幕末三姉妹19

ラジオドラマ脚本・第十九話(全二十話)。
(脚本が苦手な方はスルーしてください!)
幕末の流れを面白くわかりやすく、を目指したドラマです。

ラス前です。ここに来て、たぶんこのドラマ中はじめての、日和見忠典の見せ場です。「そんなアホな…」と思うかもしれませんが、ナレーションにもあるように、このウルトラCは実際にあったのです。
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痛快、愉快! 奇想天外時代劇!
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幕末三姉妹
第十九話「日和見、うるとらC」(1868年)
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【登場人物】

(日和見藩)
星姫
凛姫
弓姫
立花慎之介
日和見忠典(ひよりみ・ただのり)
じい(左右田頼母)(そうだ・たのも)

西郷隆盛
天璋院(篤姫)
徳川慶喜

N(ナレーション)
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TM CI~BG

  「タイトル・クレジット」

  時は慶応三年十一月。ひと月前に「大政奉還」はしたものの、徳川慶喜は、

慶喜(エコー)世間知らずの朝廷に、なにができる。

  と思っていた。なにしろ朝廷は、
財力は…、わずか数万石しかない。
人材は…、浮世離れした公家ばかり。
兵力も…、持っていない。

慶喜(エコー)いったいどうやってこの国を運営するつもりなんだ?

  雄藩の連合政権になれば、「依然として日本最大の大名である徳川家を、無視できないはず」と、慶喜は思っていたのだ。
ところが、敵もさるもの。

SE 大太鼓ドン

  十二月九日。薩長と岩倉具視によって、いきなり、「王政復古」の大号令が出された!

M  のんき~BG

弓姫  ねえ、「王政」って何? 日本に王様、いたっけ?
日和見 天皇のことだな。
じい  天皇が直接政治を行うということです。
日和見 つまり、摂政とか関白も置かず、幕府もなくすってことだ。
凛姫  幕府が無くなっちゃうの!?
星姫  じゃ、徳川慶喜様はもう将軍じゃなくなるの?
日和見 …(ため息)。そういうことだ。

   慶喜は、一年前、京都で将軍になり、今また、京都で将軍職を解かれた。江戸幕府最後の将軍は、結局一度も江戸城にいなかったのだ。
この時を、「幕府崩壊」とするのも、正しい。しかし、実はまだ、世の中、どう転ぶかわからない状態なんです。
なので、物語はもう少し、このまま続いていく。

弓姫  ええと、「復古」っていうのは、昔に戻るってことよね。
じい  はい。ですから、「王政復古」とは「摂政も関白も将軍もなく、天皇が直接政治を行っていた昔に戻る」というわけでございますな。
凛姫  それって、どのくらい昔なの?
日和見 う~ん……、一番近いところで、「建武の新政」かのう。
星姫  建武っていうと…
日和見 五百年ばかり昔だな。
三姉妹 五百年前!?
凛姫  そんな昔に戻るっていうの?
じい  しかし、あれはわずか数年で終わった「王政」ですから…
日和見 その前だと…平安時代の初め頃かのう。
星姫  というと?
日和見 千年ばかり昔だ。
三姉妹 千年前!?
弓姫  そんな昔に戻るの?

   いえいえ。それどころか、王政復古の文章には、「神武天皇の時代に戻る」と書かれてるんです。てことは、神話の時代。
神話を信じるならば、二千五百年昔に戻るってこと。

三姉妹 二千五百年前!?
凛姫  …それって、本気で言ってるの?
日和見 いや、まあ、心意気だろうがな。
じい  それより、注目すべきは「王政復古新政府」の陣容です。有栖川(ありすがわ)様はじめ公家衆はいいとして、大名からは、薩摩の島津様、土佐の山内様、越前の松平様などが入っていますが…、徳川慶喜様の名前がどこにもございません。
星姫  ということは?
日和見 これは「徳川家を締め出す」のが、目的なんだろう。
凛姫  いじわるねえ…。

   京都・二条城の、慶喜率いる幕府軍は、この知らせを聞いて、沸騰した。

男どもの声 「薩摩、討つべし!」「討つべし!」「戦だ!」「開戦じゃ!」~などBG

慶喜(モノローグ)いかん。ここで暴発しては、向こうの思う壺だ。

   兵士たちをなだめつつ、それを率いて、慶喜は大坂に下った。「都落ち」――であった。

M   コーダ

   数日後。凛姫は京都の薩摩藩邸に駆け込んだ。

凛姫  西郷さん、ひどいじゃないですか!
西郷  おお、これは凛姫様。
凛姫  王政復古で徳川家を締め出しただけじゃなく、さらに土地も取り上げるんですって?

