アブラカレイ

物心つく頃からパチンコに依存し、家を空けていた父は気まぐれに手料理を振る舞うことがあった。

好きな具材だけ入れてこれでもかと炒めた男らしさ溢れるメニューの中に、アブラカレイがあった。もちろん男飯なもんで味付けして焼くだけだった。

廃棄前のコンビニ弁当やスーパーの巻き寿司や近くで買うマックも好きだったが、単純でメニュー名のつけようもない父の手料理が好きだった。

20歳のときに私は両親に愛想をつかして最低限の荷物を持って失踪したのだが、たまに父の料理が恋しくなっていた。

ある日私はあの白くて脂っこいアブラカレイの味が忘れられず、Googleで検索をした。
アブラカレイの名前をずっと知らなかったからだ。

「魚 白身 脂っこい」

すぐにヒットしてコレだ!と嬉しくなったのと同時に虚しくもなった。

普通の親子ならば、現代ならばLINEで

「お父さん、昔よく焼いてた白くて脂っこい魚、なんて名前なの?」

と連絡すればいいだけだ。

しかし私たち親子は会話ができない。
対面ですら会話ができなかったから私は失踪することを選んだ。

でも何度か考えた。父にメールを送ろうか、これをきっかけにまた歩み寄れないか、と。
その度に過去に父にされたことをたくさん思い出した。辛いことをたくさん思い出した。
そうしたらメールを送ろうなんて気持ちはスーッと消えていった。


先日、いくら探しても見つからなかったアブラカレイが業務スーパーで見つかった。

「お父さん、アブラカレイの味付け、どうしてた?」

またメールで聞きたくなった気持ちを抑えた。

冷凍だったので解凍して見よう見まねで、あの時は真っ白だったから味付けは塩と胡椒のみか?と考えながら何度か調理したら意外にあの時の味をなんとなく再現出来た。

でも食べ終わった少し油の浮いたお皿を眺めていたらまた虚しくなって泣いてしまった。
私はまた業務スーパーに行ったらアブラカレイを買うだろう。

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