幕末三姉妹18
ラジオドラマ脚本・第十八話(全二十話)。
(脚本が苦手な方はスルーしてください!)
幕末の流れを面白くわかりやすく、を目指したドラマです。
このドラマを書いた時は、まさかこの国でまた万国博覧会が話題(問題)になるとは思っていませんでした。が、ここにUPしはじめた現在、万博をめぐっていろんなことが起きていますね。おお、偶然のシンクロニシティ!
このドラマの最後はいつも、「幕府崩壊まであと*年」で締めています。ドラマも終盤に入り、タイムリミットはいよいよ一年を切ります。
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痛快、愉快! 奇想天外時代劇!
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幕末三姉妹
第十八話「京都、江戸、パリ、虚虚実実」(1867年)
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【登場人物】
(日和見藩)
星姫
凛姫
弓姫
立花慎之介
日和見忠典(ひよりみ・ただのり)
じい(左右田頼母)(そうだ・たのも)
桂小五郎
西郷隆盛
徳川慶喜
レポーターとか声とか薩摩男とか天皇とか将軍とか…
N(ナレーション)
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TM CI~BG
N 「タイトル・クレジット」
M (フランス国歌)CI~BG
N 慶応三年…というよりも西暦1867年。この年四月。パリで「万国博覧会」が開かれた。
レポーター ボンジュール! こちらは、花の都・パリのセーヌ河畔。「エキスポ1867」、第二回パリ万国博覧会の会場です。
今回の参加国数は42カ国。その名の通り、世界の国からこんにちは…と世界中から珍しい品々が集まっています。
中でも今回の目玉は、東洋から初参加の「日本」です。ちょっと、そのパビリオンを見てみましょう。
SE 人ガヤ(フランス人)~BG
レポーター おお! トレビアン! なんと小さく、美しい女性たちでしょう! ボンジュール、マドモアゼル!
女性たち(3人) 「こ、こんにちは」「ぼんじうる」「ようこそ」
レポーター 彼女たちは、エド・ヤナギバシの「マツバヤ」という店から来た踊り子たちです。「かね」さん、「すみ」さん、「さと」さんです。実に美しい、カフェ・オレのような肌の色をしています。
ここに展示されている絹織物、版画、扇子、フィギュア…といった日本の美術品が大人気! いまフランス中に、「わび・さび・もえ」の日本ブームがおきています。もう少し、先に進んでみましょう。
(SE ~FO)
え~……おや、こちらは? 「日本国・薩摩パビリオン」?
ん? さっきのは、「日本大君パビリオン」? これは、一緒ではないんですか?
薩摩男 違いもす。
レポーター ムッシュも日本人ですか?
薩摩男 そうでごわす。
レポーター オオ! 日本には、政府が二つあるんですか!?
N このパリ万博には、幕府とは別に、薩摩藩、佐賀藩も出品していた。とくに薩摩藩は、わざわざ「日本薩摩政府」と名乗り、デッチあげで勲章まで発行。現地メディアには、「薩摩政府は、幕府政府と同格である」というパブリシティーを行った。
これによって、ヨーロッパでは、
「日本を代表する政府は、幕府とは言い切れないようだな」
という疑惑が広まった。薩摩藩による情報戦の、完全なる勝利だった。
M コーダ
N そもそも、「幕府が日本を治める」とは、どういうことか? つまり、こういうこと。
SE 大太鼓ドン
(エコー)
将軍 わしが徳川将軍じゃ。江戸に幕府を開いたぞ。
島津よ、お前は薩摩を治めろ。毛利、お前は長州。井伊、お前は彦根だ…
N …家康が幕府を開いて以来ずーっと二百五十年ばかり、こういうものだと、みんなが思っていた。しかし、幕末になって、水戸藩あたりが
「いや、その上にもう一つあるんじゃないのか?」
と言いはじめた。つまり、こういうこと。
SE 大太鼓ドン
(エコー)
天皇 朕が天皇じゃ。徳川よ、お前に将軍の座を与える。幕府を開いていいぞよ。
将軍 ははっ。ありがたき幸せ。
…ということで、わしが徳川将軍じゃ。江戸に幕府を開いたぞ。島津よ、お前は薩摩を治めろ。毛利、お前は長州。
N …これが、幕末を貫く「尊王思想」。つまり、偉いのは朝廷で、幕府ってのはその家来だということ。たしかに、仕組みとしてはそうなんですね。ただ、これまで徳川が武力も財力も圧倒的に強かったから、そう思わなかっただけ。
しかし、外国に揺さぶられて徳川がふらふらしてくると、他の大名が、
「あれ? これもまた、ちょっと違うんじゃないか?」
と言い始めた。
つまり、こういうこと。
SE 大太鼓ドン
(エコー)
天皇 徳川よ、お前に将軍の座を与える。幕府を開いていいぞよ。
将軍 ははっ。ありがたき幸せ。
天皇 ということにしたから、島津も、毛利も、ほかのすべての大名も、徳川に従うように。
N …つまり、各藩の大名も、朝廷の家来ということでは同じ。たまたま、圧倒的に強い徳川に従っているだけ、という理屈。だから、徳川の十五代将軍・慶喜が、
慶喜(エコー)大名たちは私に従え。
N と言ったところで、長州の桂小五郎など、
桂(エコー)朝廷になら従うけど、徳川に従う筋合いはないな。
N であり、薩摩の西郷ドンなど、
西郷(エコー)むしろ、徳川が間違っている場合、そいを正すのが我々の務めでごわす。
N という気持ち。ここで、幕府対薩長の対立が生まれたわけだ。この薩長に一歩リードされて、面白くないのが、土佐藩。坂本龍馬という人材を生みながら、彼は脱藩しているので、藩としてのアピールがいまいち。
そこへ、龍馬から後藤象二郎を通じて、土佐の山内容堂に、ウルトラCのアイデアが届けられたのだ。
M コーダ
N さっそくその情報を得た日和見藩では…
弓姫 「船中八策(せんちゅうはっさく)」?
