三浦コウさん ピアノリサイタル at 銀座王子ホール
2024年9月15日(日) 13:30~
場所は銀座「王子ホール」
■王子ホール
おそらく日本で一番地価の高いホール!
と思うと、運ぶ足取りも少しエレガントに…と心がけてしまうのは私だけだろうか。
このホールはとにかく稼働率が高い、という印象がある。
三越裏手から東銀座に向かうこの界隈は、美味しいご飯やさんがたくさんあり、若かりし頃によく訪れた。
ホールの前を通るたび、いつも何かしら催しが行われており、「またなんかやってるな」と思った記憶がある。
ホールの中に入ったのは今回が初めて。
ステージの形、天井の高さ、客席の奥行き、座席の配置。トータルバランスが素晴らしく、始まる前から良質な音への期待が高まる。
今回は中一の娘を連れてきた。
一度コウさんの生演奏を聴かせたいと思っていたのだが、学校の行事と重なる、前日に熱を出す、等々が重なり、今回ようやく実現した。
「素敵なホールだね」
娘も周りを見回しながら言った。
ゲーム音楽やボカロのオケコンが好きな彼女は、サントリーホール、オペラシティ、パシフィコ横浜など、大ホールの常連。
演者と観客の距離感が近いこのホールで、その瑞々しい耳と感性で、今日は何を感じてくれるのだろう?とても楽しみになった。
ピアノはSTEINWAY。
録音録画機材がたくさん置かれている。
コウさんは登録者数10万人超えのYouTuberでもあり、未発表曲5曲を含む今回の公演の様子がアップされる可能性に心が躍る。
■プログラム&レビュー
未発表曲を含むオリジナルあり、クラシックあり、寝る💤時間ありの豪華プログラム。
オリジナルを軸に、自由自在にプログラムが組めるピアニストさん。だって何でも弾けるから。他に類を見ない。本当に強い。毎回言うけれども。
さぁ、レビューです。
今回は娘の感想なども織り交ぜながら、印象的だった曲や場面をいくつか書いてみます。
おかえり
今年5月、初の仙台公演にて、初めて触れたピアノで弾いた即興曲。
私は以前コウさんに「ある一台のピアノに初めて触れてから、仲良くなっていく様子を動画にできませんか?」とリクエストしたことがある。
それが叶ってのことなのかは定かではないが、仙台での「初めの一音」から、この「おかえり」が生まれた。とても感慨深い一曲だ。
初めて生で聴いた「おかえり」
実家の縁側に揺れる木漏れ日のような、優しいぬくもりが感じられた。
ノクターン第2番
「普通に弾いてもつまんないと思うんで」
きたきた、コウさんだからこその展開!
冒頭から原曲が美しく流れ、ピロピロピロ(←伝わらなかったらすみません)の手前で一旦止まった。くるぞ、くるぞくるぞ…
キターーーッ!!華麗なジャズアレンジ。
MCでは「ジャズワルツ」とおっしゃっていたかな?こんなカッコいい9-2、ショパンもびっくりですよ!
しばらくジャジーな世界へ誘われた後、ピロピロピロを挟んでまたクラシカルな演奏に戻ってきた。実に見事な構成。
終わりをどう締めるのか楽しみに聴いていると、最終和音のみをまたジャジーに鳴らした!
にくい!思わずフゥゥッ!とか言ってしまった。
夢 - 左手のための
「右手が動かなくなる夢をみて…」作った曲とのこと。
左手のみで演奏される舘野泉さんのリサイタルに、娘と一緒に行った時のことを思い出した。
片手で演奏するからこそ、曲のデュナーミクや音の質感が際立つことがある。コウさんが作ったこの曲は、まさにそれを感じさせた。
いつか楽譜が発売されたら、左手のトレーニング用として弾いてみたい。美しい曲で練習ができることは最高の喜びだから。
想い
本当にもう毎回書いているのだが、私はこの曲が世界で一番好きだ。我慢できるように身構えておかないと、心が震えて涙が溢れてしまう。
今回は私にとって一番の「想い」の対象である、娘が横にいる。彼女のためならば、自分の命や財産など簡単に差し出せる。子どもとはそういう存在。
娘が生まれた日のこと、幼稚園の小さな上履き、小学校の運動会、今横で揺れている柔らかい髪。コウさんの演奏と共に想ってしまい、鼻の奥がツーンと痛くなった。やばい、ハンカチハンカチ…
song
観客が歌で参加するこの曲。
↓この動画を、予め娘に見せておいた。
動画を見せた時は「ふぅん」という反応だった娘だが、実際にコウさんの伴奏を目の前にすると、
「は〜れの日に〜歌を歌う〜♪」
パンフレットに載っている歌詞を見ながら、大きな声で歌い出した。
私が歌詞を見ずとも歌えることを知るや、「うわやば、猛者だ」の一言。なんというか、言葉のチョイスが完全に女子中学生のそれだ。
休憩に入り、娘からパンフレットを受け取ろうとすると、「今の曲、学校で合唱したら綺麗かも!」と言うので、「音楽の先生にプレゼンしてみたら?」と言っておいた。彼女はクラスの合唱伴奏を任されているので、提案が通る可能性がある。ここはひとつ頑張ってもらいたい。
ノクターン第8番
ここで、前回レポした、オペラシティ公演でのノクターン第20番の記述を引用したい。
ノクターン8番って言ってた、私!
