幕末三姉妹2(テキスト&PDF)

ラジオドラマ脚本・第二話です。
UPの仕方についてはまだ模索中です。今回は、横書きテキスト版の最後に縦書きPDF版をつけてみました。
脚本の読み方については、こちらをご覧ください。

架空の主人公による歴史モノには、二つのやり方があります。
1)歴史上の有名人となぜかよく出会い、かかわりを持つ。
2)歴史上の有名人と直接はかかわらない。
一般に、1)の方がエンタメとして面白いが「そんなに都合よく出会う?」と批判されやすい。2)は地味になるが「ストイックである」と評価されることもある。
このドラマでは、1)で行くことに決めました。だってエンタメで面白い方がいいですからね。

ただしここで重要なのは「史実を曲げず、その隙間を狙う」ということ。「面白けりゃいいだろう」と史実を都合よく曲げてしまう作品にはしたくなかったんです。とくにコメディだとやりがち。
そうはならないよう、わりと強く意識しました。史実と史実の間にある空白を使うやり方ですね。私はこれまで歴史本を何冊も書いてきましたが、いざ物語に落とし込もうとすると、「この距離の移動は時間的に可能なのか?」とか「歴史上の人物の考え方は変化するが、この時点ではこれでいいのか?」など細かい点が曖昧だったことに気づきました。
たいへん勉強になりました。

***
痛快、愉快! 奇想天外時代劇!
幕末三姉妹
第二話「ぐろうばる・すたんだーど」(1854年)
***********************
【登場人物】
(日和見藩)
星姫
凛姫
弓姫

日和見忠典(ひよりみ・ただのり)
じい(左右田頼母)(そうだ・たのも)
立花慎之介

若き吉田寅次郎(松陰)

競馬中継アナウンサー

N(ナレーション)
***********************
TM CI~BG

  「タイトル」

TM ~FO

  江戸・高輪台の日和見藩・藩邸では…

弓姫 連れてって! 連れてって、連れてって、連れてって~~~~!

  と、三姉妹の末っ子・弓姫が駄々をこねていた。

M  (弓姫のテーマ)~BG

じい  殿、弓姫様があのように…
日和見 ううう…困ったのう。
弓姫  ね、ね、すごい乗り物があるんだって。珍しいものがいっぱいあるんだって。見てみたい、行ってみたい! 父上、連れてってえ!

   どこの家にでもある、休日の父親と子どもの光景。しかし、まだディズニーランドはできていない時代ですが、一体どこへ連れてってほしいのか?

弓姫  連れてって、連れてって、連れてって~~~~!(ジタバタ!)
日和見 弓姫は子どもの頃から、言い出したらきかなかったからのう。
星姫  ていうか、弓はまだ子どもだけどね。
じい  どうか、星姫様からもご説得を。
星姫  無理よ。ね、凛姫?
凛姫  ええ。こうなったら、弓は手がつけられませんから。
弓姫  ……ねえ、いいでしょ? 父上、連れてってよ、「横浜」に。
日和見 「横浜」なあ…。しかし、横浜なんて場所、今回わしは初めて聞いたぞ。
じい  御意。なんでも神奈川宿のはずれにある、小さな村のようです。

M  アメリカ国歌~BG

  前の年、六月にやってきたペリーが、「デハ、来年戻ってキマース」と去ってから七ヶ月。年明けすぐの一月に、早くも戻ってきた。しかも黒船の数は九隻に増えている!
慌てふためいた幕府は、とりあえずペリー一行を、当時、人家もまばらな横浜村に上陸させ、交渉すること一ヶ月。いま横浜は、江戸の人々にとって興味津々の、異国文化スポットなのだ。

弓姫 ねえ、横浜に連れてって! 遠くからチラッと覗き見するだけでいいから。
じい 殿、遠くからチラッとだけなら、よいのでは?
日和見 う、うむ。まあ、いいか。
弓姫 やったあ! 
星姫 どうでしょう、父上。弓を、その「横浜」とやらに連れていっても、またなにか駄々をこねるかもしれません。
凛姫 そんな時、私たち二人も付き添っていれば、
星姫 なだめることもできます。
日和見 それはそうじゃの。じい。
じい  御意。では、お三方ともご一緒に、横浜に。

(※三人ひそひそ)
弓姫 やった!
凛姫 作戦、成功!
星姫 弓ちゃん、よくやったわ!
弓姫 まかしてよ。あたし、こういうの得意なんだから。
凛姫 楽しみね、横浜。
星姫 煙を吐く乗り物があるんですって!
弓姫 どんなんだろ?
凛姫 馬より早く手紙を送る仕掛けがあるんですって!
弓姫 見たいっ!
三姉妹(口々に)「面白そう」「早く行きたい」「私、何着ていこうかしら」…など

日和見 これ娘たち、なにをごそごそ言っておる?
三姉妹 なんでもありませ~ん!

M   コーダ

  というわけで、日和見藩の三姉妹は、横浜へ。

SE 人ガヤ~BG

  ペリー率いる兵隊は総勢五百名。それに対し、各藩から集められた警備の武士たち。さらに、遠くから近くから、なんとか現場を見ようと集まって来た見物客たちで、横浜はごったがえしていた。もちろん、その中に…

星姫 凄い人の数ね。
凛姫 あれがメリケン人?
弓姫 大きいわねえ。
凛姫 大きいからって強いとは言えないわ。私の薙刀で、エイ、ヤッと。
星姫 また、凛はすぐそういう勇ましい話になるんだから。
凛姫 だって私たちは武士の娘ですよ。いざという時は…
弓姫 あ、お姉様たち、見て見て、あれ!

SE 豆汽車~BG

  ペリー一行は、色々と珍しいお土産を持ってきていた。その中で、日本の侍たちが一番驚き、なおかつ喜んだのが、これ。

星姫 わっ、煙を吐いて走ってる!
弓姫 すごーい! 面白そう! 
凛姫 大人を何人も乗せてるわ! …何なの、あれは?
吉田(24)あれは「すちーむ・ろこもうちぶ」と言うものです。
弓姫 え?
星姫 誰なの、あなた?
吉田 あなた方と同じく、野次馬の見物人です。
凛姫 や、野次馬って…。
吉田 そうでしょ?
星姫 …ま、たしかにそうだけど。
弓姫 だって、珍しい物は、見てみたいもん!
吉田 そう。知らないものは自分の目で見て、確かめてみたい、それでいいんです。私はそう思って、去年黒船が来た時、浦賀に見に行きました。そのあと、長崎にロシアのプチャーチン率いる黒船が来たと聞いて、すぐ見に行った。が、残念ながら、これは間に合わなかった。
そして今回、再びやって来たペリー艦隊を見に来たのです。
弓姫 わかったわ。あなた「黒船ヲタク」ね?
吉田 「ヲタク」?
弓姫 「黒船萌え」なんでしょ?
吉田 「萌え」?
星姫 …ま、それはいいとして、お名前は?
吉田 私、生まれは長州・萩。松本川で産湯をつかい、姓は「吉田」、名は「寅次郎」。

M  (寅さん風ヘンテコ曲)~BG

吉田 現在は脱藩して、今日は東北、明日は長崎、はたまた江戸や大坂と、日本中を学びながら旅しております。
凛姫 まるで瘋癲(フーテン)ね。
弓姫 じゃ、「フーテンの寅次郎」?
吉田 結構毛だらけ、猫灰だらけ、見上げたもんだよ屋根屋のふ……あ、やめておこう。
(M ~FO)

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