星姫 船の中の、八つの策、ね。
凛姫 龍馬さんが船の中で考えたんだって。
じい あの男は、船が好きですからなあ。
日和見 わが日和見藩には「日和見八策」という家訓がある。そこからのパクリか?
じい あの男ならパクリかねません。
星姫 なにが書いてあるの?
弓姫 えーと、読むわね。「天下の政権を、朝廷に奉還(ほうかん)せしめ…」
N これはどういうことかというと…
SE 大太鼓ドン
(エコー)
天皇 徳川よ、お前に将軍の座を与える。幕府を開いていいぞよ。
慶喜 ははっ。ありがたき幸せ。しかし、もう二百六十年も預かってきましたので、ここでいったん、政権を朝廷にお返ししましょう。
N …ということ。つまりこれが「大政奉還」。
凛姫 なるほど。徳川様も、ただの一大名になるというのね。
星姫 薩摩とか長州とか土佐と同じ?
凛姫 そう。
弓姫 日和見藩とも同じ?
凛姫 同じね。ただ、大きさが違うけど。
じい わが日和見藩は三万石ですが…
日和見 徳川家は、ざっと…八百万石かな。
星姫 違いすぎ!
弓姫 続きを読むわね。「上院と下院を設け、ここで政治を行う。上院は大名会議。下院は各藩からの人材を登用する」
日和見 ほう。そうすると、わしは「上院議員」ということになるのか?
じい そうでございます。
日和見 なんか、カッコいいな。(議長の読み上げ風に)「上院議員、日和見忠典くーん」…なんて。
凛姫 これはいいわ! だってこれなら、薩長と徳川が戦をする理由がなくなるもの。同じ日本の中で、殺しあうのはもうたくさん!
N と凛姫は喜んだ。しかし一方で、この考えをこころよく思わない連中もいた。しかも、意外なことに、三姉妹のすぐ近くに。
M ブリッジ
SE フクロウ~BG
桂 龍馬も、余計なことをしてくれましたな、西郷さん。
西郷 そうでごわんな、桂さん…あ、いまは改名して木戸さんでごわしたか。
桂 名前なんて、なんだっていい。
N 場所は、京都郊外・岩倉具視の隠れ家。明治維新というのは、長年しいたげられてきた外様大名や下級武士たちの反乱だ。それは武士だけでなく、京都の公家においても同じだった。長年冷や飯を食わされてきた下っ端公家の岩倉具視が一枚かんで、薩長と共に謀議をめぐらす。
桂 龍馬の亀山社中は、海援隊と名前を変えて、
西郷 わが薩摩の傘下ではなく、土佐の傘下に移りもした。
桂 それで土佐の容堂公にこの案を出したわけだな。
西郷 容堂公はこれを幕府に持っていくというが…
桂 慶喜は、大政奉還の案を呑むかな。
西郷 普通なら、呑みもはん。じゃっどん、あン男なら…
桂 呑むかもしれんな。この、二番目の「上院・下院」。ここは別にいいのだが、このまとめ役に徳川慶喜を…という考えのようだ。
西郷 そうなると、徳川家には、失うものがほとんどありもはん。ただ、名目上の政権を朝廷に返すだけ。
桂 むしろ、やっかい払いできてせいせいした…とあの男なら思いかねん。
西郷 困ったこつでごわす。すでに、木戸さんとの「薩長同盟」に加え、土佐との同盟、広島・芸州との同盟もなっておりもす。こん勢いで一気に徳川を討つ! というつもりじゃったが…。
N 権力は、戦って勝ち取るべし――というのが、薩長の考え。
やんわりと禅譲などされても、時代は変わらないのだ、と。
桂 どうする?
西郷 どうしもすか。
桂 徳川が大政奉還をしてしまう前に、先手を打たなければ。
西郷 「徳川は朝敵なり。討つべし!」という勅を出してもらえれば、こっちから動けるんじゃっどん。
桂 出せるかな、岩倉さん?
N ずっと黙って話を聞いていた、根っからの陰謀家・岩倉具視は、にやりと笑ってうなづいた。
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