   新政府は「徳川家の持つ関八州の、土地も人民も差し出せ」と命じたのだ。これはつまり、徳川慶喜を裸にして放り出そうということ。

凛姫  ちょっとやりすぎだと思います!
西郷  そうでごわすか?
凛姫  そうですよ。それじゃ「いじめ」じゃないですか。たとえ慶喜様は我慢しても、長年幕府に世話になった旗本や各藩の武士たちが黙っていませんよ。
西郷  黙っていない、とは?
凛姫  だから、戦になるってこと。
西郷  そいは、面白か。
凛姫  え?
西郷  凛姫様、時代というものは…

M   FI~BG

西郷  …どこかでハッキリと区切りをつけねば、先に進んでいきもはん。誰が勝って、誰が負けたかを、戦争によって日本中に見せつける必要がありもす。
凛姫  では、やっぱり…
西郷  やっぱり?
凛姫  西郷さんはわざと、戦争がおきるよう、相手を挑発してたんですね?
西郷  …そうでごわす。
凛姫  私は反対です。どんな理由にせよ、戦争で人が死んでいくのは嫌です。
西郷  しかし、それが兵士の務め。
凛姫  そんなの勝手です。じゃあ、死んでいった兵士の妻は、どう思えばいいんですか? 母は? 残された子どもは? 女や子どもはいつも、ただ泣くしかないんですか?
それに、戦争に巻き込まれて死んだ兵士以外の人はどうなんです? その妻は? 子どもは? 親は?
西郷  凛姫様は…、お優しか。たしかに、おっしゃる通りでごわす。じゃっどん、こん西郷は「日本を変えるためには、鬼になる」と決めておりもす。もう、あとにはひけもはん。
凛姫  …わかりました。じゃあ、どうしても戦争になるのなら、なるべく犠牲者が少ないように、終わらせて欲しいのです。
西郷  それは、おいどんも異存はありもはん。だが、そげな方法がごわっとじゃろうか?
凛姫  「錦の御旗(みはた)」です。

   解説しよう!「錦の御旗」とは、古来より、天皇が朝敵征伐の大将に与える旗のこと。つまり、この旗を持っている方が「正義」で、相手は「賊軍」となる。賊軍となれば末代までの恥。ゆえに日本人は、錦の御旗を持っている軍には、「へへーっ」とひれ伏してしまうのだ。
ま、要するに、水戸黄門の印籠をさらにパワーアップしたようなもの。

凛姫  「錦の御旗」があれば、戦いは早く終わるし、犠牲者も少なくてすみます。
西郷  それはそうじゃっどん、朝廷にもその実物がありもはん。
凛姫  そう聞いています。なければ、作ればいいのです。
西郷  ところが、「錦の御旗」という名前は有名じゃっどん、いったいどげんなもんか誰も見たことがない。古い本を調べてもどこにも出ちょらんといいもす。
凛姫  そこです。「誰も見たことがない」のなら、「これが錦の御旗だ!」と差し出しても、誰も「それは違う」とは言えないわけでしょ?
西郷  …ふむ。どういうことでごわすか?
凛姫  これを、見てください。

   凛姫が取り出したのは、星姫からもらってきた悪趣味な…いえ、豪華絢爛な図柄の西陣の帯。真っ赤な生地に、金糸銀糸で縫った太陽と月。さらに、青龍(せいりゅう)、白虎(びゃっこ)、朱雀(すざく)、玄武(げんぶ)などの絵柄。

凛姫  どう? …これを使って、「錦の御旗」を作ってしまう。
西郷  なるほど!

   冗談みたいな話ですが、これ、本当。のちに「♪宮さん宮さん お馬の前に ひらひらするのは 何じゃいな?」で有名になる「錦の御旗」は、実は西陣で手に入れた帯生地を、それらしく加工したものだったんです。

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