人たちは、どこにいってしまったのだろうか。

CLPのような活動がネットで広がっていくことに、私自身としてもすごく期待が高まっている。今まで映像という媒体で報道を扱うためにはテレビというメディアの枠、いわば制約の中でやらなければいけなかった。
しかしインターネットによって、情報を多くの人に届けることができる可能性は無限大に広がった。
一方でwebになると収益化についてもハードルが高い上、テレビのような影響力を持てるかどうかは未知数だという課題も残されている。

私が働いているキー局でも、今年7月に人事異動があった。この番組でも、長年活躍していた辛口編集長が考査部(放送で使われる用語の審査をする部署)に異動になり、報道の現場での仕事から外されてしまった。
彼は「サラリーマンなので仕方ないです」と言っていたけど、報道の仕事をもう少しやりたかったとお酒を飲みながら漏らしていたという。一度バックオフィスで働き、現場で得た知見を局内部に生かすことが局員として経営の中枢に関わる出世コースなのかもしれないが、実際のところは分からない。

代わりに入ってきたディレクターには、デジタル部門でSNSの運用をしてきた人がいたりして、スタッフルームには聞き慣れないデジタルマーケティング用語が飛び交うようになった。

社会的意義のある番組を作ること、人が目を向けない社会問題に光を当てること、報道やドキュメンタリー制作にはさまざまな意義がある。

ただ、やはりスポンサーからの提供で制作しているテレビ番組である以上、視聴率=みんなに見てもらえる番組を作るという視点を排除するわけにはいかないし、その一方で視聴率史上主義が加速することによって制作環境の自由度が失われ、結果的に番組が面白くなくなってしまうというジレンマもある。

そもそも、ドキュメンタリーを必要としているのは誰なんだろう。そして、ドキュメンタリーを作ることにどんな意味があるのだろう。

それについての意味合いが私にはまだよく分からないままだ。
ただ、私は報道番組やドキュメンタリー映画のファンであることは間違いなく、考えても分からないことに安易な結論をつけずに、この問いと長く付き合っていこうと思う。

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