幕末三姉妹13

ラジオドラマ脚本・第十三話。
(脚本が苦手な方はスルーしてください!)
幕末の流れを面白くわかりやすく、を目指したドラマです。
途中で出てくる長州藩軍勢のシュプレヒコール。当日たまたま稽古に来ていた劇団のみなさんに協力いただいて、声を録音しました。ものすごい迫力の群衆シーンになりました。
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痛快、愉快! 奇想天外時代劇!
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幕末三姉妹
第十三話「京の都の、ほーむれす」(1864年)
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【登場人物】
(日和見藩)
星姫
凛姫
弓姫
日和見忠典(ひよりみ・ただのり)
じい(左右田頼母)(そうだ・たのも)

桂小五郎
西郷隆盛

現地レポーター1(伏見)
現地レポーター2(山崎)
現地レポーター3(嵯峨)

N(ナレーション)
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TM CI~BG

  「タイトル・クレジット」

SE 祇園祭・コンチキチン~BG

  京都の三大祭りは、「葵祭り」「祇園祭り」「時代祭り」。この中で、「時代祭り」は明治になってからだが、春の「葵祭り」と、夏の「祇園祭り」は、大変歴史が古い。
現在は新暦だから七月にあたるが、当時の六月五日。「祇園祭り」の宵山の日に、その事件はおきた。
時は、元治(げんじ)元年。場所は――、京都三条の旅籠・池田屋。

SE 戸をドンドンと叩きながら~BG

声1(OFF)開けろ!
声2(OFF)宿改めだ。
声1(OFF)京都守護職配下、新撰組だ。
声2(OFF)開けろ、開けんか!

M  (いさましい)CI~BG

  前の年。薩摩と会津を中心とした勢力によって、長州藩の人間は、のきなみ京都から追い出されていた。
それから、間もなく一年。長州を中心とした尊王攘夷の志士たちは、ふたたび、ひそかに、京都に潜入しはじめていたのだ。それを察知した新撰組が、秘密会合が開かれる池田屋を襲った。これが、世に言う「池田屋事件」!

M  ~FO

日和見 なんでも、多くの志士たちが殺されたそうじゃ。
じい  踏み込んだのは、新撰組。
凛姫  ということは…、私を連れ去った壬生浪士隊ね。
弓姫  あの人たちなら、ひどいことしそうだもの。
星姫  でも、いまは会津藩の預かりよ。
日和見 京都守護職が後ろについておる。
じい  だから、始末に困るんです。

   日和見藩の京都藩邸は、池田屋事件の噂でもちきり。

日和見 なんでも、現場で「銀ちゃ~ん!」という声が聞こえたらしい。
弓姫  銀ちゃんって?
凛姫  犠牲者の名前じゃないの?
星姫  そんな人、いたの?

M   (のんき)~BG

日和見 じい、池田屋事件での犠牲者は…
じい  長州藩の吉田稔麿(よしだとしまろ)、杉山松助(すぎやままつすけ)…
凛姫  「銀ちゃん」じゃないわね。
星姫  桂小五郎さんは?
じい  たまたま遅刻したおかげで、難を逃れたとか。
日和見 ついとるのう、あの男。
じい  他の犠牲者は、肥後藩の宮部鼎蔵(みやべていぞう)、土佐藩の望月亀弥太(もちづきかめやた)…
凛姫  ここも「銀ちゃん」じゃない。
弓姫  じゃあ、新撰組の人の名前じゃないの?
日和見 このとき襲った新撰組は…
じい  近藤勇、沖田総司、永倉新八…あと、遅れて土方歳三。
星姫  やっぱりいないわよ、銀ちゃんなんて。
日和見 おかしいのう。たしかに聞いたというんだが…。
弓姫  父上、その情報、たしかなの?
日和見 うむ。あと「ヤス!」という声も聞こえたというんだが…
凛姫  「ヤス?」
じい  ええと、他の犠牲者は、土佐藩の北添佶麿(きたぞえきつま)、播州林田(ばんしゅうはやしだ)藩の大高又次郎(おおたかまたじろう)…
星姫  「ヤス」なんて人もいなわよ。
日和見 へんだのう…。あ。あと「小夏」という名前も…

   天国のつかこうへいさん、ごめんなさい。

M   ~UP~FO

   去年の「八月十八日の政変」では薩摩と会津に追い払われ、今回の「池田屋事件」では、会津の配下・新撰組に蹴散らされる。こうして長州の消えた京都は、一気に公武合体派が盛り返してきた。

日和見 やっぱ、公武合体じゃな。
じい  御意。
日和見 尊王攘夷なんて、無理無理!
じい  御意御意!