クイズに正解したような気持ち。ばんざい。
ノクターンの中で8番が一番好きなのだが、YouTubeコメント欄のリプライによると、なんとコウさんもお好きとのことだった。
過去のハクジュホール、マリーコンツェルトなどのレポで、コウさんのショパンの魅力について触れたことがあったが、やはり今回の8番にも同じ感想を持った。
・過度なルバートや和音ずらしがないこと
・難しい部分こそ一音一音丁寧に弾くこと
・常に一定の拍感を失わないこと
コウさんのショパンは耳が心地良い。
寝る💤時間
「眠っちゃうような時間があってもいいかなと思って」きたきた、今回は何の曲で寝かされるのだろう。
この時間を初めて迎える娘は、「何?なんか台持ってきた!」「あ!暗くなった!」「わ、なんだあの光!?」と、演出に興味津々。
流れてきたのはMoon River。やられた。
客席のざわめきが徐々に静まり、ピアノの音とランタンの光だけが空間を包みこんでゆく。
最近多忙で疲弊している心身がふわふわと浮き上がるような感覚。あぁこれは寝てしまうかもしれない…半分意識が飛び始めた。
↓先日アップされた動画
もはや寝かしつけの人間国宝
深緋色 → エチュード第12番「革命」
「おはようございます」
コウさんの声で意識が戻った。
会場は朝を迎えていた。
深緋色が始まり、冒頭部分の音量に驚いた娘が、一瞬ビクッと座席から浮き上がった。寝る💤時間からの深緋色、まぁそうなるよね、と、笑いをこらえた。コウさんの起こし方よ。
空に紅い爪痕を残す夕陽のエネルギーを音に蓄えたまま、MCを挟まずに革命のエチュードが始まった。会場が紅く赤く燃えるような感覚に陥る。
この革命のエチュードをはじめ、幻想即興曲、バラード2番など、娘が愛するショパンの曲は激しめなものばかりだ。目をまんまるにして、コウさんの革命に釘付けになっている様子だった。
そらへ → 生きる
未発表曲「そらへ」
この曲を作るに至った経緯、想いなどを語るうちに、コウさんの声に変化が現れた。
そうか、そんな背景があって、以前「演奏したくない曲」とおっしゃっていたんだな。合点がいった。
まさに「そらへ」向けて演奏されるこの美しい曲は、観客の私たちの涙腺も刺激してきた。
かけがえのない大切な存在を失った経験は、きっと誰しもある。2列前におられた、おそらく人生の大先輩は、ハンカチをずっと目に当てておられたし、周りのあちこちからすすり泣く音が聞こえた。
MCを挟まずに「生きる」が始まった。
「そらへ」からの「生きる」
音に宿るメッセージと説得力が凄まじい。
どんなに辛いことがあろうと、私たちは生きていかなければならない。前を向いて。
またいつか
ライブ配信にて、視聴者と一緒に作った名曲。
ついこの間のように思うが、これに詞をつけて、もう今回のパンフレットに刷られていた。なんて仕事が早いんだ!
コウさんのリサイタルは、えーもう終わっちゃうの!?という喪失感が少ないのが特徴だ。
あっという間ではあるのだが、オリジナルあり、クラシックあり、カバーあり、MCあり、寝る💤時間あり、歌う曲あり、観客の私たちも良い意味で忙しく、やりきった感が生まれるためと思われる。
次回の約束をほんのり期待しながら、ラララと歌いながら、この「またいつか」で爽やかにお別れ。素敵な締めくくりだと思った。
無題 [アンコール]
前回ツアーファイナルの、北海道をテーマに作られたという曲。タイトルが正式に決まっていないそうで、Googleフォームにて案を募集するとのこと。
コウさんはこのように「曲にタイトルを付けてください」「ツアー名を予想してください」といった問いかけをしてくることがある。言葉を扱う物書きの端くれとして、これが実に楽しいのだ。
演奏が始まり、目を閉じて、曲にじっくりと耳を傾けてみると、ある漢字が二つ浮かんできた。色と自然現象の組み合わせ。
終演後に娘の発想を聞いてみると、彼女がイメージしたのは星空だった。へぇー、違うもんだ!
帰宅してパンフレットを確認してみると、コウさんのイメージとしては「北海道の空や広大な大地」とのこと。
あれれ、そしたら私たちの案はちょっと合わないかな。まぁいいか、送ってしまえ。ポチッ
■まとめ
先ほどもチラッと書いたが、コウさんのリサイタルには、観客の私たちにもやりきった感が生まれる。
娘に全体の感想を聞いてみると、「ずっと静かに聴いてなきゃいけないピアノは疲れるし、なんかいつもお腹痛くなるんだけど、コウさんのは楽しくて好き。また来たい!」とのこと。子どもの忖度なき素直な感想、これが全てではないかと思う。
コウさんの公演スタイルとか、魅せ方とか、そういったものが、年々少しずつ進化しながら着実に確立しつつあるな、と実感したリサイタルだった。今後のご活躍がますます楽しみだ。
王子ホールという、格式高い場所での公演開催、本当におめでとうございました。
■おまけ (その他 娘の雑感🐥)
・大きい音と小さい音の差が魔法っぽい
・いろんな低音が出てびっくりした
・コキヒイロはピアノも絶対びっくりしたよ
・おしゃべりしながらコード弾くのバチクソかっこいい
・パッパ(父)より年下なのに足つるの心配
・コウさんYouTuberっぽくない
(たぶん良い意味)
・イケボ
・パッパより年下なのに威圧感ある
(オーラと言え)
・「ピアノやってる?」って話しかけられて嬉しかった!
・行った場所とか気持ちを曲にできるのすごい
・作曲してみたい → 帰宅後すぐにピアノに向かって何かやり始めた
というわけで…個人的主観満載の記事、最後までお読みいただきありがとうございました。