   と簡単に宗旨替えをしてしまうのが、日和見藩。

星姫  では父上、以前みんなで「長州についていく」と決めたのは?
日和見 うむ、あれは間違いであった。
じい  はて、殿。そんなこと決めましたかな?
凛姫  え? 決めたじゃない。
弓姫  そうよ。私が「どちらにしようかな…」って、やって。
じい  さあ…。年のせいか、じいもめっきり記憶があいまいになりましてのう…。わが藩は最初から、「薩摩についていく」と言ってたような気が。
日和見 おお、たしかにそうじゃ。だんだん、そうであった気がしてきたぞ。
星姫  そんなあ…。

   じゃあ、振り返ってみましょうか? 逆回転!

SE   ※巻き戻し音キュルキュル~

    ストップ!

※フィルター音で再生。今日の冒頭「開けろ」「宿改めだ」のあたり。

    あ。これはまだ今週ですね。もっと前。先週分に戻って。

SE   巻き戻し音キュルキュルやや長く

   このへんかな。ストップ!

※フィルター音で再生。星姫がお風呂でくしゃみしてるとこ。

日和見 お、ここかな。
じい  ここですな。
日和見 ちょっと聞き取りにくかったな。
じい  もう一度、聞いてみましょうか。

※もう一度再生。それにかぶって…

星姫  ちょっとお、なんでそこばっかり!

   これは戻しすぎでしたね。では、もうちょっと手前を。

SE  早送り音キュルキュル

   このへんでしょう。ストップ!

※フィルター音で再生。
弓姫  そうなの? じゃあ…、ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な…(と選び、最後ののあたりは、しだいにゆっくりに)…い・・う・・と・・・お・・・・り。長州!

星姫  ほら、やっぱり長州って決めてるじゃない。
じい  おかしいですなあ…。では、もう一回やってみましょう。
凛姫  弓、やって。
弓姫  うん。ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な…(前回と同じく、最後は、しだいにゆっくりに)…い・・う・・と・・・お・・・・り。やっぱり、長州。
じい  (コホン、コホンと咳払い)…あ~、弓姫さま…
弓姫  え?
じい  そこで終わりですかな? もうちょっと続きがあるのでは?
弓姫  ・・・な・・・の・・・よ。…薩摩?
日和見 ほ~ら、やっぱり薩摩だった。
じい  ですな。
日和見・じい (笑い合う)

   まあ、大人の知恵というか、これぞ「日和見力」というか。とりあえず、日和見藩の藩論はこれでおさまった。
しかし、おさまらないのは長州藩。

SE  大太鼓ドン

   「もう一度京都に返り咲きたい」とあせる長州藩は、京都の郊外三ヶ所に続々と兵力を送りはじめたのだ。

M   報道番組アタック

   では、今回は三元中継で、現場の様子を聞いてみましょう。まずは、伏見の**さん!

SE  デモ隊(現代の)~BG

(トラメガ)長州は~、悪くない~
群集    悪くない~
(トラメガ)長州を~、都に~、入れろ~!
群集    入れろ~
(この繰り返しを~BGにして)
レポーター1 こちらは京都の南・伏見の長州藩邸です。現在、家老・福原越後(ふくはらえちご)を中心とした過激分子が、
「長州は悪くない」
「御所に入って、事情を説明させてほしい」
と必死に訴え、シュプレヒコールを続けています。
では、もう一つの現場・山崎を呼んでみましょう。山崎の**さ~ん!

群集  「薩賊会奸(さつぞくかいかん)!」「薩賊会奸!」……
「尊王攘夷!」「尊王攘夷!」……
(「安保反対!」のリズムで、二つのフレーズが交錯~BG)

レポーター2  こちらは、京と大坂の境目と呼ばれる山崎です。古くは天正十年、明智光秀を羽柴秀吉が討った「山崎の戦い」があった場所。今回もまた、歴史の大きな節目に立ち会おうとしています。
現在、ここ山崎の宝寺(たからでら)では、久坂玄瑞をはじめとした デモ隊が、薩摩藩と会津藩への恨みをこめた「薩賊会奸(さつぞくかいかん)」という言葉を叫んで、気勢をあげています。
では、次の現場を呼んでみましょう。嵯峨の**さ~ん!

SE   鐘の音ご~ん~BG

レポーター3 こちらは京都の西。嵯峨・天龍寺です。足利尊氏が創建し、初代住職は夢窓疎石という京都五山の一つです。
この鐘の音は、「行く年来る年」ではありません。長州藩家老・国司信濃(くにししなの)や、来島又兵衛(きじままたべい)たちの率いる部隊が、戦いの勝利を祈って打ち鳴らしているようです。
静かな中にも、一触即発の不気味さを秘めている現場です。

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